2023年に押さえるべき3つのクラウドトレンドCIO Dive

企業が成長する上で、今やクラウド戦略は必要不可欠なものとなった。ハイブリッドクラウド時代に競合との差別化を図るためには、3つのクラウドトレンドを押さえておく必要があるだろう。

» 2023年02月06日 07時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

CIO Dive

 クラウドの世界では2つの異なる事象が展開している。

 一つは景気後退や金利上昇、高水準のインフレによって、積極的に支出削減と人員削減を実施する企業が増えていることだ。

 そしてもう一つは、企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)を強く推進しようとしており、DX戦略の競争力を維持するためにより多くのリソースと資本を必要としている点だ。

 これら2つの事象は矛盾しているように見えるかもしれないが、相反するものではない。しかしほとんどの企業はクラウドに投資する費用を正味の利益、つまり効率化と収益増加のために必要なものと見なしている。

 ITインフラサービスを提供するKyndrylでグローバルクラウドプラクティスリーダーを務めるハリッシュ・グラマ氏は「正しいやり方をすれば、クラウドでより多くの利益を得られ、より迅速にイノベーションを起こすことが可能だ」と述べた。

 本稿は2023年のクラウド戦略に影響を与える3つのトレンドを紹介する。

トレンド1.IT予算の増加に伴い増え続けるクラウド投資

 CIO(最高情報責任者)は2020年の最後の危機を乗り越え企業を導いたと、Gartnerのディスティングイッシュトリサーチバイスプレジデントのジョンデビッド・ラブロック氏は「CIO Dive」に語った。ラブロック氏の見立てによれば、組織は再び財布のひもを緩め、CIOの意向を伺いながら、他部門のコスト削減を支援するためのリソースを増やす予定だ。

 また、Gartnerによると(注1)、財務部門の上級管理職の4分の3以上が2023年はデジタル技術への投資を増やすか、維持する予定だ。

 同社のアナリストであるシド・ナグ氏は、CIO Diveに対し「CFO(最高財務責任者)が社内の関係者にクラウドへの移行強化を促すのは、現在のマクロ経済状況下では、それが他社との競争において優位に立つ上で必要と考えているからだ」と述べている。

 さらに2023年の企業IT支出は世界全体で5.1%増加すると予測されており(注2)、新規投資の大部分はクラウドに投入される見込みだ。パブリッククラウドに対する投資だけでも、2023年は全世界で5910億ドルに達し(注3)、2022年の4900億ドルから20.7%上昇するとGartnerは予測している。

 IT予算が増えればクラウドへの投資も増える。だがもしIT予算が減っても、クラウドへの投資が減少することはないだろう。

 Forresterの主席アナリストであるリー・サスター氏は「企業は支出を集約したいと考えている。しかし、クラウドがモダナイゼーションの代名詞である限り、クラウドへの支出は継続的に行われるだろう」と話す。

トレンド2.企業のクラウド費用を削減する「FinOps」の躍進

 「as a Service」の普及によって、クラウドは便利になったが慎重に管理しなければ高コストになってしまう。

 そんな中注目を集めているのが、クラウドのコスト管理に対してデータ主導でアプローチするフレームワーク「FinOps」だ。FinOpsは、企業が複雑なハイブリッドマルチクラウドのエコシステムにおける投資を把握し、最適化に向けた戦略と技術を網羅するのに役立つ。

 ハイパースケーラーが市場シェアを巡って競争するにつれて、顧客に提供する機能のメニューも増えている。ナグ氏は「これによって企業は非常に混乱している。何しろ、ある日はクラウド、次の日はエッジコンピューティング、そして5G、AI(人工知能)を含めたML(機械学習)、IoT、アナリティクスといったように、求められる技術が常に変化するのだから。こうした事態は業界全体にまん延している」と語る。

 グローバルテクノロジー企業のDynatraceから委託を受け、Coleman Parkesが2022年9月に実施したリサーチによると(注4)、シニアITリーダーの4分の3がクラウドネイティブやマルチクラウド環境でのデータ監視に苦労していると判明した。単なるデータコストの管理は多くの企業にとって苦痛になっているのだ。

 FinOpsはアジリティや継続的インテグレーション、導入サイクルの短縮といったDevOpsの中心的な概念を取り入れ、財務ガバナンスをパブリッククラウドのオンデマンド性と調和させる役割を担うものだ。

 大手損害保険会社のLiberty Mutualは2022年、FinOps戦略の導入によってクラウド費用を推定20%削減し、2024年までに年間IT費用を4分の1まで削減する目標を設定したと(注5)、同社のクラウド金融業務プロダクトオーナーのアンジェラ・AJ・ワッサーマン氏は述べている。

 コンサルティング会社EYの米国デジタルリーダー兼金融サービスクラウドリーダーであるポール・サセックス氏はCIO Diveに以下のように話した。「顧客の4分の3はFinOpsやコスト収益化の取り組みを進めている。コストが天文学的数字になっていたため、企業は短期間で大きく進歩したといえる」(サセックス氏)

トレンド3.インダストリークラウドの重要性

 ハイブリッドクラウドとマルチクラウドは現代の新常識だ。「Amazon Web Services」(AWS)や「Google Cloud」、「Microsoft Azure」の3大ハイパースケーラーでさえ、ハイブリッドを促進するためのパートナーシップを通じて(注6)、マルチクラウドを認めている。

 ハイパースケーラーが市場シェアを拡大し続ける中(注7)、産業界の垂直統合は新たな成長分野となっている。AWSは2022年11月、金融サービスを対象とした新しいクラウドトレーニングゲームをリリースし(注8)、インダストリークラウドへのコミットメントを表明した。

 メインフレームの主役であるIBMは、クラウド市場での競争力を維持するために(注9)、産業別分野に傾注している。Forresterのシニアアナリストであるブレント・エリス氏は「IBMの戦略においてメインターゲットとなるのは、テック企業が伝統的にオンプレミス事業を通じてサービスを提供してきた金融業界と保険業界だ」と語った。

 特に金融サービス企業は、その規模の大きさとセキュリティおよびコンプライアンス要件から、業界向けクラウドソリューションの有力候補といえる。さらにナグ氏によると、ヘルスケアやテレコム、製造業など、他の業界もインダストリークラウドに注目している。

 EYのグローバルクラウドコンサルティングリーダーである、ラグ・ラジャラム氏は「業界特化型のクラウド製品を構築するアプローチは2つある」と話す。一つは、ハイパースケーラーのインフラ上に構築するもの。もう一つはプライベートデータセンター内に構築するプラットフォームだ。

 ラジャラム氏は「MicrosoftやAWSが提供するインダストリークラウドはその特徴や機能を利用するため市場投入が非常に早い。しかし他の企業は、基盤となるクラウドサービスプロバイダーに依存しないインダストリークラウドに注目している」と語った。

 企業がクラウドへの投資を続ける中で、どちらのアプローチも採用されつつある。Gartnerは2027年までに半数以上の企業が(注10)、業界の主導権を握るためにインダストリークラウドプラットフォームを利用すると予測している。

© Industry Dive. All rights reserved.

注目のテーマ