高橋 中林さんはChatGPTをはじめとする生成AIのインパクトをどのように見ておられるか。
中林 人材の観点で言えば、私も生成AIを使いこなせる人と使いこなせない人のスキルレベルの差が広がっていくのではないかと見ている。私も大学で講義する中で今の学生のChatGPTの使い方を目の当たりにしている。これから社会に出てくる人たちは生成AIのスキルを当然のように保持するようになるだろう。
一方、企業においてもChatGPTなどの生成AIを業務の支援ツールとして採用する動きが活発になっている。生成AIの使いこなし方については、これから新しく社会人になる人たちはこれまでと「非連続な人材」であることを認識しておかなければならないのではないか。場合によっては、入社して2〜3年の人たちよりも生成AIを使いこなす新人のほうが、何をやらせても生産性が格段に上という現象が起きるかもしれない。
もしそうなれば、企業として考えなければいけないのは、採用条件などの人事制度として従来のままでいいのかどうかだ。生成AIを使いこなして明らかに生産性の高い人材をどのような待遇で受け入れるのか。そうした新たな人材に高いモチベーションで働いてもらえるようにするとともに、社内にもその波及効果を広げていくためにはどうすればいいのか。
「生成AIを使いこなす人材に関してそこまで考える必要があるのか」と見る向きもあるだろうが、私はそのぐらい採用人材において非連続な現象が起きることを、企業は頭に入れておくべきだと思う。
高橋 見方を変えると、これから非常に楽しみな人材が入ってくるともいえる。ただ、企業はそうした非連続な人材をどう受け入れ、生かしていくか。そこは今から真剣に考えておく必要がある。その辺りについて企業に対するサポートは、データサイエンティスト協会でも何かやりようがあるかもしれない。
中林 高橋さんは生成AIのインパクトをどのように見ておられるのか。
高橋 例えば、コンサルタントはこれまで自らの知識とさまざまな情報収集のスキルを基に提案内容を作り上げ、その経験を積み重ねることでコンサルティングノウハウを磨き上げてきた。そのプロセスにおける知識やスキル、さらには経験まで含めたかなりの部分を生成AIが代替できるのではないかとの見方もある。最近、大手のコンサルティングファームが人員整理に乗り出しているが、生成AIの出現と無縁ではないのではないか。そう考えると、これから生成AIによって人員の調整が進む職種は少なからず出てくるだろう。
一方で、「DX人材が不足している」今、生成AIは効果的なのではないか。DX人材を外部から連れてくるよりも、生成AIを活用して現有社員のスキルアップを図ることによってビジネスやマネジメントの変革を図っていく。ただ、生成AIを安全に使えるようにすることや先ほどお話があった人事施策など、企業としては経営課題があることを明確に認識して取り組む必要があると考える。
中林 従業員の中にもDXへの意識の高い人は既に積極的に生成AIを活用し、その効果のほども見えてきている。企業としてはそうしたパワーを全社に広げて自らのビジネスにフィットするように組織や働き方を見直していけばいい。
樋口 一方で、意識がそれほど高くない人たちが生成AIを使って生産性を上げるためには、先にも申し上げたように、やはり基礎が大事だ。これは最後に改めて強調したい。
以上が、座談会のエッセンスだ。樋口氏が幾度も強調した「基礎が大事」というのは、筆者は生成AIに対する「人として必要なもの」と受け止めた。また、高橋氏と中林氏のやりとりの中で出てきた「生成AIはDX人材不足に効果的」という見方がストンと腹落ちした。11年目に入ったデータサイエンティスト協会の活動や発信には今後も注目していきたい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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