竹中平蔵氏とLIXIL、旭化成、日揮が語る「企業間連携DX」の現在地(2/2 ページ)

» 2023年06月21日 09時00分 公開
[吉田育代ITmedia]
前のページへ 1|2       

これからの産業連携のために何が必要か?

 今後、実現の可能性があるのはどのような産業連携なのか。それを実現するために何が求められるのだろうか。

 総合化学メーカーである旭化成の久世氏は秘密計算を利用した企業間のデータ連携について語った。

 旭化成がDXに取り組み始めたのは2015年頃だ。同社はこの頃を「デジタル導入期」と位置付ける。2020年は全社への普及を進める「デジタル展開期」、2022年は「デジタル創造期」、2024年には全従業員がデジタルを使いこなす「デジタルノーマル期」に突入する予定だ。

 旭化成はDX推進で「連携」を重視している。同社が提供する「BLUE Plastics Salon」は資源循環社会を実現するためのデジタルプラットフォームだ。リサイクルチェーンの可視化や消費者の行動変容に向け、活動に関心を持つステークホルダーが連携している。

 同社がもう一つ重視するのが秘密計算だ。秘密計算とは「マテリアルズ・インフォマティクス」(MI)(注1)を活用することで、データを暗号化したまま計算する技術を指す。競合関係にある企業やサプライチェーンを構成する企業が共通部分についてデータを持ち寄ることで、開発のスピードを速めることができる。

 「秘密計算を使うことで、他社に見せずに生データを利用することが実現できました。実際にやってみると非常に便利で、データ連携を推進する仕組みの一つとして秘密計算は役に立っています」(久世氏)

 ここまで話を聞いてきた竹中氏は次のように意見を述べた。

「企業においてデータプライバシーがあるために連携がスムーズに進まないとなると、新しい仕組み、新しい組織が必要であるということを痛感します。パーパスが重要というのもその通りで、パーパスが存在してこそ問題が明確になります。世界銀行が各国にコンサルティングに出向く際は、必ずエコノミストや弁護士、エンジニアが同席するといいます。このような組み合わせで問題を明確化して改善活動を行うのも一つの方法かもしれません」

 旭化成のもう一つの連携事例が「“救急”as a Service」(QaaS)だ。同プロジェクトは2022年6月17日に国のデジタル田園都市国家構想推進交付金の対象事業に採択された。旭化成と慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)やDeNAとの共同事業で、旭化成の創業地である宮崎県延岡市で実施する。個人の健康データを入力するアプリや救急搬送時のトリアージ(重症度などに応じて治療優先順位を決定すること)を最適化するシステムや、救急搬送時の患者の医療情報を病院と共有するシステムなどを構築する。

 「医療情報では画像データをはじめとする大容量データを扱っています。人の命を左右するため、通信が止まるのは困ります。医療分野では堅牢(けんろう)なネットワーク通信が必要です。通信事業者にはぜひ協力いただければと思います」(久世氏)

 花田氏は「ディスクリート(個別部品、単一の機能を持つ電子部品)系の製造業はサプライチェーンの上流と下流で大きく分断されている」と指摘する。上流と下流をデータでつなげることで各過程における課題などを「見える化」し、国内外でスマートファクトリーやスマートインダストリーの実現をめざすというのが同氏の提案だ。

 さらに花田氏は、スマートファクトリーやスマートインダストリーを実現する中で通信事業者へ求めたいこととして次のように語った。「通信に関して重要なのが、機密性もさることながら可用性です。通信事業者は(通信速度を保証しない)ベストエフォートサービスを提供していますが、品質保証型サービスをお願いしたい。保証帯域は高くなくても構いません。ギャランティー(保証)があれば、それに基づいたシステムモデルを設計することができるようになります」

産業間の横断的な連携に貢献する通信プラットフォーム

ミークの峯村氏 ミークの峯村氏

 最後にミークの峯村竜太氏(執行役員社長)が語った。同社はIoTサービス事業者やDXを推進する企業向けに、NoCode IoT/DX Platformの「MEEQ」(ミーク)を提供する。ソニーグループ初のベンチャー企業として、ソニーネットワークコミュニケーションズから誕生した。

 これまで、IoT向けの通信と言えば産業ごとの要件に特化したオーダーメイドなプラットフォームが主だった。同社は産業の境界を越えて利用できる水平方向のプラットフォームにフォーカスし、docomo、au、Softbankのトリプルキャリアに対応している。

 同社はこのようなモデルを提供する目的として、事業開発における全体工数の削減と産業間の横断的な連携の推進を掲げる。同社の実績としては、タクシーの配車管理や温度・湿度の「見える化」による農作物の品質管理、閉域回線を利用した電気の「見える化」によるビルにおける電力消費量の管理システムなどがある。

 同社のNoCode IoT/DX Platformの強みは、幅広い産業で利用できる共通基盤をワンストップで提供できる点にあるという。

 ミークが提供するサービスの特徴は次の3点だ。

  1. 上り・下り通信の有効活用やAIトラフィック制御などによる低価格の実現
  2. システム開発不要のクラウドサービス
  3. トリプルキャリア混合の閉域網という独自性および柔軟性の高いサービス提供
図2 「MEEQ」のサービス提供イメージ(出典:イベントの投影資料) 図2 「MEEQ」のサービス提供イメージ(出典:イベントの投影資料)

 「産業連携において必ず必要になる通信は当社が引き受けます。これによってさまざまな産業でトリプルキャリアをワンストップで利用したり、コストを抑制したりすることが可能になります。STEP1では各産業と当社の連携を、STEP2では産業間の横断的な連携をお手伝いしていきたいと考えています」(峰村氏)

(注1)材料開発の高効率化のために情報科学の手法を用いる取り組み

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