Google Cloudのパートナー施策刷新から探る なぜ、クラウドベンダー大手は「パートナー施策」に注力するのかWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2023年03月06日 15時30分 公開
[松岡功ITmedia]
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先行するAWSとSalesforceの取り組みとは

 他のクラウドベンダー大手は、ユーザー視点のパートナー施策に対してどのような取り組みを実施しているのか。筆者はグローバルでクラウドサービスを展開しているベンダー大手各社を取材してきた。中でも先行している印象が強いのはAmazon Web Services(AWS)とSalesforceだ。両社の日本法人のWebサイトで紹介されているサービスをのぞいてみよう。

 AWSについては、フロントページにある「パートナーネットワーク」から「AWSパートナーと連携する」を経て「パートナーとつながる」を選ぶと、「AWSパートナーとイノベーションを起こす」と題したWebページが表れる。そこに幾つかユーザー視点のサービスが紹介されている。「AWSコンピテンシー」はソリューション分野別のスキルや導入実績による認定、「マネージドサービスプロバイダー」はクラウドのマネージドサービス提供スキルによる認定といった具合だ。AWSジャパンは2019年からこうした施策に本格的に取り組んでおり、毎年3月に開催しているパートナー向けイベントでその内容のアップデートを公開している(図4)。

図4 AWSの「ユーザー視点のパートナー施策」サイト(出典:AWSジャパンのWebサイト)

 ユーザー視点のパートナー施策における認定制度に注力する理由について、同社幹部に聞いたところ、「全てはお客さま(ユーザー)のためだ。クラウドサービスはとにかくお客さまに使っていただかないと、私たちもパートナーの皆さんもビジネスとして成り立たない。ならば、お客さまにどんどん使っていただくために、パートナー施策として何ができるか。お客さまから見てパートナーそれぞれの得意分野やスキル、実績をAWSが認定することで分かりやすくし、最適なパートナーを選んでいただけるようにすることだ」との答えが返ってきた。印象深いコメントだ。

 Salesforceについては、フロントページの「APPEXCHANGEにアクセス」から「コンサルティングパートナー」を経由して「自分にあったパートナーを見つけましょう」へ行くと、動画で探し方を説明してくれる。同社におけるユーザー視点のパートナー施策は、「Navigatorプログラム」というサービスだ。内容はパートナーの製品、業界、サービスにおける専門能力を知識、経験、品質の3つの側面から評価し、3つの段階的なレベルで認定するものだ。セールスフォース・ジャパンは2021年からこのプログラムの設定に取り組み、順次拡充している。同社によると、このプログラムはグローバルで推進しているものの、日本でのパートナービジネスの割合が高いだけに、日本でこそインパクトの大きい取り組みになりそうだ(図5)。

図5 Salesforceの「ユーザー視点のパートナー施策」サイト(出典:セールスフォース・ジャパンのWebサイト)

 今回は、筆者がかねて疑問に抱いて取材を続けてきたクラウドベンダーのパートナー施策の在り方について述べてきたが、実はその発端となる取材があった。2015年10月、当時AWSのバイスプレジデントで実質的にナンバー2だったアダム・セリプスキー氏(現・AWS CEO)が来日した機会に単独インタビューを実施した。その中で同氏はパートナー施策の在り方を力説していた。詳しい内容は、2015年10月26日掲載の本連載記事「AWSのナンバー2が語るパートナーエコシステムの差別化戦略」を参照いただくとして、筆者が最も印象深く感じたコメントを以下に記しておく。

 「お客さまから見てパートナー各社の得意分野がより見分けやすくなるようにしたいと考えている。これは、パートナー各社が持つコンピテンシーをAWSが認定することで、お客さまがパートナーを選ぶ際の参考にしていただこうというものだ。パートナーにとってもこの認定を取得することで、よりお客さまを広げていっていただけるようになると考えている」

 このコメントが発端となって、冒頭で述べた疑問として膨らんでいったわけだ。

 ただ、今回この原稿を書くにあたって、クラウドベンダー大手各社のユーザー視点のパートナー施策に関連するサイトを改めて見て回ったが、使い勝手において改善の余地は大きい。各社のこの取り組みに対する「温度差」もかなり開きがあるように感じた。

 それは、クラウドサービス以前から物販でパートナーと協業してきたベンダーにとっては、認証が“格付け”と見られることを懸念しているからだ。しかし、ユーザーから見れば、それが分かりやすい選択肢となる。今後はユーザー側からもどんどん意見を述べて、改善につながるきっかけを提供してもらいたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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