ただのコミュニケーションアプリじゃない LINEが目指すモビリティとリテールDXの行方

コミュニケーションアプリとして知られる「LINE」が、モビリティやリテール分野を中心に企業のDX支援を進めている。「LINEだからできるDX」の真相を聞いた。

» 2023年06月09日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 LINE(以下、LINE社)が提供する「LINE」アプリは、日本国内で最も使われているコミュニケーションアプリと言っても過言ではない。そんなLINE社は現在、LINEを生かしてユニークなDX(デジタルトランスフォーメーション)支援に取り組んでいる。「LINEだからこそできる」DXの真相を聞いた。

ただのコミュニケーションアプリじゃない LINEが目指すモビリティとリテールDXの行方

 DXの解釈は多様だ。企業によっては「DX=現場のデジタル化」「DX=業務の効率化」ととらえてもっぱら社内の生産性向上にフォーカスし、本来の「デジタル(D)を生かしたビジネス変革(X)」とは懸け離れた認識の場合もある。コミュニケーションアプリをビジネスモデルの主軸に置くLINE社にとってのDXは「顧客とつながる仕組みとそれを支える業務の変革を実行すること」だ。

図1 LINE社が目指すDX(出典:LINE社提供資料)

 このように定義している背景には、「DXは『CX』(顧客体験)と『EX』(従業員体験)の組み合わせで成立する」という考えがある。LINEの比企宏之氏(テクニカルエバンジェリスト チームマネジャー)はこの考えについて「DXというと多くの企業がEXにフォーカスしますが、本当に重要なのはCXです。今後の企業はCXで戦う必要があり、従来のCRMの概念が大きく変わる可能性があります」と指摘する。

 LINE社はこの「CXが重要視されるDX」を見据え、「LINE API」を駆使しモビリティや小売りのDXを支援する「Beyond MaaS」(小売り×移動)への取り組みを推進している。「MaaS」(Mobility as a Service)はさまざまな形式の移動手段を単一のサービスとして統合したものだ。LINE社はオープンソースソフトウェアを通じて新しい移動体験や購買体験をLINEを通じて提供している。購入体験では事業者の「OMO」(Online Merges with Offline)の活用を支援し、オンラインとオフラインを組み合わせた購入体験を推進している。

 「LINE(社)が提供するAPIを事業者様のOMO基盤にご活用いただくことによって、新たな移動や購入の体験を提供します。また、スポーツをはじめとするエンターテインメントや不動産といった領域にも新たな体験が波及していくと考えています」(比企氏)

 LINE社によるこれらの取り組みが目指す未来は「顧客起点のスマートシティー」だ。LINE社のOMO基盤を中心に、行政や自治体、スポーツをはじめとするエンターテインメント、移動、小売り、不動産など、さまざまな業界を横断してサービスを提供する。

図2 LINE APIを介したボーダーレスな情報連携の姿。さまざまな体験への入り口を1つのアプリケーションでまかなう(出典:LINE社提供資料)

事例1 LINE社が手掛ける「温泉MaaS」

 LINE社の福田 真氏(マーケティングソリューションカンパニー プランニング統括本部 ビジネスデザイン室 UXデザインチーム マネジャー)はMaaSの取り組み事例として「温泉MaaS」を紹介した。これはワーケーション需要の多い温泉街のある地域(長野県千曲市)で来訪客の移動を助けるためのサービスだ。千曲市にワーケーションで来た参加者はLINE公式アカウントで「友だち」になり、そのトーク画面から配車を依頼するといったといったシンプルな操作のみでタクシーの配車などができる。

 福田氏によれば、LINEからのタクシー配車が可能になったことで、参加者が持つ個別のニーズに合わせた移動が可能になったという。地元タクシー事業者の利用を促進することで経済的効果もある。「このような新たな取り組みにハードルの高さを感じる人はいないのか」という質問に対し、福田氏はLINEだからこその理由を以下のように話した。

