「ホワイト物流」を実現できるか 物流の「2024年問題」について、富士通に聞いてみた【前編】【特集】物流Techのいま(1/2 ページ)

物流業界における人手不足をはじめとする問題がより深刻化する「2024年問題」の“到来の年”が間近に迫っている。問題の解決にITはどのように貢献するのだろうか。富士通に現状の課題と「2024年問題」への取り組みを聞いた。

» 2023年03月30日 13時35分 公開
[田中広美ITmedia]

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 物流業界における人手不足をはじめとする問題がより深刻化する「2024年問題」“到来の年”が間近に迫っている。山積する問題の中で、ITでの解決が可能なものとは何か。問題解決にITはどのように貢献するのだろうか。

物流「2024年問題」解決に向けてITができること

 前編となる本稿では現状の課題とそれに対する解決策の概要を紹介する。

 そもそも物流業界における「2024年問題」とは何か。2019年から順次施行されている「働き方改革関連法」の中で自動車運用業務、建設業、医師を対象とする時間外労働の上限規制が2024年4月1日に施行予定となっている(厚生労働省「働き方改革関連法に関するハンドブック」)。

 物流業界で働くトラックのドライバーもこの規制の対象となり、時間外労働の上限が「年間960時間以内」に制限される。

 これに先駆けて、2023年度から中小企業でも1カ月当たり60時間を超える時間外労働に50%以上の時間外手当が発生するようになる。勤務終了時間から次の勤務開始までの時間も9時間以上確保することとなる(経済産業省、国土交通省、農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」

 経済産業省はこれらの規制を受けて次のような問題が発生すると見ている(東北運輸局青森運輸支局「トラックの『2024年問題』を知っていますか!?」)。

  1. 時間外労働規制によるドライバー1人が運べる貨物量の減少
  2. (時間外労働に対する50%以上の時間外手当発生、ドライバー1人が運べる貨物量減少などによる)物流企業の売り上げ・利益の減少
  3. 時間外労働規制によるドライバーの収入減少
  4. 3の収入減少によるドライバーの担い手不足

 3については、もともとドライバーの有効求人倍率(求職者1人当たりの求人件数を示す。1を上回るといわゆる「売り手市場」となる)は2022年6月時点で「2.01」と全職業平均の約2倍だ(全日本トラック協会「トラック運送業界の2024年問題について」)。

 トラックドライバーの年間所得額が全産業平均よりも5〜10%低いこと(経済産業省、国土交通省、農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」)や、年間労働時間が全産業平均と比較して大型トラック運転車で約1.22倍、中小型トラック運転者で約1.16倍長い(国土交通省「トラック運送業の現状等について」)といった低賃金・長時間労働が敬遠される理由として指摘されている。

 2024年の法改正はもともとドライバー不足が深刻な物流業界にさらなる“追い打ち”をかけるものとして懸念されているわけだ。

物流件数は増加の一途

 ドライバー不足の進行とは逆に、物流件数は増加の一途をたどっている。近年のEC(電子コマース:電子商取引)市場拡大や多品種少量生産の広がりなどを受けて、貨物の小口化・多頻度化が起きている。これにより2000年頃と比べて貨物量は半減しているが、物流件数は倍増している。

図表1 貨物量が半減する一方で物流件数は倍増している(出典:経済産業省、国土交通省、農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」■) 図表1 貨物量が半減する一方で物流件数は倍増している(出典:経済産業省、国土交通省、農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」)

 また、野村総合研究所は、2030年にはドライバー数の供給不足により全国の約35%の荷物が運べなくなると予測している(野村総合研究所「トラックドライバー不足時代における輸配送のあり方」

 物流はわれわれの生活の土台を支える社会インフラ機能の一つでもあるため、「2024年問題」は物流業界にとどまらない社会課題だ。

ITを使って「ホワイト物流」を実現できるか

 年間960時間以内=1カ月当たり80時間程度に時間外労働が制限されることで人手不足が懸念されるということからも、ドライバーの労働環境の過酷さが浮かび上がる。

富士通の横山氏 富士通の横山氏

 こうした課題を物流業界だけで解決するのは難しい。IT業界は課題解決に向けてどのような取り組みをしているのか。富士通の横山正弘氏(Digital Solution事業本部 次世代交通システムインテグレーション事業部)に話を聞いた。

 まず横山氏は「荷主企業と物流企業全体は『ホワイト物流』の実現を目指している」と業界動向を語った(以下、断りのない会話文は横山氏の発言)。「ホワイト物流」とは、近年労働環境が過酷な企業を指す言葉として「ブラック企業」が使われるのを受けて、「ブラックではない=ホワイト」として生まれたという。

 では、物流業界が抱える課題の中で、ITによる解決が期待できるものは何か。横山氏の話から次の3点が浮かび上がった。

  1. デジタル化が進んでいないために物流が可視化されていない
  2. データの標準化ができていないため、業界、業種を超えた連携が難しい
  3. トラックの容量に占める荷物の量を示す積載率が40%未満と低い(経済産業省、国土交通省、農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」

 つまり、将来的な人手不足の深刻化を懸念する前に、物流業界には解決すべき「無駄の多さ」という現在抱えている課題がある。逆に言えば、人手やトラックなどといった今ある資源を十分に活用できれば、将来的な課題の解決に一歩近づくことにもつながるだろう。

 現在も複数の企業が共同で人やトラックを利用する「共同配送」が進んでいる。「ただし、業務データが標準化されていないために、新たに共同配送に参加する企業がすぐ参加できる状況にないケースがほとんどです」

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