「AIが卵より安くなる未来」に向けて、今からやるべきことデータ活用のための思考術

中だるみを感じる水曜日を乗り越えようとしている皆さまに向けて、今週もデータ活用のための思考術をお届けします。企業でChatGPTをいかに活用するかという模索が続く中で、筆者はAIがコモディティ化する未来に向けて今からやっておくべきことがあると言います。その内容とは。

» 2023年05月24日 09時00分 公開
[永田豊志ITmedia]

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この連載について

 今やデータ分析はアナリストや研究者、コンサルタントだけでなく、一般のビジネスパーソンにも広く求められるスキルの一つとなっています。

 「そうは言っても、何から手を付ければ良いか分からない」「意気込んでデータ活用の本を買ってみたものの、“積読”(つんどく)になっている」という方に向けて、“やる気をスキルに変えるための思考術”をお届けします。

 「思考なんて回りくどいものではなく、データ活用を実践するためのツールを教えてほしいんだ」とおっしゃる方にこそお薦めしたい連載です。目まぐるしく新製品が登場したりアップデートが繰り返されるツールを上手に活用するためにも、一度身に付ければなかなかさびることのない思考方法に接することで、スキルとともにご自身の仕事の進め方も少しずつアップデートできるすべが見つかるかもしれません。

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 ITmedia エンタープライズの読者の皆さん、こんにちは。

 昨今は「ChatGPT」をはじめとする生成型AI(人工知能)の話題に事欠きません。筆者も早くからChatGPTの有料版を導入し、仕事にプライベートに活用しています。

「AIが卵より安くなる」時代がやって来る

 ChatGPTだけでなく、MicrosoftはOpenAIに大規模出資して「Microsoft Bing」や「Microsoft Office」などの自社製品に対話型AIを組み込んでいますし、ChatGPTに検索市場を奪われるのではないかとの臆測で一時期は時価総額が激しく下がったGoogleの起死回生の「Google Bard」など、多くの選択肢が提供されるようになってきました。

 酷評も見かけるBartですが、個人的には意外と使いやすく気に入ってます。精度もまずまずの印象です。

 さらに、こうした大規模学習モデルを活用して特定領域の対話型アプリケーションがリリースされています。

 企業でも、こうした大規模言語処理モデルをAPIなどを通じて自社データを学習させ、セキュアかつ特定の目的で活用する取り組みが増えるでしょう。例えば「対話型医療相談」や「AI会計相談員」などが当たり前の世界になるのではないでしょうか。

 筆者が何を言いたいのかと言うと、「AIが卵より安くなる時代」になるということです。いわゆるAIのコモディティ化が起きるのです。

「AIと人間のアウトプットがどちらが良いか」という議論は無用に

 初期には高年収のエンジニアを多数確保して数理モデルを作ったり、膨大なデータを学習させたり、高価なGPUマシンをたくさん購入したりして、AIにはとかくお金がかかります。しかし、普及期においては、従前の数理モデルなどを安価に利用でき、多くのAIが乱立してレッドオーシャンとなり、コストはほとんど気にならないレベルになります。

 そうなると、「AIと人間のアウトプットのどちらが良いか」なんて議論は無用です。

 人間のアウトプットの方が良いとしても、AIのコストパフォーマンスには勝てません。従来、AIが活用されてきたテキストや画像の認識、それによる簡易な判断に加えて、ホワイトカラーの仕事のかなりの部分(計画や調査、分析、提案など)がAIに置き換えられるでしょう。残念ながら、オリジナリティーに価値が見出だされなくなる世界においては、著作権や知的財産で商売するのは難しくなりそうです。

 そうなったときに、人間のやるべきことは1つだけだと筆者は考えています。「AIに指示を与える側に回る」ことです。

 この指示を「プロンプト」などと呼びます。文章を生成する場合にAIに要件を伝える場合には、

 「マーケティングについて説明する文章を生成してほしい」

 という曖昧(あいまい)な文章では、辞書にのっとった定義や「Wikipedia」のような文章が生成されるだけです。

 実際に最新バージョンの大規模言語モデルであるGPT-4を搭載したChatGPTに上記の指示文で文章を生成させると、「マーケティングとは、企業や組織が自身の製品やサービスを顧客に対して適切に提供し、その価値を最大限に引き出すための戦略的な取り組みのことを指します。このプロセスは……」といった文章が生成されます。

 生成された文章は長いので、以下のスクリーンショットでご紹介します。

 これで事足りるでしょうか。ほとんどの場合はそうはならないですよね。では、どうすればよいのでしょうか。何かを生成する場合は、その目的や読者ターゲット、入れるべき要素、分量などを指定することが不可欠です。

 また、アウトプットをより高い品質にするためには、前提条件や具体的な要求を指示文に盛り込むことが重要です。こうした指示文(プロンプト)を作成する技術の優劣が、仕事の品質の差につながる時代となるのです。

 先のマーケティングに関する文章を作成するには、以下のように書けば、目的に合った品質の高いコンテンツを作れます。

「マーケティングについて説明する文章を生成してほしい。ただし、デジタルマーケティングの領域に絞り、読む相手としてはマーケティング担当者ではなく経営者を想定し、デジタルマーケティングとその他のマーケティングとのメリットやデメリットなどの違い、具体的な事例なども踏まえて1000字程度でまとめてください」

 

 上記の文章を書いた結果、次のようなアウトプットが得られました。指示文で入れた要素は網羅されています。

 テキスト生成でさえ、このような細かい指示文が必要ですから、画像などの生成ではさらに細かい要素を指定しなければ、意図するアウトプットにはならないでしょう。

 今後、仕事の現場で広く生成型AIや対話型AIが使われることになると思います。

 PCやスプレッドシートの使い方を学んだように、われわれは最適なプロンプトを作って、AIの生産性を最大化するために努力する必要がありそうです。

 AIが代替する作業領域はかなり広範囲に及び、雇用に影響が出ることは避けられないと思います。ただし、AIを活用した新たに価値提供する仕事も同じぐらい生まれることを期待して、筆者自身も“プロンプト力”を磨いています。

 ぜひ皆さんもこの領域のスキルが将来の新たな価値につながることをイメージして、チャレンジしてみてください。

今回のまとめ

1. AIのコモディティ化は避けられない:AIのコストの安さを前に「AIと人間のアウトプットがどちらが良いか」という議論は無用になる時代がやって来る


2. AIに適切な指示を与える側に回ろう:AIに置き換わる範囲は広く、雇用に影響が出ることは避けられない


3. 適切な指示文を作成する“プロンプト力”を磨こう:生成AIに適切なプロンプトを与えてアウトプットの質を高める技術が重要になる

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

知的生産研究家、起業家、上場企業の経営者。現在、DX支援クラウドを提供する株式会社ショーケース(東証3909)とリユースモバイル事業を運営する日本テレホン株式会社(東証9425)、2社の上場企業の経営者。

企業経営と並行し、新規ビジネス開発、働く人の生産性向上をライフワークとした執筆、講演活動などを行う。

自著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』(ソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)、『会社では教えてもらえない仕事がデキる人の資料作成のキホン』(すばる舎刊)がある。

著書一覧:https://www.amazon.co.jp/s?k=%E6%B0%B8%E7%94%B0%E8%B1%8A%E5%BF%97

連絡先: nagata@showcase-tv.com

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