近年、ロボットの導入が進む一方で、変化への対応が不得意な点が問題視され、「やっぱり人間に任せよう」となる倉庫や工場も多い。物品の形状や配置などが頻繁に変わる状況にロボットをどう対応させるか。NECが出した答えは。
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近年、物流倉庫や工場などで同じ作業を繰り返す単純作業をロボットを用いて自動化する動きが広がっている。しかし、物品をある箱から別の箱に入れ替えて整列させたり、棚から出し入れしたりする「ハンドリング」作業では、扱う物品の形状や配置などが頻繁に変わることがある。
従来、ロボットがハンドリング作業を行うためには数カ月にわたる事前学習が必要だった。作業条件が変わることで作業の成功率が大きく低下することも問題になってきた。
こうした人間ならば簡単に対応できる変化でも、ロボットだと時間や手間がかかり、作業の成功率も低下する。この点が、ハンドリング作業におけるロボットの導入を妨げる壁となってきた。
今回、NECが開発したロボットハンドリング技術は、以下の2点を可能にするとしている。
同技術の開発に当たってNECは「世界モデル」を応用したとしている。世界モデルは現在、機械学習(ML)の分野で「自律制御の実現の鍵となる技術」として期待されている技術だ。
世界モデルは、ある行動の結果として実世界で何が起こるかを、実際に試すことなく予測することを可能にする。人間が過去の経験や蓄積してきた常識に基づいて適切に行動するのに対して、機械は、人間が暗黙知としている常識を網羅的にプログラムをする必要がある。これがロボットの自律制御における課題となってきた。
今回NECが開発したロボット制御AI(人工知能)は、世界モデルをハンドリングに応用した。同社は「過去に試したことのない作業条件でも失敗の少ない最適な動作を自律生成して、実行できる」としている。
同技術によって、学習したものと異なるサイズ、形状で不規則に置かれた物品に対しても、的確につかんで所定の位置と向きに正しく置くことができるようになるという。
同技術の特徴は以下の2点だ。
ロボット制御則の学習に加えて「動作予測モデル」を事前学習する。動作予測モデルは、ある作業の実行に必要なロボット動作を入力したときに、その作業の成否を予測できる世界モデルだ。現場で起こり得る作業条件の網羅的な学習なしに、現場で活用可能なレベルの安定性(注1)である約95%の作業成功率が達成できることをシミュレーションにより確認したとしている。
「動作予測モデル」を導入することで、網羅的な学習を不要とする。また、動作予測モデルの学習状況に応じて、次に学習すべき物品の配置や作業などのパターンを設定する能動学習手法を導入することで、動作予測モデルおよびロボット制御則をより少ないパターン数で学習することを可能とする。
NECは今後、物流倉庫や工場などのロボット作業で同技術の検証を進め、2024年度中の実用化を目指す。
(注1)二指ハンドを取り付けた垂直多関節ロボットを用いて、1辺5〜15センチのランダムなサイズの直方体を、多様なサイズの箱の中に所定の位置や向きに置く作業を対象に、物理シミュレーション上で評価を実施。
(注2)周辺技術(失敗時にロボット動作を再計算する、遠隔操作に切り替えるなど)と組み合わせ、従来の定型作業におけるロボット運用と同等の可用性(現場での異常系対応頻度がロボット1台当たり1日1回未満)を実現するためには、ハンドリング技術単体で95%の作業成功率が必要と試算。
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