竹中平蔵氏とLIXIL、旭化成、日揮が語る「企業間連携DX」の現在地(1/2 ページ)

DXは企業間で連携することによってさらに大きな効果を生み出す。企業間あるいは国や自治体も含めた連携は現在、どのように進んでいるか。また、今後さらに推進するためには何が必要か。LIXILと旭化成、日揮の事例から解き明かす。

» 2023年06月21日 09時00分 公開
[吉田育代ITmedia]

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 DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業は年々増えている。DXは企業単体にとどまらず、企業間、あるいは国や自治体などと連携することによってより大規模なプロジェクトに取り組むことが可能となる。企業間の連携は現在、どのように進んでいるのか。MEEQが開催した「全産業連携DXセミナー」(2023年4月14日)の講演とパネルディスカッションから探る。

社会全体を変えるDX 「スーパーシティ構想」への期待値は?

 慶應義塾大学名誉教授の竹中平蔵氏は基調講演に登壇し、パネルディスカッションには日揮ホールディングスの花田琢也氏(専務執行役員 CHRO《最高人事責任者》・CDO《最高デジタル責任者》)やLIXILの金澤祐悟氏(執行役専務)、旭化成の久世和資氏(専務執行役員、デジタル共創本部長 デジタルトランスフォーメーション《DX》統括)が参加した(いずれも肩書はイベント時のもの)。

 今回のセミナーでは全体を通じて「DXとは何か」が改めて考察された。

 竹中氏は「DXとは単にデジタル機器を投入することではない。われわれの働き方や生活そのものを変えることであり、社会全体を変えることだ」と定義した上で、「あくまで社会全体が視野に入っていることが重要だ」と強調した。

慶應義塾大学名誉教授の竹中氏 慶應義塾大学名誉教授の竹中氏

 竹中氏は、欧州連合(EU)が掲げる成長戦略「Europe2020」の文言「Smart, Sustainable and Inclusive Growth」(スマートテクノロジーで人々のウェルビーイングを高める。その実現に当たっては人々を全員巻きこむインクルーシブネスを考える必要があり、企業もサステナブルでなければならない)を「好きな言葉」として紹介した。DXはこの中でうたわれている「スマートテクノロジー」に該当する。

 「スマートというからには高度なレベルの連携が求められる」として竹中氏が言及したのが、EC(電子商取引)サイト運営などを手掛ける中国企業アリババ(阿里巴巴集团)の取り組みだ。アリババは、本社がある浙江省杭州市におけるリアルタイムデータに基づく交通信号の明滅サイクルの最適化を図っている。この取り組みによって杭州市における道路の混み具合を示す混雑度は20〜25%低下し、救急車の到着までにかかる時間が半減したという。竹中氏は「衝撃を受けた。このような大きな枠組みでの連携は日本でも進められるだろう」として「スーパーシティ構想」への期待を口にした。

 スーパーシティ構想(「スーパーシティ、デジタル田園健康特区について」(内閣府)とは、先端的なデジタル技術を活用して地域の解決課題に取り組む未来社会を実現するプロジェクトだ。国が推進するプロジェクトでありながら、住民や民間企業が参画して実現を目指すかたちになっているのが特色だ。

 「スーパーシティ構想においては、まず都市OSをきちんと整備することが重要です。全体をしっかり監視するアーキテクトを置き、そのアーキテクトが首長に近い権限を持つ中で連携を深めていくことも大切です。ネットワークについては、今後のIoT(モノのインターネット)の進展を考えると、国土全体で4Gから5Gへの移行を急がなければなりません。その中で重要なのが、キャリアの枠組みを超えた共同アンテナや共同基地局です。まずは国が先行して公共事業としてこれらを設置し、民間に運営を依頼する、官民連携によるインフラ整備が求められます」(竹中氏)

日本のDXは「危機意識」から始まり、海外のDXは「創造」で突き進む

 「CDO Club Japan」は、世界規模で運営されているCDOのグローバルコミュニティーの日本法人(一般社団法人)だ。社会全体へのDXの普及とデジタル人材育成をミッションとしている。

 CDO Club Japanの水上 晃氏(理事、事務総長)は「われわれの分析では、日本と海外ではDXのモチベーションが大きく異なっている」と語る。

 水上氏によると、日本におけるDXは「危機意識」から始まっているという。消費者のデジタルシフトや、海外からやって来る「ディスラプター」(業界の秩序やビジネスモデルを破壊する企業)への対応、コロナ禍など環境変化への対応などが危機意識を生んだと同法人は分析する。中でもクリティカルな危機と受け止められているのが労働人口問題で、マンパワーをベースにしたビジネスがもはや回らなくなっている。「労働者1人が生む付加価値をどれだけ拡張できるか」という課題感は日本ならではのものだ。

