“ダメアイデア・チェッカー”としてのChatGPT「不真面目」DXのすすめ

ChatGPTのリリース後、一通り遊んだという人も多いのではないでしょうか。ときにとんちんかんな、ときに模範的な回答を返すこのAIを「仕事にも使うべきだ」と筆者は主張します。まだまだ発展途上のAIとどのように付き合うべきか、今後欠かせなくなるであろう「仕事におけるAIの生かし方」を考えてみましょう。

» 2023年01月27日 09時00分 公開
[甲元宏明株式会社アイ・ティ・アール]

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この連載について

 この連載では、ITRの甲元宏明氏(プリンシパル・アナリスト)が企業経営者やITリーダー、IT部門の皆さんに向けて「不真面目」DXをお勧めします。

 「不真面目なんてけしからん」と、「戻る」ボタンを押さないでください。

 これまでの思考を疑い、必要であればひっくり返したり、これまでの実績や定説よりも時には直感を信じて新しいテクノロジーを導入したり――。独自性のある新しいサービスやイノベーションを生み出してきたのは、日本社会では推奨されてこなかったこうした「不真面目さ」ではないでしょうか。

 変革(トランスフォーメーション)に日々真面目に取り組む皆さんも、このコラムを読む時間は「不真面目」にDXをとらえなおしてみませんか。今よりさらに柔軟な思考にトランスフォーメーションするための一つの助けになるかもしれません。

 2022年末から現在にかけて、IT業界は「ChatGPT」の話題でもちきりです。ITmediaでもChatGPT関連記事が数多く上がっています(注1)。

「安価なコンサルタント」としてのAI

 ここでChatGPTについて詳しい説明はしませんが、ChatGPTとはAI(人工知能)を研究しているOpenAIが2022年11月にリリースした、ユーザーがAIと対話するためのWebサービスです。いい加減な日本語で質問しても高度な回答が返ってくることに驚く人が続出しました。筆者もその1人で、しばらくの間ChatGPTとの対話を楽しんでいました。

 筆者が所属するアイ・ティ・アール(ITR)について「教えて」と質問すると「ITRは情報技術に関する用語で、『Information Technology Resource』の略です(以下略)」という回答が返ってきました。まだまだ知名度が足りないのですね(笑)。精進します。

 こうしたChatGPT関係のネタはインターネットにたくさん出ています。どれもかなり楽しめますのでご興味のある方はそちらをご覧いただくとして、ChatGPTは回答がちょっとしたコラムやレポートのようになっていることが多いのです。

 「DX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させるためには」という極めてシンプルな質問に、ChatGPTは

  1.  企業のビジネス戦略とDX戦略を統合すること
  2.  技術革新に対応するための投資を行うこと
  3.  カスタマーニーズを中心に考えること
  4.  変革をリードするためのリーダーシップを確立すること
  5.  新しいビジネスモデルの採用を検討すること

という驚くべき回答を返します。

 多くのDXコンサルタントがいろいろな書籍や記事で書いていることとほぼ同じ内容です。ここでは詳細は引用しませんが、個々の回答にはより詳しい解説が付随しています。ChatGPTサービスは現時点では無料ですから、「かなり安価なコンサルタント」としてChatGPTを使える分野も多いのではないかと筆者は考えています。

平均的回答しか返せないAI

 AIは筆者の専門ではないので、ChatGPTの仕組みをひもとくことはできませんが、ChatGPTのAIエンジンは機械学習(ML)がベースにあるようです。機械学習とは、膨大なデータからコンピュータが自動的に学習して一定のパターンやルールを発見する手法のことです。

 ChatGPTはインターネットにアップされているコンテンツを元データとして使用しているようです。このような仕組みでChatGPTは実に平均的かつ教科書的な回答を返します。数多くの人が書いていることをAIがまとめているので当然と言えば当然です。

 本連載では「DXプロジェクトではこれまで誰も考えつかなかったような新しいビジネスアイデアに挑戦する必要がある」と何度も書いてきました。ChatGPTを代表とするAIが平均的な回答しか返さないのであれば、DXで必要とされるユニークなアイデアを創り出すために参考になる情報を得ることはできません。

ダメアイデア・チェッカーとしてのAI活用

 ではChatGPTはDXプロジェクトでは無用の長物なのでしょうか。いえいえ、そんなことはありません。これだけ平均的、教科書的な回答を返すのですから、われわれ人間が考えたアイデアの凡庸さ加減をチェックするために利用できます。

 DXプロジェクトではデザイン思考などの手法でいろいろなアイデアを絞り出して、メンバー全員で各アイデアの面白さ加減をチェックします。アイデアのユニーク度を図るためにChatGPTを使えばよいのです。DXプロジェクトのゴールや期待成果をChatGPTに入力し、そこから得られる回答が自分たちで考えたアイデアと相違なければそれは「ダメアイデア」だと判定できます。

 AIは今後さらに進化することは間違いありません。近い将来、筆者の想像もつかない素晴らしい回答を出す可能性もあります。その時はまた、それらのAIがどのように使えるかを考えればよいと思います。

 AIといえば「AIに自分の仕事を奪われる」などと否定的な意見が多く見られます。しかし、AIを仕事に積極的に活用する姿勢が今後重要となることは間違いありません。人間とAIの勝負という視点ではなく、AIをうまく使うために人間が何をすればよいのかという発想が今後必要になると筆者は考えています。

筆者紹介:甲元 宏明(アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト)

三菱マテリアルでモデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革やCRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州や北米、アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。クラウド・コンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを手がける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。

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