ロイヤルカスタマーの解像度を上げる〜約100のAIモデルをMLOpsで自動運用するNTTドコモMLOps実践事例(1/2 ページ)

事業者はどこまで「顧客はいま何を望んでいるか」を把握しているだろうか。国内でも有数の顧客基盤を抱えるNTTドコモは約100ものAIモデルを駆使してサービス品質の改善を進める。AIモデルの品質維持や検証を含む運用体制はどうなっているだろうか。

» 2023年05月29日 08時30分 公開
[谷川耕一ITmedia]

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 各種ネットワークのサービスや映像配信など、携帯電話回線だけでなく多様な事業に取り組むNTTドコモ。同社はさまざまな事業の中で生まれる、膨大な顧客データを預かっている。そして、それらのデータを活用し、ユーザーに新たな価値を提供する取り組みに力を入れている。データから価値を生み出すには、AI(人工知能)など新たな技術も活用する。深層学習などを使って多数の精度の高い予測モデルを作り、それらを適宜改善しながら運用にする。これ実現するために、NTTドコモではMLOpsの仕組みが必要だった。

 従来は社内の企画やマーケティング担当などから依頼を受け、データを扱えるエンジニアがデータを分析し、得られる知見をそれぞれが活用できるようにしてきた。これからは「データ活用は当たり前で、ビジネスユーザーもデータ活用が容易にできるように取り組んでいます」と言うのは、NTTドコモ スマートライフカンパニー データプラットフォーム部の吉田祥平氏だ。

NTTドコモ 吉田祥平氏

個人活動から生まれたAI活用「5モデル運用が限界」から100モデル運用に至るまで

 NTTドコモでは、2019年の初頭から機械学習技術の利用を始めている。当時はデータサイエンティストなどが最適な機械学習モデルの構築を競う「Kaggle」などが注目され始めた頃だ。同社が機械学習の取り組みをスタートさせたのは、データプラットフォーム部の藤平 亮氏が興味を持ち、独学で試したことがきっかけだ。最初に取り組んだのが、同社が手掛けるサブスクリプションサービスの「解約予兆モデル」の作成だ。

 「作成したAIモデルを使って解約率低減に向けた施策を打ってみると従来と比べてかなりよい反応が得られました」と藤平氏は当時の感触を振り返る。この成功をきっかけに、ルールベースで大まかなセグメントを設定して情報を送る手法から、AIモデルを生かした高度なセグメント設定に基づく施策に切り替え、施策全体の投資対効果(ROI)を改善していこうという機運が生まれた。

 そこで藤平氏は、さらに2つの施策に対し5つの予測モデルを構築し新たな施策のために運用を始める。とはいえこの5モデルの運用にはかなり手間がかかる。

 「モデルを作るためのデータサイエンスに関わるリソースは相応にかかります。とはいえそのための人を増やすのもそう簡単ではなく、1人でこれ以上のモデルを運用することも困難な状況でした」(藤平氏)

NTTドコモ 藤平 亮氏

AIモデル開発と運用をスケールさせる環境として3つのツールを比較

 藤平氏はこの課題を解決するために機械学習モデルの構築と運用を効率化する必要があると考え、MLOpsの導入を検討し始めた。

 MLOpsを支援するツールの候補はたくさんあった。この中から藤平氏が具体的に比較したのは「dotData」「Amazon SageMaker」「DataRobot」の3つだ。まず、「当時のSageMakerはそれなりのプログラムを記述することを前提とした仕様だった」(藤平氏)ため、効率化して運用可能なモデル数を拡張するという目的からは外れた。「dotDataは、大量データを使ってモデリングをするところが非常に優秀、使い勝手も良い」と評価した。DataRobotについては、さまざまなユーザーが活用することができ、データサイエンティストが自ら特徴量を作り、試行錯誤できる余地が高いと判断した。

 「もし私が機械学習モデルを作ったことがなければ、dotDataを選んでいたかもしれません」と藤平氏は選定時の考えを説明する。ゼロからモデルを作るのではなく、既にある程度のモデル構築の経験があったため、DataRobotの自由度の高さに対する期待が大きく、モデル作りのモチベーションを刺激したことも、DataRobot選定の理由の1つだ。選定時に偶然、他部署からもDataRobotを使ってみたいとの要望が上がったことも後押しした。複数部署でDataRobotを並行活用することで、より大きな費用対効果が得られる目処がつき、DataRobotを使ったAutoMLの導入が決定した。

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