“デザイン思考”でITインフラを変革? キンドリルは3つのサービスで企業をどう支援するか

キンドリルは企業のITインフラ高度化に向けた課題を解消するため、長年のノウハウを体系化してサービス群として展開した。組織文化レベルでインフラを改革するサービスの詳細を解説する。

» 2023年01月17日 07時00分 公開
[田渕聖人ITmedia]

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 キンドリルジャパン(以下、キンドリル)は2023年1月11日、オンラインでの記者説明会を開催した。同説明会では、キンドリルが2022年から提供しているサービス群「Kyndryl Bridge」「Kyndryl Vital」「Kyndryl Consult」に関して詳細な解説があった。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)推進を目指す上でITインフラの高度化は喫緊の課題だ。キンドリルはこれをどのように支援するのか。

顧客のITインフラを可視化するKyndryl Bridgeとは?

キンドリルの工藤 晶氏

 はじめに、キンドリルの工藤 晶氏(専務執行役員 チーフ・ストラテジー・オフィサー ストラテジック・サービス本部)は、上記のサービス群の位置付けを紹介した。

 「キンドリルは『ネットワーク』『セキュリティ』『クラウド』『アプリケーション』『メインフレーム』『デジタルワークプレース』の6つの技術領域を強みとしている。これらの領域において、Kyndryl Vitalが実験や試行、体験、教育という共創の場を提供し、Kyndryl Consultで地に足のついたアドバイスに加え、戦略アーキテクチャデザインから解決策支援までを提供する。そしてオープンプラットフォームのKyndryl Bridgeが運用部分を担うことで、顧客に価値を提供する」(工藤氏)

Kyndryl Bridge、Kyndryl Vital、Kyndryl ConsultでITインフラの運用を高度化する(出典:キンドリル発表資料)

 工藤氏はKyndryl Bridgeについて、「当社がマネージドサービスを顧客に提供する際の根幹となるデジタル統合プラットフォームだ。この基盤の上で顧客に新たなテクノロジーや情報を提供し、その中で顧客のITインフラの高度化を支援する。既にグローバルで幾つかのパイロットカスタマーが利用中で、その中でも『統合AI(人工知能)プラットフォーム』といった一部の自動化プラットフォーム機能については日本企業でも利用されている」と語る。

 Kyndryl Bridgeは顧客のIT環境の見える化を促進する。さまざまなシステムのインベントリや課金状況をダッシュボードで表示したり、稼働状況のヘルスインジケーターなど確認したりできる。

ITの見える化を促進する(出典:キンドリル発表資料)

 またKyndryl Bridgeは、全世界のユーザー間で情報を共有し、集約する。AIがこの情報に基づいて顧客ごとに最適なアクションを提案する。これにユーザーが合意すればそのアクションを顧客インフラに自動で適用する。デジタルカタログからは、キンドリルの豊富なエコシステムパートナーのサービスも利用できるようになる。

AIによる推奨アクションを提示(出典:キンドリル発表資料)

最新技術の共創の場を作るKyndryl Vitalとは?

 次にキンドリルの河野正治氏(ストラテジック・サービス本部 キンドリルバイタル事業部長)がKyndryl Vitalについて紹介した。

キンドリルの河野氏

 Kyndryl VitalはITインフラ向けコンサルティングサービスだ。コンセプトは「顧客の複雑なビジネス課題を共創体験を通じて解決すること」で、その中でも、ITインフラにおいて未来志向型のアプローチを取り入れているのが特徴だ。

 河野氏は「Kyndryl VitalはITインフラにおいても人間中心、いわゆるペルソナに基づいたデザイン思考によって、現場の真の課題をひもといて解決策を導くアプローチを採用した。さらに、フューチャー・バック・キャスティングの手法を取り入れて、望ましい未来を描き、そこから『今やるべきアクション』を定義するプロアクティブなアプローチをとっている。これらの現状と未来を見据えたIT戦略策定によって、顧客の将来構想の解像度を高めるのに役立つ」と語る。

 現状のITインフラからさらなる高度化を目指すためには、場合によっては新しい技術の導入が必要だ。しかしこれから検討を始めるテクノロジーに対して『どのベンダーの製品を選べばいいのか』『製品の導入で本当に課題を解決できるのか』など不安になるケースもあるだろう。

 Kyndryl Vitalは、上記のようにこれまで机上検証で評価するしかなく、時間がかかり過ぎていた部分に対して、“実験場”として顧客自身が事前に体験できる場を提供することで、顧客が効果的にソリューション選定をできるよう支援する。特にキンドリルはベンダーフリーで幅広いアライアンスを組んでいるため、顧客にとってオープンで最適なソリューションを選定できる。

 下図はKyndryl Vitalの全体イメージと各プログラムの概要だ。顧客のビジョン策定支援や最先端技術の体験、プロジェクト変革に向けたアジャイルや自動化技術の習得研修といったプログラムを提供している。各プログラムは半日から2日間程度の無償体験と、それ以降の有償支援といったメニューで構成している。

(左)Kyndryl Vitalの全体イメージ(右)各プログラムの概要(出典:キンドリル発表資料)

 「実はこれらのプログラムは全て顧客から聞いた困り事をヒアリングした中で、特にニーズの高い相談事項から順次プログラム化して開発したもので、1年間で14のプログラムを開発して顧客の変革に貢献している」(河野氏)

