統計リテラシーのない上司ほど惑わされる「3つの迷信」データ活用のための思考術

中だるみを感じる水曜日を乗り越えようとしている皆さまに向けて、データ活用をテーマにした新連載をお届けします。今年こそデータ活用を始めたいとひそかに決意している方も、既に業務の中でデータをバリバリ活用している方も、少し手を止めて「すぐに仕事で生かせる考え方」に触れてみませんか。

» 2023年01月25日 13時00分 公開
[永田豊志ITmedia]

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この連載について

 今やデータ分析はある特定の専門職だけでなく一般のビジネスパーソンに求められるスキルの一つとなりつつあります。

 「そうは言っても、何から手を付ければ良いか分からない」「意気込んでデータ活用の本を買ってみたものの、“積読”(つんどく)になっている」という方に向けて、“やる気をスキルに変えるための思考術”をお届けします。

 「思考なんて回りくどいものではなく、データ活用を実践するためのツールを教えてほしいんだ」とおっしゃる方にこそお薦めしたい連載です。目まぐるしく新製品が登場したりアップデートが繰り返されるツールを上手に活用するためにも、一度身に付ければなかなか錆びることのない思考方法に接することで、スキルとともにご自身の仕事の進め方をアップデートするすべが見つかるかもしれません。

 はじめまして。筆者は企業経営とビジネスパーソンの知的生産性向上をライフワークとしています。本連載では、主にビジネスにおけるデータ活用という側面から、すぐに現場で生かせる考え方や情報整理について書いていきたいと思います。

よくある「データ活用、3つの誤解」

 本題に突入する前に、ありがちなデータ活用についての誤解を共有しておきたいと思います。これらは本当によくある誤解です。

 筆者は2021年からM&Aによってそれまで手掛けてきたDX支援とは全く異なる業種の企業の代表を兼務しています。それで分かったのが、オンライン化やDXが進んでいない企業では、データ活用に関して迷信めいたものが存在するということです。こうした“迷信”は大手企業の上層部からも聞かれます。

 というわけで、ちまたにはびこる、ありがちなデータ活用に関する誤解についてまずは触れておきたいと思います。

 まあ、本連載が掲載されるITmedia エンタープライズの読者は大丈夫かと思いますが、クライアントや上司がそうした誤解を持ったままだと“厄介なこと”になりますので、最初の段階でしっかりと払拭(ふっしょく)しておきましょう。

誤解1 ツールが結果を出してくれるんでしょ?

 よく言われることですが、AI(人工知能)や分析ツールが何かすてきなアウトプットを出してくれるというのは幻想です。ML(機械学習)のアルゴリズムやデータ活用のツールはあくまで道具であって、何らかの目的や筋道を与えずに道具が動くわけがありません。

 最近話題の「AIが絵を書いてくれる」「フェイク写真を合成してくれる」「文章を書いてくれる」といった創作行為においても、必ず人間が「東京の街をゴッホ風に描いてみて」といった筋書きやコンセプトを与えているわけです。

 最先端のツールはあくまで「気の利いた計算機」だと割り切る必要があります。そして、計算機に計算をさせるためには、「どのような筋道に従った」「何のデータなのか」を吟味しなければならないのです。AIが人に代わることはありません。もし、そのようなAIがあるとすれば、それは「筋道を作り出すAI」を製作した人の“仕組み化力”が優れているということです。

誤解2 データは多いほうが良いに決まってる

 「データ量が多ければ多い方が良い。うちにはいろんなデータが膨大にあるから、宝の山や」。

 これは半分正解、半分間違っています。というのも、データが“宝の山”になるためには、課題解決のための筋道が出来上がっていることが前提になるからです。そうではない状態の膨大なデータは宝の山ではなく“ごみの山”です。

 膨大なごみを整理するために要員を投入するのは全くの無駄です。ごみの山からお宝を発見するイメージを持つ人もいるようですが、あり得ません。ごみはごみです。ごみのデータか否かを見分けるのはコンピュータではなく人の力です。洞察力です。

誤解3 統計の知識は不可欠ですよね?

