SAP、オラクル、ワークデイはSaaS革命を起こすか クラウドERP「三大勢力」の動向から考察WeeklyMemo(1/2 ページ)

クラウドERP市場で“三大勢力”と目されるSAP、Oracle、Workdayが相次いで新たな動きを表明した。どんな動きか。「クラウドがもたらす本当の変革はSaaSにあり」と考える筆者が、エンタープライズIT市場への影響を考察する。

» 2023年04月17日 15時20分 公開
[松岡功ITmedia]

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 ERP(統合基幹業務システム)をSaaS(Software as a Service)として提供する「クラウドERP」市場の動きが熱気を帯びてきた。

OracleのSaaSを生かす「プレイブック」とは

 この分野のグローバルベンダーの“三大勢力”と目されるSAP、Oracle、Workdayがこのほど、今後のビジネス展開に向けて新たな活動を相次いで発信したからだ。この動きがもたらすエンタープライズIT市場の変化についても筆者なりに考察したい。以下、直近の動きから順に3社それぞれの新たな活動を見ていこう。

 まず、Oracleから見ていく。日本オラクルが2023年4月14日に都内ホテルでプライベートイベント「Oracle CloudWorld Tour Tokyo 2023」を開催した。その基調講演で同社の三澤智光社長が、クラウドERPについて次のように話した。

日本オラクルの三澤智光社長 日本オラクルの三澤智光社長

 「当社は長年にわたってERPをオンプレミス向けに提供してきたが、この分野に悪しき慣習があることは懸念してきた。例えば、導入時に加えてアップグレードの際のコスト負担、複雑なインフラ運用やセキュリティ対策などだ。これらの悪しき慣習は、企業競争力を強化するためにも解消しなければいけない。そこで当社では、クラウド向けに新しく設計、開発したERPを投入し、この分野の悪しき慣習からお客さまが解放されるよう尽力している。クラウドERPによってお客さまのスピード経営をしっかりと支援していきたい」

 Oracleのクラウドサービスというと、同社の主力製品「Oracle Database」が利用できるIaaS/PaaSの「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)が目立ちがちだ。しかし、OracleはクラウドERPを中心としたSaaS群にも注力し、ここ数年、好業績を上げている。三澤氏の発言からは、日本でのビジネス展開に向けた意気込みが伝わってきた。

 加えて、この基調講演で筆者が注目したのは、三澤氏に続いて登壇したOracleレベニュー・オペレーション担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのジェイソン・メイナード氏が語ったSaaS向けの「Oracleプレイブック」の話だ。プレイブックとはスポーツでよく使われる言葉で、いわば「戦略のシナリオ」といった意味合いだ。メイナード氏はOracleプレイブックについて次のように説明した。

 「クラウドERPをはじめとしたSaaSは、業務および業種に応じてきめ細かいソリューションが求められる。そこで、当社ではこれまで長年にわたって培ってきたお客さまの事例や当社自身の事例を基にソリューションごとのベストプラクティスを整理し、さまざまな切り口で応用展開できるようにした。クラウドERPの導入やさらなる展開を検討するお客さまは、大いに活用していただきたい」

 図表1は、Oracleプレイブックの例として経営の共通要素を抜き出したものだ。

Oracleのジェイソン・メイナード氏(レベニュー・オペレーション担当エグゼクティブ・バイスプレジデント、左)とOracleプレイブックの例(出典:「Oracle CloudWorld Tour Tokyo 2023」基調講演) Oracleのジェイソン・メイナード氏(レベニュー・オペレーション担当エグゼクティブ・バイスプレジデント、左)とOracleプレイブックの例(出典:「Oracle CloudWorld Tour Tokyo 2023」基調講演)

 Oracleは今、SaaSの中でも業務と業種のアプリケーション展開に注力している。これらは全てOCIでつくられているので、連携や機能要素の組み入れなどにも対応できるというわけだ。Oracleプレイブックはそうしたベストプラクティスに加え、「それぞれの領域でビジネスの成果を上げるための処方箋も用意している」(メイナード氏)とのこと。同社ならではの興味深い取り組みだ。

「Workdayエンタープライズマネジメントクラウド」とは

 次に、Workdayに話を移す。日本法人のワークデイは2023年4月12日、本社オフィスで今後の経営方針について記者説明会を開いた。この会見で最も印象深かったのは、日本におけるビジネスへの力の入れようだ。

ワークデイの正井拓己氏(エグゼクティブ・プレジデント 兼 日本法人社長) ワークデイの正井拓己氏(エグゼクティブ・プレジデント 兼 日本法人社長)

 会見の冒頭に米国本社のカール・エッシェンバック共同CEOがオンラインで登壇し、「当社にとって、日本でのビジネスは非常にポテンシャルが大きいと考えている。しっかりと投資を行って日本のお客さまのニーズに応じた施策を実行したい。日本のお客さまに、当社としてでき得る最高のサポートをお約束する」と力強いメッセージを発信した。

 これを受け、ワークデイの正井拓己氏(エグゼクティブ・プレジデント 兼 日本法人社長)も「日本市場のポテンシャルや米国本社の投資強化、さらに私が日本法人社長に就任してから3年目となる2023年は、日本法人として集大成の年にするとともに、今後のさらなる成長へ向けた新たなステージにしたい」と意欲を語った。

 この会見で筆者が注目したのは、「Workdayエンタープライズマネジメントクラウド」と呼ばれる、同社ならではの統合ソリューションの考え方だ。正井氏によると、「当社のサービス群を統合したプラットフォームで、より確かな経営判断を迅速に行え、ビジネスと財務のシームレスな運用を実現し、従業員の能力を最大限に引き出せる。こうした統合ソリューションを提供することこそが、当社の責務だと考えている」とのことだ。

 具体的な中身は、図1の通りだ。

図1 「Workdayエンタープライズマネジメントクラウド」の概要(出典:ワークデイの会見資料) 図1 「Workdayエンタープライズマネジメントクラウド」の概要(出典:ワークデイの会見資料)

 「この図は、当社が提供する人材管理(ヒューマンキャピタルマネジメント)、財務管理(ファイナンシャルマネジメント)、経営計画(アダプティブプランニング)のソリューションが一つのプラットフォームに統合され、クラウドネイティブなアーキテクチャの基でデータモデルもセキュリティモデルも統一されていることを表している」(正井氏)と言う。同社としては、個々のサービスもさることながら、このエンタープライズマネジメントクラウドを普及させていくことが最大の眼目であり、競合他社との差別化戦略となる。そして、エンタープライズマネジメントクラウドそのものが、WorkdayのクラウドERPといえるだろう。

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