クラウド運用で注目される「CCoE」はどう運用すべきか セブン銀行に聞いたCCoEの成功例

クラウド移行や運用フェーズで近年注目が集まるのがCCoEだ。一方「どのように始めればよいのか」「何に取り組むのか」が明確にならず、なかなか取り組めない企業も多い。成功例ともいえるセブン銀行にそのノウハウを聞いた。

» 2023年06月01日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 クラウドを活用する企業が増えている一方で、「CCoE」(Cloud Center of Excellence)の運用に悩んでいる企業は依然として多いようだ。CCoEをうまく機能させたことで、セブン銀行はクラウド移行を成功へと導いた。

クラウド運用で注目される「CCoE」はどう運用すべきか セブン銀行に聞いた

徳田義明氏

 セブン銀行は2019年度にATM中継システムやダイレクトバンキングサービスといった基幹系システムのクラウド移行を開始し、2021年度に運用を始めた。ATMを中心にビジネス展開する同社は、他行のようにさまざまなサービスに挑戦したいと考えていた一方で、大きく始めることのリスクも感じていた。セブン銀行の徳田義明氏(デジタルバンキング部 CCoE リーダー 主任調査役)は「クラウドであれば小さく始めて、うまくいけばスケールすることもできます。最悪、途中でやめることも簡単です」と話す。

 セブン銀行はクラウド基盤に「Microsoft Azure」(以下、Azure)を活用した理由として、徳田氏は「本番環境で利用可能なPaaS」「既存システム資産の活用」「金融機関向けの契約」「東西リージョンの存在」を挙げた。

 「スモールスタートがしやすいことはもちろん、『Windows』を中心としてIT資産や開発体制と親和性が高かったことは大きなメリットでした。また、『FISC』(金融機関が情報システムを構築する際の安全対策基準)に準拠していることも魅力的でした」(徳田氏)

 これらのメリットもあってAzureへ移行したセブン銀行だが、現在はどのような点にメリットを感じているのだろうか。徳田氏によれば、ローコード/ノーコードツールの活用やリソース調達の容易さからサービス開始までのスピードが上がったことはもちろん、初期費用が掛からなくなった点も評価したという。

 一方、さまざまなスピードが上がる中で移行後初期にはトラブルも発生し、また、利用が増えるに応じてコストも増加している。セブン銀行は2022年度から本格的にコスト分析の高度化に取り組み、リソースに対して費やしたコストを今後明確にしていくようだ。全体的なクラウド化の評価については「コスト削減」「拡張性向上」「システム化のスピードアップ」「可用性」「セキュリティ」といった観点で継続して検討していくとしている。

クラウドの移行や運用で活躍しているCCoE

 セブン銀行は2018年度にCCoEを立ち上げて取り組みを推進している。当初はインフラエンジニアをCCoEという肩書に変えて組織を編成し、現在は10人まで増えた。立ち上げ当初は「CCoEってなんだ」という漠然とした疑問の声がチームや社内から聞こえたが、「CCoEの重要性」や「CCoEに求められていること」を整理し積極的に発信していくことで、組織的にCCoEの存在を根付かせられたという。

 セブン銀行におけるCCoEの役割は「クラウド活用推進」「知見の蓄積と共有」「ガバナンス」の3つに大別できる。

 クラウド活用推進では設計や運用ガイドラインの策定、標準化、共通化推進、技術サポートなどを担う。知見の蓄積と共有では、技術やサービス情報の収集と提供、ベストプラクティスの横展開、カタログ化などを行う。そしてガバナンスでは、モニタリングやコントロール、意思決定プロセス支援に取り組んでいる。

戸塚大樹氏

 セブン銀行の戸塚大樹氏(デジタルバンキング部 CCoE 調査役)はこれら3つの役割について「CCoEがクラウドベンダーの窓口になって、合意形成や問題発生時の代替策の調整を実施します。クラウド利用ガイドラインについてもCCoEが中心となって策定しており、システム間でクラウド利用のノウハウを共有することができました。その結果、個別最適化やサイロ化したシステムからの脱却が可能になります」と見解を述べた。

 徳田氏もセブン銀行におけるCCoEについて「金融機関のミッションクリティカルなシステムをPaaS中心に構成する等、クラウドのメリットを最大限享受し、クラウドの活用推進についてかなり高いレベルまで来ていると感じています。ビジネスメリットを明確にし、それぞれのメンバーがKPIを基に自走できる組織になっているからです」と語った。

現在の課題と今後の目標

 CCoEとして、クラウド活用に対してオンプレ時には想定していなかったクラウド側のメンテナンスや障害がサービス影響を与えるケースもあり、「障害発生時の早期復旧」などの課題を感じているという。これらに関して徳田氏は、「自社で再復旧できるよう、環境構築に取り組んでいます。クラウドに適した復旧を最優先にする考え方の徹底が欠かせません」と現時点での解決策を示した。リモート環境からの障害対応については、アカウントのログインにはMFA設定の有効化や管理者のMFAコードヒアリングを必須にするなど、アカウントに細かな権限設定を与えることで情報漏えいのリスクを軽減し、リモートに対応可能な世界観を実現するという。

 またセブン銀行は今後、それぞれのパブリッククラウドが持つ特徴やメリットを享受する為にマルチクラウド環境にも挑戦していくようだ。徳田氏は「全てのシステムがクラウド化すればよいとは思っていません。実際にセブン銀行も勘定系は現在もオンプレミスで運用しており、クラウドへの移行は今後の検討課題となっています。重要なことはシステムの親和性と堅牢性を意識することです」と述べた。

 「CCoEを含めDXを推進するには、担当者が裁量権を持って意思決定のスピードを加速させ、強いリーダーシップを発揮しなければなりません。特にCCoEなどの立ち上げ時は積極的に認知を広げてスピーディーに取り組む必要があります。クラウドサービスのメリットとデメリットを認識しながら、企業に合った方法でDXを推進してください」(徳田氏)

右から徳田氏と戸塚氏

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