 そんなことはありません。ビジネスで使う最低限の知識で十分です。筆者自身、理数系の出身ですが、企業経営におけるデータ活用において、高度な統計の数学的見識の必要性を感じたことは一度もありません。何と言っても「計算は計算機にさせよう」です。

 必要なのは、統計的なリテラシーです。と言っても、「えっ、統計的なリテラシーって何のことですか」という声が聞こえそうです。ちょっと分かりづらいですよね。

 つまり統計で使う言葉の定義や、数字を表現するために必要なグラフなどの表現方法を知っていれば、データ活用には十分だということです。

データ活用において最も重要なのは「筋道を立てる」こと

 そろそろ「誤解という話は分かったが、じゃあ何が大事なんだ」という声が聞こえてきそうです。

 大事なことを一言で言えば、「筋道を立てる」ことです。

 抽象的で分かりづらいですよね。もう少しかみ砕くと、こんな感じです。

 実際のデータをツールに入れる前に、「Microsoft Excel」レベルでできる基本的なロジックを作ることが重要です。

 また、1〜2が不十分なまま3を作って“データをぶん回して”も、目からウロコなインサイトを得ることは難しいでしょう。3までが完了して、そのロジックを証明するためのデータを入れてみて、想定通りの結果になるかどうかを観測することも重要です。

 改めて言います。データ活用において最も重要なのは「観察」と「仮説」です。

 特に最初のプロセスである「観察」がおろそかになるケースが多々あります。実際にデータを活用するアナリストやコンサルタントは、顧客の“現場”にいないこともあるでしょう。にもかかわらず、最初からデータを見て分析してしまう傾向にあります。

 分かりやすい例として、チェーン展開しているアパレルショップを考えてみましょう。

 他店舗と比べて、突出して売り上げが悪い店舗があるとします。POS(販売時点情報管理)によって「何時にいくら売り上げたか」というデータは容易に入手できるでしょう。その結果を見ると、確かに売り上げは悪いものの、顧客が多く来店する時間帯など「時間的な傾向」はさほど他店舗と変わりがないようです。この場合、売り上げ不振の原因をどう考えるべきでしょうか。

 普通は「そもそもの母数――すなわちエリアの人口や店頭の往来量が少ないのかな」と想像します。

 実際に店舗を訪問して数時間観察してみると、往来量はそれなりにあったものの、店舗のディスプレイを見て足を止めた後に立ち去る人が非常に多いことが判明したとします。つまり問題は「店頭ディスプレイという入店前の情報の提供方法」にあることが分かってきます。

 実際にアパレルのデータ分析をしている企業の社長によると、店頭にディスプレイされている商品を買う顧客の割合は半端なく高いそうです(ちなみに筆者自身も、「このマネキンが着ている服をください」というタイプです)。

 そうなると、店舗の売り上げが振るわない原因を分析するためには「往来量」「店頭で立ち止まる量」「入店する量」の3つが必要です。手元にあるPOSデータだけでは不十分なので、定点観測カメラなどを利用して人が往来する状況や、どのぐらいの人が入店するかを観測することが先決だということが分かります。

 「往来量」「店頭で立ち止まる量」「入店する量」の3つの「量」を計測した後は、店内のオペレーションやサービスレベルを加えて、総合的に分析することが必要です。

 


 あらら、連載のスタートから脱線して文字数をずいぶん費やしてしまいました(反省)。

 次回は観察の次に来る肝心の「仮説」の立て方や、プロジェクトの目的に合わせた因数分解などについて書きたいと思います。

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

知的生産研究家、起業家、上場企業の経営者。現在、DX支援クラウドを提供する株式会社ショーケース(東証3909)とリユースモバイル事業を運営する日本テレホン株式会社(東証9425)、2社の上場企業の経営者。

企業経営と並行し、新規ビジネス開発、働く人の生産性向上をライフワークとした執筆、講演活動などを行う。

自著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』(ソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)、『会社では教えてもらえない仕事がデキる人の資料作成のキホン』(すばる舎刊)がある。

著書一覧:https://www.amazon.co.jp/s?k=%E6%B0%B8%E7%94%B0%E8%B1%8A%E5%BF%97

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