中堅・中小企業のDXを阻む「経営者の“3つ”の本音」 リコー調査から対策を考察Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2023年04月03日 14時40分 公開
[松岡功ITmedia]
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SaaS型サービスの導入と経営改革を進めよ

 企業がDXを推進するためには、経営トップがDXを理解し、リーダーシップを発揮することが重要だ。中堅・中小企業経営者のDX理解度はどうか。

 同調査結果によると、経営者の57.2%がDXについて「理解していない」「あまり理解していない」「分からない・どちらともいえない」と回答しており、コメントでも「業務との関連性が見えない」(運輸業)、「DXを生かす余地がない」(学術研究、専門・技術サービス業)、「DXについて知らない」(建設業)といった声が上がった。この結果について、リコーは「業種を問わず、さまざまな中堅・中小企業の経営者がDXに対して理解不足の現状や、マイナスな印象を持っていることがうかがえる」との見方を示した(図3)。

図3 「経営者のDX理解度」(出典:リコーの独自調査)

 業種別のDXの取り組み状況については、回答数が100以上の業界を対象に調査結果を比較したところ、「既に取り組んでいる」との回答が最も多かったのは「情報通信業」の37.4%で、他の業界よりも突出して高い割合であることが分かった。一方、建設業(土木)では「既に取り組んでいる」と答えた割合が10.4%と最も低い結果となった(図4)。

図4 「業種別のDX取り組み状況」(出典:リコーの独自調査)

 加えて、各業種におけるテレワークの実施状況を聞いたところ、情報通信業では62.6%が「非常に実施している」「ある程度実施している」と回答。一方、建設業(土木)では20.8%にとどまり、大きな差があることが明らかになった。この結果について、リコーは「業務のデジタル化が進んでいる業界と、現場など社外での作業や業務が多い業界とでは、DX推進率も異なり、また、PCで完結する業務が多い業種はDXを推進しやすい傾向にあることが見て取れる」と説明した。

 改めて同調査結果を見渡すと、数値で明らかになった実態とともにそれぞれの設問に寄せられたコメントからも中堅・中小企業のDXの取り組みにおける本音が随所に見て取れる内容だった。

 最後に、中堅・中小企業のDXについて筆者がこれまでの取材を通じて感じてきた「推進のポイント」を二つ挙げておこう。

 一つはDXの「D」の観点から、SaaS(Software as a Service)型サービスを有効活用することだ。リコージャパンは今回の調査結果を受けて、同社が中堅・中小企業向けに提供しているクラウド型のノーコード開発アプリケーションツール「RICOH kintone plus」を推奨している。まずは導入してすぐに効果が挙がりそうな業務に、自分たちが使えると判断したSaaS型サービスを適用してみることから始めるのがお勧めだ。

 それによって、クラウドサービスがどのようなものか、感触をつかめるはずだ。中小企業でもデジタル化を積極的に進めているところは、既に複数のクラウドサービスを使いこなしている。ITコストを削減するとともに、自らの領域での新たなサービスの創出にチャレンジしている。

 もう一つはDXの「X」の観点から、クラウドサービスの導入を機にビジネス変革や働き方改革、つまりは経営改革を実行することだ。DXはまさしく経営改革を推進することだ。この点においては、大手企業より規模において機動的に物事を進めやすい中堅・中小企業は、全社一丸となって集中して経営改革プロジェクトを実行しやすいはずだ。デジタルはそのためのツールにすぎない。

 経営改革の目的は、これから先も確固たる存在感を示す企業になるためだ。裏を返すと、現状にどれだけ強い危機感を持っているかどうかが経営改革の成功を左右する。経営トップ自身が現時点でデジタルに自信がないなら、信頼できるDX人材を右腕にした上で信頼できるパートナー企業の支援を受ける形を早急につくるべきだ。

 強調したいのは、中堅・中小企業にとってのDXは、追い込まれて仕方なくやるのではなく、自ら変身するつもりで若い力をフル活用して果敢にチャレンジしていくということだ。そのシナリオを描いて演出するのは、経営陣の力量にかかっている。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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