 「LINEは幅広い年齢層で多くのユーザーを抱えています。その結果『LINEであれば簡単に使える』『(日常的に使っているから)抵抗がない』という声を数多く受けています。実際にLINE公式アカウントを友だちに追加するといった行為は多くの人が慣れています。まさにLINEだからこそできるサービスです」(福田氏)

 地方を中心に人口減少で働き手が減っている日本では、LINE社のこのような取り組みは地方創生につながる可能性があることはもちろん、利用者の枠を広げることで高齢者における移動方法の利便性向上も期待できる。福田氏は「実際にさまざまな地方自治体などから問い合わせが増えています」と喜びを見せる。

図3 温泉MaaSのシステム概要(出典:LINE API Use Case)

事例2 OMOによる新たな購入体験

 同社の富澤健人氏(ビジネスデザイン室 UXデザインチーム)はOMOによる新たな購入体験の事例として、2022年7月1日〜同年9月25日に開催された「エドノイチ〜ポップアップストア横浜〜」(以下、エドノイチ)を紹介した。エドノイチを開催したサードコンパスはOMOの取り組みとしてLINEを使ったデジタル決済を導入した。顧客は店頭に貼られたQRコードを読み取り、エドノイチのLINE公式アカウントを「友だち」に追加することでLINE上から商品を購入できる。決済手段は「PayPay」と連携した。

 「店側は商品を展示し、購入されたオーダーを注文カウンターで渡すだけです。商品の陳列や補充といった業務がなくなり人件費の削減にもつながります。まさに顧客にとっても店にとっても新たな購入体験です」(富澤氏)

 この他にも、LINE公式アカウントを活用した新たな購入体験は増えている。富澤氏は従来の接客の在り方を遠隔式やリモート式にするクラウドソリューション「TimeRep」の例を解説した。店側はLINE公式アカウントを活用することで、Webサイトの改修や機材設置などが不要でオンライン接客に挑戦できる。顧客はLINEで商品に関するさまざまなコミュニケーションを取れることはもちろん、購入までを行える。

 実際にLINEを活用したTimeRepのオペレーションが図3だ。

図4 オペレーションイメージ(出典:TimeRepのプレスリリース)

 「購入者は慣れ親しんだLINEで商品の選択から購入までを完結できます。店側にとっても購入者にとっても利便性が向上するでしょう」(富澤氏)

LINE社のDXが抱える課題と今後の取り組みは

 LINE社はLINEという盤石な基盤を生かしたDX支援を推進しており、まさに“順風満帆”に見える。だが、MaaSでもリテールでもそれぞれ課題感があるという。

 福田氏はMaaSの課題について「サービスの完成度や注目度だけで言えばかなり好調だと感じています。一方、モビリティの業界にフォーカスすると『業界そのものが今後も成長できるか』を課題だと感じています。LINEがいかにモビリティ業界で持続可能なサービスや価値提供をできるのかを改めて考え直さなければなりません」と述べる。どのようにこの課題に対応していくかは未定なようだ。

 富澤氏はリテールの課題について「小売り事業者がDXに取り組めていない現状があります」と話す。富澤氏によれば、まだまだLINE社によるリテール業界への取り組みは認知されておらず、実際に「そんな取り組みがあるんですね」と事業者に言われることが多いという。いかに「LINEの活用で何ができのか」を広めるかが重要になる。

 比企氏も最後に「LINE(社)はプラットフォーマーでもあります。今後もAPIの活用などで集まるデータは決してLINE(社)のものではなく、あくまでユーザーのものだという認知を広げていきたいと思っています。だからこそ『Microsoft Azure』などのクラウド側と協力して認知活動を高められるように取り組んでいます」と述べた。

 LINEがどのようにしてわれわれの生活を変化させていくのか。今後が楽しみだ。

図5 LINEを活用したデジタル体験イメージ(出典:LINE社提供資料)
比企氏(右下)、福田氏(左下)、富澤氏(右上)、筆者(上段真ん中)、LINE社広報の細井由紀氏(左上)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