大日本印刷が「新たなビジネスモデル」を模索 その中でOCIを選択した理由とは

印刷が収益の主軸にあった大日本印刷だが、近年はデジタル化の影響もあり新たなビジネスモデルを模索している。その中でOCIを採用した背景とは。

» 2023年04月13日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 大日本印刷(以下、DNP)はDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で、大規模基幹システム基盤に「Oracle Cloud Infrastructure」(以下、OCI)を採用した。DNPの金沢貴人氏(常務執行役員 ABセンター長)、宮本和幸氏(情報システム本部 本部長)、桑原 崇氏(情報システム本部 次世代業務システム基盤構築推進プロジェクトチーム リーダー)に「DNPが抱えていた課題」「OCIの選定した理由」「今後の取り組み」を聞いた。

大日本印刷が「新たなビジネスモデル」を模索 その中でOCIを選択した理由とは

宮本和幸氏

 DNPは基幹システムをOCIに移行する前は、自前のデータセンターでメイン環境とバックアップ環境を持っていた。しかし、両方の環境が関東圏内にあったことから「有事の際には両方停止する可能性」があった。宮本氏は当時を「このような環境では事業継続の面でもリスキーですよね」と振り返る。

 メインのシステム環境がオンプレミスで稼働していた時は、技術者を専属でシステムの保守、運用に張り付かせる必要があり、「IT人材をDXではなく管理業務に使うのはもったいない」という考えもあった。

 このような背景もあり、DNPは基幹システムのクラウド移行を実施。一方、宮本氏によればクラウド移行後もシステムの構成そのものは大きく変化していないという。それは従来のデータベース基盤やサーバ基盤は仮想環境で運用されていたためで、移行に関してもスピーディーに実行できた。

 これらの「クラウド移行の背景」は経営目線の意見だともいえる。クラウド移行をはじめとするDX推進の中では、往々にして「経営層と現場の意識のズレ」が生じる。この点について、宮本氏は「意識のズレはありました」と振り返り、「現場としては『基盤をしっかり守る、整えることが仕事』という認識が強くあり、『攻めのDX』に対する姿勢が弱かったと感じます」と続けた。

 この"ズレ"に気付くことができた理由に、宮本氏は「変化の激しいビジネス環境があった」という。

 「ビジネス環境が大きく変化しているのにシステム環境といったインフラ部分がそれらのスピードに追従できないのは事業の成長にとってリスクです。これに気付けたことで、事業部門と同じスピード感で取り組みを推進できるようになりました」(宮本氏)

DNPは印刷業だけじゃない クラウド活用で目指す多様なビジネスモデル

金沢貴人氏

 DNPにおける現在の成長部門はエレクトロニクス部門だ。従来の書籍や広告・販促の印刷は情報コミュニケーション部門が担っているが、デジタル化を受けて事業に影響が出ているという。金沢氏はこのような現状に対し、「現在のDNPの状況は、従来の印刷業を担う情報コミュニケーション部門のDXをしなければならない段階です」と解説し、その方法としてメタバースや新たな広告モデルの実現を目指している。

 「例えばメタバースでアバターを作成する際に、新入社員であれば最初の組織内での撮影写真などを基に自動でアバターも作成するといった新たな取り組みが可能です。さまざまな取り組みを推進しており、デジタルを起点に新たな事業創出を目指しています。紙の印刷事業の落ち込みを他の領域でカバーしていきます」(金沢氏)

DNPの事業領域(出典:DNP提供資料)

 多様なビジネスモデルを模索し挑戦を続けるDNPだが、課題もある。他のビジネスモデルに挑戦することによって、従来の印刷業だけでなく通信会社やIT企業も競合相手になり、グローバルで競争が激化しているようだ。一方、金沢氏はこの競争を前向きに捉えている。

 「私たちの強みは"モノづくり"です。それにデジタルを組み合わせることでDNPならではのサービスや製品を生み出せます。これが他社にはない強みになるでしょう」(金沢氏)

 新たなビジネスモデルの創出に取り組むDNP。それを成功させるためにはアジャイルに取り組める組織風土が重要だというが、このような意識を浸透させることは簡単ではなかった。ビジネス部門などは比較的早くアジャイル的な意識を取り入れられる一方、IT部門などではウォータフォール的な取り組みや考えが見え隠れし、アジャイルのメリットを享受できていなかった。「見せかけの取り組み」で終わらせないために、DNPでは「全社的なアジャイル教育」を徹底し、ソフトウェアなどを担う部署はもちろん、ビジネス部門でも新たな組織風土を根付かせている。

 「この取り組みは現在も行っています。従業員もアジャイルの魅力に気付き、組織として推進しています。社内でも好評です」(金沢氏)

OCIがどのようにDNPのビジネスを支えるのか 決め手は

 宮本氏はクラウド選定について、「さまざまな観点から各ベンダーを検討しましたが、最終的には既存の基盤を受け入れられるのはOCIだけということになりました。アプリケーションなどに関しては『Microsoft Azure』や『Amazon Web Services』も検討しましたが、システム環境を変更するコストに対して十分なパフォーマンスが得られないと判断しました。また、DNPが持つVMwareの技術に対して、『Oracle Cloud VMware Solution』であれば柔軟かつ深いところまで触れるのも魅力でした」と語った。

 DNPは2022年11月にリフトを完了しており、宮本氏は「まだまだ使用期間が短いので正確な判断はできませんが」とした上で、OCI移行後のメリットを「必要な時に必要な分だけ使用できる点はやはり魅力です。また使用量を抑えたいときはコストを下げることもできます。このような柔軟さはオンプレではなかなかできません」とした。

 オンプレミスでは一般的に「計画停止」(メンテナンスのためのサービス停止)というものがあるが、OCIであれば東京と大阪のリージョンを30分ほどでスイッチオーバ―し、合計1時間程度の停止で済む。1時間程度であれば、自社の運用でカバーできるというのが宮本氏の見解だ。

情報システム部門の役割変化

 DNPの進化を支える情報システム部門だが、宮本氏は「本当のDXを実現するには、インフラ周りの理解だけでなくビジネス的な視点も求められます」と指摘する。情報システム部門としてインフラ環境の保守、運用は非常に重要な業務だが、それだけにフォーカスするマインドセットでは今後のビジネス変化には追い付いていけなくなると、同氏は危機感を見せる。いかに情報システム部門が「ビジネスを先導する」という意識を持つかどうかが、攻めのDXには欠かせない。

 DNPでは保守や運用などの自動化をできる限り進め、これらをメイン業務にしていた人材をよりビジネス目線でDXを推進できる人材へと変化させていく。今後、デジタル人材やビジネス人材といったリソースを数値で明確化し、DNPグループ全体で「人材の配置転換」を進めていくという。

 印刷における収益が落ち込んでも、DNPは力強く、新たなビジネスモデルの模索を行っている。同社が今後、どのような企業へと変化していくのか。その中でOCIはどのようにDNPを支えていくのか。DNPは多くの日本企業が学ぶべき姿勢を持っているかもしれない。

左より桑原氏、金沢氏、宮本氏

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