 一方、海外でDXのキーワードとなっているのが「創造」だ。スマートデバイスの登場によって消費体験が変化し、データ分析技術が台頭して、IoTやAI(人工知能)活用が全産業におけるムーブメントになった。デジタル化に対応可能な人材のみが企業のエグゼクティブに就任できるという状況も生まれている(図1)。

図1 グローバル(米国)でのDX、CDO台頭の流れ(出典:CDO Club Japanのイベント投影資料) 図1 グローバル(米国)でのDX、CDO台頭の流れ(出典:CDO Club Japanのイベント投影資料)

 そして、海外では環境問題への意識も高い。生き残りをかけてDXとESG(環境、社会、ガバナンス)をシンクロさせる企業が増えており、製造業ではサプライチェーン全体でこれらを推進する動きが進んでいる。「日本でいう『企業城下町』が世界レベルでつながっていて、DXやESGを推進しているようなイメージです」(水上氏)

 続けて水上氏は、日本のDXは二極化しつつあると指摘した。「DXに取り組む日本企業は約5割に上っていますが、CxOとして最高責任者が明確になっているのは約1割にとどまっています。全社で取り組む状況にはなっておらず、現場の従業員にとってDXは“やらされ仕事”になっている感もある。このままではデジタルを使いこなし、時代に即して進化する『DX加速層』と、デジタルで仕事や役割を失う『足踏み層』に分かれ、二極化して情報格差が広がり、経済格差や教育格差が生じることが懸念されます」

日揮やLIXIL、旭化成にとっての「DX」

 続くパネルディスカッションでは、「自社にとってのDXとは何か」「どのような産業連携、通信連携に可能性があるか」という2つのテーマが話し合われた。

パネルディスカッションの様子(右から慶應義塾大学名誉教授の竹中氏、LIXILの金澤氏、日揮ホールディングスの花田氏、旭化成の久世氏) パネルディスカッションの様子(右から慶應義塾大学名誉教授の竹中氏、LIXILの金澤氏、日揮ホールディングスの花田氏、旭化成の久世氏)

 プラントエンジニアリングを手掛ける日揮ホールディングスの花田氏は、同社におけるDXの変遷を紹介した。最初は中央集権型で進めたが、部門ごとにスピード感が異なりギャップが生まれたことから自律分散型に切り替えたという。「何をどのように変えるかを組織全体でしっかり共有することに加え、パーパス(企業の存在意義、社会的な存在価値)が重要です。DXはパーパス経営に非常に似ているからです」と同氏は訴える。

 「企業のパーパスが個人のパーパスにマッチングしていなければ、『Why』(なぜやらなければならないか)は分かっても、『What』(具体的に何をやればいいか)は分かりません。同様に、DXのパーパスを個人のパーパスにいかに落としこんで、『自分ごと』にしていくかが重要です。それによってDXの効果が大きく違ってくるというのがこの5年間のDX推進における実感です」(花田氏)

 住宅機器メーカーであるLIXILの金澤氏は「DXを何かを変革することと捉えるのであれば、LIXILにおいてはCX(顧客体験)、カスタマーエクスペリエンスです」と断言した。現在、住宅関連産業における主戦場はリフォームで、消費者が「変えたい、きれいにしたい」と思わなければ需要は生まれない。この需要創造に必要なのがデジタルの力だという。

 LIXILのショールームでは、調理台の高さを変えたりIHコンロをある場所に置いたりしたらどうなるかといったプランをシミュレーターで「見える化」した。シミュレーターではリフォームにかかる費用もリアルタイムに表示する。提案書に記載されているQRコードから、プランのAR(拡張現実)画像にアクセスできる。

 「自動車や旅行でなく、リフォームに予算を確保していただくためにはCXの変革によって分かりにくかった世界を分かりやすくすることが重要です。CXを変えなければ意味がありません。そのためにはEX(従業員体験)を変える必要もあるかもしれません。当社ではDXを単純化して『(DXとは)CXかEXのどちらかだ』と言っています」(金澤氏)

 LIXILは、2023 年春に大阪府に開業した「うめきた地下駅」に導入されたIoTトイレを手掛けた。IoTセンサーによって便器のつまりなどを通知して水があふれるのを防止したり、各トイレブースの使用状況をアプリや駅構内に設置したサイネージに通知したり、データを基に消耗品の補充や清掃のタイミングを知らせることで清掃作業を効率化したりといったさまざまな効果が期待されている。

 「ただし何でもIoT化すればいいわけではありません。IoTを活用する効果は今までの常識とは違うところにある。そうした『別の価値』をこれから探求していきたいですね」(金澤氏)

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