 河野氏はこれらのプログラムの中でも代表的な4つのプログラムを紹介した。1つ目は「Future Vision Workshop」だ。今から3年後や5年後、10年後といった未来にどのようなビジョンを描きたいのかを、参加者全員が共有して具現化するワークショップだ。特に「新しい観点で自分たちのIT戦略を見直したい」といった顧客や「自分たちの存在意義を再認識したい」「プロアクティブな活動にシフトしたい」といった顧客にお薦めだという。

Future Vision Workshopのイメージ(出典:キンドリル発表資料)

 2つ目はアジャイル開発体制の構築を支援する「Agile Experience Workshop」だ。河野氏によれば、アジャイル開発はアプリ開発や新規開発では活発だが、ITインフラの現場でも新しい変革の文化を現場に吹き込むために、改善活動や大規模プロジェクトに用いられるケースが増えてきている。

 河野氏は「顧客からも『アジャイル人材を自社で育てたい』という相談を受けることが多い。これを受けて、アジャイルコーチの資格を持ち、ITインフラにおける大規模アジャイルのリーダー経験を持つタレントを用意し、現場でアジャイルを活用できる知識と経験を短期間で得られるトレーニングを提供している」と話す。

Agile Experience Workshopのイメージ(出典:キンドリル発表資料)

 3つ目はInfrastracture as Code(IaC)に関する実践的なスキルを持った人材を育成する研修プログラム「Automation Academia」だ。受講することで、自動化などを駆使したより高いレベルでのITインフラ運用が可能になる。

 「自分たちの課題を解決できるソリューションなのかどうかある程度当たりを付けたい」「ベンダーの環境ではなく、自社の環境で効果が得られるのかどうかもある程度当たりを付けたい」というニーズに対しては、4つ目のソリューション体験プログラムが有効だ。顧客が関心を持つソリューションのデモを自ら体験することで、早い段階でのソリューション選定の見極めが可能になる。これも幅広いアライアンスと多数の技術者を保有するキンドリルならではのアプローチだと言える。

ソリューション体験プログラムのイメージ(出典:キンドリル発表資料)

顧客の文化まで踏み込んだ変革を支援するKyndryl Consult

 キンドリルの志賀 徹氏(ストラテジック・サービス本部 コンサルティング &ソリューションデザイン事業部長)はコンサルティングサービスKyndryl Consultについて説明した。

キンドリルの志賀氏

 志賀氏によれば、Kyndryl Consultを立ち上げた背景にはサービスを購入するユーザーの購買パターンに変化が生じているのがきっかけだ。従来のITサービス利用者は「大規模なシステム再構築や総入れ替え」または「オンプレミスシステムのクラウドシフト」などのニーズが主流だった。

 「だが、今後顧客がどういったデジタル変革の取り組みを求めるかを考えたとき、単なるシステムの開発というよりは、組織や文化まで含めた変革を目指すはずだ。つまり、こうした変革を支援できるパートナーと一緒にデジタル変革を進めたいと考える顧客が多くなっていると思う」(志賀氏)

 そのためKyndryl Consultは、変革とビジネスの成果を生むためにはどうすればいいかを重視する。変革の「構想」を練り、「設計」し、優先順位を決めて設計に基づいて「実装」、その後の運用もさまざまなインサイトを取り入れて「発展」させるという改善サイクルを一緒になって実現していく。

Kyndryl Consultの根幹のコンセプト。継続的なモダナイズのライフサイクルを確立する(出典:キンドリル発表資料)

 志賀氏は「過去30年のアウトソーシングのビジネスや顧客のシステムを預かってしっかり運用してきた知見やノウハウをうまく使ってミッションクリティカルな顧客システムでもサポートできるのが強みだ」と話す。

 志賀氏によれば、クラウドネイティブやハイブリッドクラウドにおけるインフラ運用に悩む顧客からの相談にKyndryl Consultを活用するケースが多い。これに向けてはCloud Center of Excellence(CCoE)の構築支援や、SRE(Site Reliability Engineering)モデル運用支援、ゼロトラストアーキテクチャ構築支援などを提供している。

長年の運用経験はCCoE体制の構築やSREモデル運用支援、ゼロトラスト構築など、組織レベルでインフラを変革するのがKyndryl Consultの強みだ(出典:キンドリル発表資料)

 「CCoEの構築支援でいえば、アーキテクチャの策定やクラウドでのセキュリティガイドライン、監視ツールの導入、人材をどう確保育成するか、研修などを含めてCCoEの構築を支援する。SREモデルでいえば、SREのトレーニングやパイロット計画の策定などをコンサルティングし、サービス立ち上げを支援する。ゼロトラストでいえば、どこから手を付ければいいかを決めてアーキテクチャの全体像を設計、そこに至るための道筋を付ける。これをデザインする上で必要なソリューションの比較・選定などでアドバイスを提供する」(志賀氏)

 工藤氏は最後に、「Kyndryl ConsultとKyndryl Vitalは新しいサービスというより、長年やってきたノウハウを体系化し、モダンな仕組みに向けてアジャストし、体制を拡充したものだ。今後もさらに進化を続けていく」と述べた。

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