生成AIの企業利用はどうなる? ガイドライン整備を急ぐ日本の状況編集部コラム

生成AIの利用促進に向けて、現行法の解釈やリスクを企業がどう判断すべきかを示したガイドラインが公開されました。現在議論されているリスクと国際的な「温度感」はどうなっているのでしょうか。

» 2023年05月10日 10時30分 公開
[荒 民雄ITmedia]

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「生成AIガイドライン(解説付き)」の一部。Word形式で配布されており、各自で解説を読みながらルールを設定できるようになっている(出典:日本ディープラーニング協会公開資料)

 2023年5月1日、日本ディープラーニング協会が「生成AIガイドライン」を発表しました。企業などが生成AI(人工知能)を活用する上であらかじめ定めておくべき項目をまとめ、すぐに使えるドキュメントとして配布するものです。ガイドラインは今後の技術革新を考慮して継続的にアップデートする方針です。

 これからの時代を生きるには、おそらくAIによるアウトプットを使いこなすスキルを持つことが大前提になります。いずれは「Microsoft Excel」などと同じようにAIのアウトプットを特性を理解しながら使いこなすことがビジネススキルの一つになっていくことでしょう。それにはアウトプットの正しさを判断する能力やAIのアウトプットを超えた成果物を出すスキルも含まれることになるはずです。

 新聞などの報道によれば2023年4月末に行われたG7の会合においても生成AIの扱いが議論されたばかりです。欧州内においては温度差はあるものの学習ソースや倫理ポリシーの開示を求めるなど、規制寄りの判断を求める声が大きいようです。

 一方で、日本は積極的に活用するために規制よりもガイドラインによる誘導に留めるべきとの姿勢を示しており、文部科学省や農林水産省などがガイドラインづくりを進めています。日本ディープラーニング協会の発表は、政府の方針に沿った一般企業のガイドラインづくりを支援するものといえるでしょう。

※本稿は2023年5月9日配信のメールマガジンに掲載したコラムの転載です。受信登録はこちら


生成AIを利用する企業が考えるべきリスク

 既存の知識体系を学習して言葉を生成するジェネレ―ティブAIは既知の問題解決に役立つと考えられており、事業活動の効率化への貢献が期待される一方で、その利用にあたっては法解釈や運用のルールが明確ではないため、意図せず企業がリスクにさらされる可能性もあります。

 例えば現在の日本の現行法の解釈によれば、AIが多様なソースを学習できるよう、多様な著作物を学習させることそのものは著作権侵害に当たらないとされています。世にある論文や公開データに加えて、クリエーターが制作した作品であっても、学習させることそのものについては権利侵害とみなしませんが、アウトプット次第では著作権侵害が認められるケースもあるとされています。ガイドラインはこの点も留意するよう、利用者に促しています。

生成AIの本格的な「利用」に向けた調整の行方は

 AI利用に当たってのリスクは他にもあります。

 一時期、日本でも問題視されたAIによるスコアリングの扱いや、公平に見せかけて恣意的な回答を提示することで人の認知に歪みを生じさせるようなAIの悪用をどう規制するか、他人の著作物を学習させたAIのアウトプットの著作権がどうなるかはEU圏を中心に懸念を示す声が大きい点で、現在も調整が進められています。他にも、機密情報を入力したり学習させたりした場合は情報漏えいに当たるのか、日本における解釈と他国の解釈の違いをどう判断すべきかといった問題もあります。

 現段階で想定されるのは、GDPR(EU一般データ保護規則)への対応と同じように、EU圏のユーザーを対象としたサービスを開発する場合、日本で開発したサービスであってもEU圏のユーザーが想定されればEUの規制に対応しなければならなくなるだろうという点です。いくら日本が積極的なスタンスであっても、近い将来、ルールが整備されれば対応せざるを得なくなるでしょう。

 日本ディープラーニング協会理事の松尾 豊氏は、ガイドライン発表に際して「規制がゆるい日本はAI開発者にとってチャンスになる」とコメントしています。今のうちに、もしくは日本国内だけでも、AI開発やAI利用スキルを高める取り組みを進めておくべきなのかもしれません。

日本国内の学習ソース整備の状況は

 さまざまなリスクが議論される中でも、日本がAI利用や開発に積極的なのは「人口減少期の日本としてはAIに賭けるしかない」という危機感もあるでしょう。肝心のAIを生かすには、AIが学習できるデータを可能な限り収集、蓄積することが重要になってきます。

 生成AIが話題になる前のものになりますが、内閣府が公開している「AI戦略2022」を見ると、本格的なデータの蓄積に向けた環境整備を進める方針が示されています。都市や自然データの収集や公開の取り組みの他、日本が国際競争力を維持している創薬などの分野で重点的にAIの活用を急ぐようです。

「AI戦略2022」抜粋(出典:内閣府公開資料「AI戦略2022」)

 これらの取り組みは、AI技術の「利用」を前提としていますが、AI競争においてはAIモデルそのものが強みとなります。現在の生成AIモデルの開発競争を見ると今後数年の言語生成AIの発展は規模の勝負になるとされています。学習ソースと計算リソースがものをいうのであれば、利用にとどまらず、基礎研究や応用技術の開発支援に力を入れ、日本から大規模な生成AIモデルが生まれることも期待したいところです。

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