最後にSAPを見ていこう。SAPジャパンが2023年4月6日、SAP SEの先頃の発表を受けて、中堅・中小企業がクラウドERPを短期間で導入できるソリューション「GROW with SAP」を国内でも発表した。SAPのクラウドERP「SAP S/4HANA Cloud, public edition」と導入促進サービス、専門家のグローバルコミュニティー、学習リソースから構成され、導入企業が最短4週間で本稼働できるようにするとしている。
SAP SEのクリスチャン・クラインCEOはGROW with SAPについて、「中堅・中小企業が、将来にわたる成功のために必要な俊敏性および革新性を提供したい」と、中堅・中小企業の成長を促すソリューションであることを強調した。詳しい内容については発表資料をご覧いただきたい。
筆者がこの発表に注目したのは、同社が現在注力しているエンタープライズ向けクラウドERPソリューション「RISE with SAP」と同じブランディング形態によってビジネス拡大を図ろうとしていることから、今後同社の主力製品の一つになる可能性が高いからだ。
加えて、2022年12月5日掲載の本連載記事「SAPジャパンの2023年事業戦略にみる『日本企業のDXの針路』」で、SAPジャパンの鈴木洋史社長が「2023年はパブリッククラウドサービスに注力していきたい」と述べていたことから、まさしくパブリッククラウドを軸に据えたGROW with SAPに日本でも注力していくことになりそうだ。
さて、これらのクラウドERPを巡る動きは、エンタープライズIT市場にどのような影響をもたらすのか。筆者が着目しているのは、企業の基幹業務システムのクラウド化に向けた動きだ。この分野は、クラウドサービスではこれまでIaaS(Infrastructure as a Service)ばかりが目立っていたが、これからはクラウドERPによるSaaSがもっと注目を集めることになるのではないか。「クラウドがもたらす本当の変革はSaaSにあり」というのが筆者の持論だ。中でもクラウドERPは古くなった既存の基幹業務システムをダイナミックに変革する絶好のチャンスだ。
すなわち、クラウドERPはエンタープライズIT市場を抜本的に変化させる可能性がある。その意味でも、今回紹介した三大勢力には、それぞれさらに勢力拡大に注力してもらいたい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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