会見でレヴィ氏に続いて日本での事業戦略について説明したBox Japanの古市克典社長は、Box AIについてレヴィ氏の話を補足しつつ、今後のBox AIの取り組みについて次のように話した。
「Box AIはまずOpenAIと(その後ろ盾となっている)Microsoftとの連携を進めている。当社はGoogleとも密接な関係にあることから、GoogleのAIとも連携していきたい。さらにAmazon Web Services(AWS)のAIとも連携できるようにして、ハイパースケールのクラウドサービスを提供する各社のAIを、お客さまが用途に応じて使い分けられるようにしたい」(図5)
この点については、コンテンツクラウドのBoxがマルチクラウド対応なので、Box AIも当然の方向で広がっていくとみられる。ただし、図5の構図からすると、Boxがハイパースケーラーの3社を束ねる立場で存在感の大きさを誇示しているようにも見える。
さて、上記の話で筆者が最も興味深く感じたのは、ChatGPTの機能を統合したBox AIは、企業にとって社内のコンテンツを対象にした形でChatGPTを安全に利用できる格好のツールと見て取れるからだ。Box自体が業務アプリケーションでありコンテンツを管理するツールなので、ジェネレーティブAIとの相乗効果が大きいことは明白だ。
こうしたことから、Box AIはBoxの既存ユーザーもさることながら、新規ユーザーに対しても強い訴求力があるのではないかというのが筆者の見立てだ。しかもBox Japanは「100%間接販売」(古市氏)なので、同社とパートナー契約を結ぶITサービスベンダーにとっても商機となる。その意味では、BoxにとってBox AIが成長に大きな弾みをつける商材となるのは間違いないだろう。
そこで、会見の質疑応答でレヴィ氏に「Boxが今後、一回りも二回りも大きくなるためにどんなことを考えているか。現業に加えて新しい領域に進出する可能性はあるか」と聞いてみた。
こう質問したのには理由がある。Boxは現在、創業18年目でグローバルでの年商は約10億ドルとのことだが、SaaS(Software as a Service)ベンダーとしてまだまだ大きく伸びるポテンシャルがあるのではないか。コンテンツ管理のクラウドサービスはもともと売上規模が小さいのかもしれないが、知名度の高さからすると年商規模が数十億ドルあっていいというのが筆者の印象だ。この質問に対し、レヴィ氏は次のように答えた。
「今後も企業のコンテンツの管理や活用にフォーカスしていくことに変わりはない。Box AIはそうしたコンテンツがそれぞれの企業にとってこれからの競争力の源泉となるナレッジベースとなり、そのユースケースが大きく広がっていくだろう」
つまりは、今後もコンテンツクラウドに注力するということだ。例えば、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けてその中でのBoxの役割を起点にコンサルティングを展開するといったことも考えられるが、そうした取り組みはBoxのビジネスモデルではないのだろう。
Box AIがChatGPTをはじめとしたジェネレーティブAIの需要拡大の波に乗ってどれだけユーザーから受け入れられるか。注目していきたい。
(図表の差し替えと更新について)Box社の申し出を受けて「図5 マルチクラウド対応のBox」の図表を最新版に差し替えました。公開時の「Google」ロゴが最新版では「Google Cloud」ロゴに変更されています(2023年5月25日20時00分更新)。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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