グループ12万人の共通基盤整備をショーケースに NEC社長の森田氏

組織改革を急ぐNECの直近の業績が好調だ。2022年度は「ネットワークサービス」を除く4つの事業領域でプラス成長をとげている。今後の見通しを同社社長に聞いた。

» 2023年06月06日 07時00分 公開
[原田美穂ITmedia]

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 2023年6月1日、NECの代表取締役 執行役員社長兼CEO(最高経営責任者)の森田隆之氏がメディア向けに今年度の事業見通しなどを語るオンライン会見が開催された。

 同社は2021年度から進めてきた中期経営計画において「コアDX」「グローバル5G「デジタルガバメント/ファイナンス」(DG/DF)の3つを成長の軸に据えている。本稿ではこのうちコアDXとグローバル5Gを中心に森田氏のコメントを紹介する。

NEC社長兼CEO 森田隆之氏

【おわびと訂正】本稿公開時点で従業員数および5G事業の業績数値の一部に誤りがありました。Global Oneは2023年5月に「刷新」が正しい情報です。読者及び関係者の皆さまにお詫び申し上げます(本ページは既に訂正しています)。―― 06 Jun 2023 22:43:18 +0900修正



個別最適のIT提供をしてきた顧客にも総合提案を進める

 エンタープライズIT領域の事業環境は大きな変化が巻き起こる渦中にある。DX推進とともに固定的なシステムの構築と保守・運用で稼ぐモデルはもはや通用せず、IT投資でどう新しい価値創出につなげられるかを問われる状況だ。

 NECは2015年にアビームコンサルティングを完全子会社化しており、現在は上流のコンサルティングからソリューションデリバリーまでのプロセスを整えつつある。直近では2023年3月に同社グループ内の人材を集約したセキュリティ専門組織「NECセキュリティ」を立ち上げた。これらも同社がコアDX推進するための布石と考えられる。

 「(顧客企業におけるIT投資において)今はあらゆるものの見直しの時だと考える。ITリーダーに求められるものも変わってきた。われわれが会話する相手も変わりつつある。こうした中で、従来小さなスポット取引だった企業からも全社包括的な改革の相談を受けるケースが増えている」(森田氏)

 同社成長のドライバーの一つである「コアDX」は従来、業種や業務単位で課題解決してきた個別最適のITソリューション提供を改め、全体最適を目指す組織改革「国内IT事業のトランスフォーメーション」と表現される。

「国内IT事業のトランスフォーメーション」(出典:NEC「2025中期経営計画」公開資料より)

 「NECはなまじ皆の技術力があるため、課題があれば各部門がそれぞれに解決してきた。結果的にこれがグループ内での重複を生むことになった。これを改めてわれわれが持つ共通プラットフォームを基に最適化する方針だ。グループ全体で約12万人を抱え、さまざまな事業や業務に従事している。顧客ニーズの多くをわれわれ自身が業務の中で実践できると考えている。この知見を顧客に提供できるはずだ」(森田氏)

 同社は重複を減らしつつ専門性を高める組織を目指して、2024年までに全社でジョブ型のマネジメント体制に移行することも発表している。

 「より従業員の流動性を高めていく。今後も領域ごとに必要な人材をそろえていく。現在既に毎年の中途採用数は新卒採用数より多くなっている」(森田氏)

12万人が使うビジネスプラットフォーム「Global One」をショーケースに

 NECは顧客向けだけでなく、「経営」「事業」「従業員」の観点から自社のCX(コーポレート・トランスフォーメーション)促進に向けた変革プロジェクトをリードする組織「Transformation Office」を2021年度に立ち上げ、ビジネスプロセスの見直しやグローバルでの標準化を進めている。

 「NECは2023年5月、かねて取り組んできたグローバル共通の経営基盤『Global One』を刷新し、カットオーバーした。グループ全体でデータドリブンな経営を進める。この取り組みの中でSAPやMicrosoftからの深い技術コミットメントも受けた。いってみれば、私たちはグループ全体で各社技術のたたき台にしてもらったかたちだ。Servicenowとも同様の取り組みを進めている。ITベンダー各社とは、グローバルでプロダクトロードマップの共有を含む良い関係を築いている。この取り組みの中で自社の顔認証技術なども生かしていく。私たちが肌感覚として学んだナレッジを顧客のユースケース発見につなげていく考えだ」(森田氏)

これらの取り組みは、アビームコンサルティングのチームとともに上流のアジェンダ設定からシステムの実装まで包括的に顧客に展開される。

 「国内で約7000人規模のコンサルタントを抱える組織はそうないはずだ。これからはプロジェクト単位ではなく全体の大きなアジェンダの中でコアDXを考えていく」(森田氏)

社会的価値への投資による波及効果も重視

 「社会的価値を重視することで将来的な波及効果があると考える」と社会インフラに対する投資を重視するコメントも得られた。ただし「つながる社会」に向けて日本中の投資がインフラに集中する中、同社が注力する技術領域の一つである5Gについては景気動向の影響を受けて成長が鈍化している。

 「直近の成長が鈍化して見えるのは、コスト高などを背景にキャリア各社が新規投資を控えたことが影響している。市場シェアを取りにいく考えで先行投資を進めたことが影響した。われわれの事業見通しも当初計画をやや後ろ倒しする考えだ。2022年度は5G事業においてマイナスを出したが、構造改革の成果により今期は改善を見込んでいる。これらのマイナスは他のITネットワーク系事業の収益でカバーする考えだ」(森田氏)

同社成長の軸となる3領域と「コアDX」「グローバル5G」の位置付け。図は2022年度決算発表における各領域の進ちょくを示したもの(出典:NEC「2022年度(23年3月期) 通期決算概要」公開資料より)

 今後の5G事業の展開について、森田氏は技術普及のマイルストーンと併せて、現実的な視点から見通しを話した。

 5G通信で使われるO-RAN(Open Radio Access Network)は、大まかに言うと従来の通信基地局装置のうち、一部を仮想化してソフトウェア制御を可能にし、ハードウェアとの通信インタフェースを標準化してオープンな仕様とする取り組みとその実装を指す。機器間の互換性が高まるため、装置への投資が少なく済む上、制御に機械学習などを組み込めば運用の自動化や自律制御なども可能になるとされる。

 5Gの次世代の通信規格である「beyond 5G/6G」の話題もあるが、これらは大阪万博の開催年である2025年ごろから技術開発が本格化し、2030年ごろに普及すると見込まれている。一部のIT企業からは既に6G/beyond 5Gの話題も出ているが、これについて森田氏は次のようにコメントした。

 「O-RANが普及すればソフトウェア制御が重要になることから、われわれの技術が求められる領域が拡大すると考えている。技術の進歩は段階を追って進む。次世代通信規格への研究開発投資も続けるが、いまはようやく海外でのORANの認知度が上がってきており、Intelなどのテクノロジーベンダーが開発マイルストンを刷新して開発を強化している段階。5Gに各社が注力していることに変わりはない。5Gの普及があってこそ次の通信規格の普及につながる」(森田氏)

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