ChatGPTのビジネス導入はどう考えるべきか 4つの課題CIO Dive

CIOや技術責任者は「ChatGPT」のような生成AIモデルのリスクとリターンを評価する際、注意すべきポイントがある。

» 2023年04月17日 08時00分 公開
[Lindsey WilkinsonCIO Dive]

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CIO Dive

 「ChatGPT」のようなジェネレーティブAI(人工知能)に対する評判が好調であるにもかかわらず、こうしたツールを採用する企業はかなり少ない。しかし、これは想定内のことだといえよう。

 ChatGPTの場合、企業は主に世間の好意的な反応や関わり方に興味を示している。そのため、技術リーダーは企業の目標やニーズに合わせてジェネレーティブAIをカスタマイズする方法を考えるようになった。

 しかし、こうした大規模で複雑なモデルを成功させるには適切な能力が必要となる。適切な人材とガバナンス、成熟度、予算がなければ、CIO(最高情報責任者)とその技術チームは技術的負債に絡め取られて、深みにはまることになりかねない。

企業がジェネレーティブAI利用を成功させるた目に考えるべき「ギャップ」

 ここでは、企業がジェネレーティブAIの開発、カスタマイズ、導入を成功させるための3つのギャップと参入障壁を紹介する。

ITガバナンス

 ITガバナンスは、新興テクノロジーの進化に伴い、より一層重要なものとなっている(注1)。これらのハイリスク・ハイリターンのテクノロジーには、フレームワークと倫理的ガイドラインが不可欠だ(注2)。

 IT部門以外の従業員が開発を担う市民開発の増加により、現代のIT部門にとってガバナンスの在り方がさらに複雑になっている(注3)。

 ITコンサルティング会社のInfo-Tech Research Groupは、2021年8月から2022年10月にかけて271人のITリーダーを対象にジェネレーティブAIに関する調査を行った。これによると、ジェネレーティブAIのカスタマイズにおいて、重要性と有効性という観点で最も能力の差が出る要因の上位6位の中に、「組織変革マネジメント」と「ITガバナンス」が入っていることが明らかになった。

 IT会社のInsight EnterprisesのCIOであるスーマー・ノーラパティー氏によると、ガバナンスモデルには、「プライバシー」「データセキュリティ」「ジェネレーティブAI内のアルゴリズムの透明性」「サイバーセキュリティの脆弱性」に焦点を当てたガイドラインを定める必要があるという。

 「テクノロジーは扱うだけなら簡単だが、ジェネレーティブAIやChatGPTなどの新興テクノロジーを組織内で効果的に機能させ、正しい結果につなげるためには、こうしたガバナンスモデルが非常に重要である」とノーラパティ氏は述べている。

 また、AIを活用したソリューションの開発や導入には、法制度も重要な役割を果たすだろう。IT部門は、進化する法規制を注意深く観察し、ガバナンスモデルに導入する必要がある(注4)。

データの収集と品質

 こうした大規模で複雑なモデルには、適切な種類のデータが大量に必要となる。良いデータを収集するためには、最適な人材を技術チームに加えることが重要だ。

 Info-Tech Research Groupのリサーチディレクターであるブライアン・ジャクソン氏は、「データサイエンスのバックグラウンドを持つ人であれば、データ品質の重要性を理解し、実際にどのように改善すればよいか、なぜプロセスがデータ品質を悪化させるのかを認識できるはずだ」と指摘している。

 同社のデータによると、データ品質は、ジェネレーティブAIのカスタマイズにおける重要性と有効性に関して、2番目に能力の差が大きい要因として挙げられた。

 「特にジェネレーティブAIは、その正確性を確保するために徹底した前処理を経た相当量のデータに依存している。データ品質の維持は、1回限りの作業ではなく、継続的なプロセスだと理解することが重要だ」と、ソフトウェア会社Zeta GlobalのCTO(最高技術責任者)兼製品責任者のクリス・モンバーグ氏も電子メールで述べている。

 また、同氏は以下の3点は見落とされがちで注意が必要だと指摘する。

  • ファーストパーティーデータとサードパーティーデータの両方を活用し、ビジネス領域を正確に反映した、大規模で多様な代表的データセットを収集することが不可欠だ。
  • データ品質とパイプラインの健全性を定期的に監視・観察し、データ品質を継続的に改善することが必要である。
  • 倫理・法令順守に関わるリスクを軽減するために、データガバナンス、セキュリティ、プライバシーの仕組みが重要である。トレーニングデータの偏りに関する懸念や、公平性のためにアルゴリズムをやみくもに最適化することの倫理的意味についても対処する必要がある。

技術スタックの成熟度

 ジェネレーティブAIの採用は、クラウドトランスフォーメーションや「as a Service」システムと同様に、ほとんどの非従来型テック企業がまだ受け入れていないレベルのモダナイゼーションを必要とする。

 「すでにデジタルトランスフォーメーションに着手している組織は、ジェネレーティブAIに対し寛容だ。しかし、レガシーアプリケーションや多くの技術的負債を抱える組織の中には、ジェネレーティブAI、人工知能、機械学習など、あらゆる新興技術への参入障壁があり、普及にはまだ少し時間がかかるだろう」とノーラパティ氏は話す。

開発コスト

 開発コストはほとんどの企業にとって参入障壁となる。大規模なモデルは多くのデータを必要とし、ひいては多くのコンピューティングパワーを必要とするからだ。

 例えば無償で利用できるChatGPTはOpenAIの言語モデル「GPT 3」を使う。OpenAIのサム・アルトマン氏(CEO)は2022年12月にChatGPTの計算コストが「目玉が飛び出るほど高い」とツイートした。

 「ChatGPTの構築はノートPCで実行するものではなく、何千ものサーバにまたがる大規模な設備が必要だ」。このコメントはOpenAIがChatGPTのAIインフラの構築と訓練に使用したオープンソースのユニファイドコンピュートフレームワーク「Ray」を開発したAnyscaleの共同創設者兼CEOのロバート・ニシハラ氏の発言だ。

 「この種のアプリケーションを実行するには、複数のサーバで作業を分担して、データを移動する他、サーバの故障を処理して、システムをスケールアップまたはスケールダウンするために膨大な量のソフトウェアエンジニアリング作業が必要だ。これが参入への大きな障壁となる」(ニシハラ氏)

 ほとんどの企業にとって、このような開発手法が高い投資収益率を生み出すとは考えにくい。予算が限られている企業にとっての回避策の一つは、ベンダーがすでに特定のビジネスニーズに合わせてカスタマイズした生成系AIモデルを使うことだ。

 「2023年はテックジャイアントがそのような回避策を生み出す年になりそうだ。ベンダーを通じてツールが企業に浸透して、企業が生成系AIを採用することになるだろう」(ジャクソン氏)

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