日揮が取り組む「建設の自動化」とは? 宇宙進出を視野に入れた“5つのイノベーション”「Anaplan Connect」CDO/CIOリレートーク(前編)

早い時期からグローバルに展開してきた日揮。同社は今、宇宙進出も視野に入れつつ5つのイノベーションに取り組んでいる。2017年にある助言をきっかけに経営改革へ乗り出した同社のロードマップを見てみよう。

» 2022年11月24日 13時10分 公開
[加山恵美ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増えているが、着々と成果を上げる企業がある一方で、なかなか思ったような結果にたどり着けない企業も存在している。マニュアルがない中で、企業は自社の強みを生かしてデータやテクノロジーを駆使して変容を遂げていくことを求められている。

 成果を出している企業はどのような戦略を立案して、それを実行するための仕組みをつくり上げているのか。また、DX推進に当たって活用しているシステムとは。

本稿はAnaplan Japanが2022年11月10日に開催したオンラインイベント「Anaplan Connect」から、「CDO/CIOリレートーク DX戦略とAnaplan」を基に編集部で再構成した。

 リレートークには日揮ホールディングスの花田琢也氏(専務執行役員 CHRO《最高人事責任者》・CDO《最高デジタル責任者》)と富士通の福田 譲氏(執行役員 Executive Vice President CIO《最高情報責任者》、CDXO《最高デジタル変革責任者》補佐)が登壇して、DXの取り組みのポイントと現在地について語った。

 前後編の前編となる本稿では、日揮グループ(以下、日揮)の取り組みを紹介する。

 Anaplanはクラウドベースのプランニングプラットフォームを提供している。顧客数は世界56カ国で2000社を越える。

 「Anaplan Connect」の冒頭でAnaplan Japanの中田 淳氏(社長)は「Anaplanのサービスはプランニングにフォーカスを当てているのが特徴です」と自社サービスについて説明した。

 「いまプランニングにある課題を解決するだけでは効果は限定的です。私たちはその手前や周辺にある課題も全てデジタル化した状態で1つのプラットフォームに展開して統合する“Connected Planning”を提唱しています。そうすれば課題をより良く、早く、正確に解決することに役立ちます」(中田氏)

宇宙進出を見据える日揮の「5つのイノベーション」

 工場設備や発電所などのプラントや施設のEPC(設計・調達・建設)を主事業とする日揮グループ(以下、日揮)は、プロジェクトマネジメントやグローバルエンジニアリング、EPCコントラクターをコアコンピタンス(企業活動の中核、強み)とする。

 日揮は2021年に発表した長期経営ビジョン「2040年ビジョン」の中で自社のパーパス(存在意義)を「Enhancing planetary health」と定め、5つのビジネス領域(エネルギートランジション、ヘルスケア・ライフサイエンス、高機能材、資源循環、産業・都市インフラ)で事業を多角化すると掲げた。

日揮の花田琢也氏(出典:「Anaplan Connect」の映像) 日揮の花田琢也氏(出典:「Anaplan Connect」の映像)

 花田氏はCHROとCDOを務めるが、人事とデジタルのトップを兼任することは比較的珍しい。兼任の理由について同氏は「デジタル戦略と人事戦略は極めて近い関係にあるため」と説明する。

 花田氏はエンジニアリング業界について「各方面でデジタル化が進んでいるものの、ドキュメントドリブンから抜け出せていません」と課題を指摘した。デジタルのメリットを生かし切れず、スケジュールの延期やコストの膨張が散見されるという。

 花田氏は、日揮に転機が訪れた2017年の話を始めた。当時はプラントを建設するのに通常5〜6年かかっていたが、顧客の石油メジャー(国際石油資本)のトップマネジメントから「工数を減らして、スピードをアップさせなくては生き延びられない」と指摘されて危機感が生まれた。「2030年にはMH(人時)は今の3分の1、スピードは2倍になる。乗り遅れれば恐竜のように絶滅するだろう。そうならないための鍵は『デジタルジャーニー』だ」とも言われたという。

 これがきっかけとなり、経営戦略の転換につながった。当時CDOに着任したばかりの花田氏は「2030年時点でどのような企業体であるべきか」を定めた。そこから逆算してITのグランドプランを作り、2030年までに達成すべき5つのイノベーション(AI設計、デジタルツイン、3Dプリンタ・建設自動化、標準化・モジュール化、スマートコミュニティー)をロードマップとして描いた。

2030年までに達成すべき5つのイノベーションのロードマップ(出典:日揮の提供資料) 2030年までに達成すべき5つのイノベーションのロードマップ(出典:日揮の提供資料)

 「“背骨”をしっかり作ることがDXの肝だと考えています」と花田氏は語る。

 同社のイノベーションの一つが「3Dプリンタ、建設自動化」だ。「2021年にはコンクリート系建設用3Dプリンタを購入した。コンクリート製の施設のモジュールを3Dプリンタで作れるかもしれない。デジタルツインによって、建設現場から遠く離れた横浜のオフィスで仮想空間上の構造物を扱うこともできるかもしれない」(花田氏)。こうしたイノベーションを組み合わせると、「建設業の製造業化」が見えてくると同氏は語る。

 日揮はこれまでも積極的にグローバル展開してきた。現在は宇宙進出を見据えている。2022年時点ではアルテミス計画などをはじめとする、探査や研究のための拠点を月に建設する計画がある。花田氏は、同社の建設技術が月で発揮される風景を思い描いているという。

日揮のDX人材育成――「H型人材」を1人でも多く増やしたい

 日揮のDX人材育成の取り組みを見ていこう。同社は「デジタルインフルエンサー制度」を作り、デジタルリテラシーの向上に取り組んでいる。デジタルスキルの向上に積極的なメンバーからデータサイエンティストが生まれ、全社的なデータ活用に貢献するなど徐々に成果が出ているという。

 花田氏は「もともと持っているエンジニリングという専門分野と、デジタル分野とをつなぐH型人材(注1)を内製で増やすことが大きなテーマです。1人でも多く育成したい」と語る。

 日揮がAnaplanを導入した理由の一つに、調達品のコスト管理がある。同社は大型プロジェクトを多く扱うため、調達だけで1000億円規模となることもある。購買対象は約200種類、見積もりを取るサプライヤーも約1000社に上る。かつては見積もりを比較するために購買対象物ごとに「Microsoft Excel」で比較表を作っていた。

 切り貼り作業が多い「Excelのバケツリレー」から脱却すべく、Anaplanの導入に踏み切った。「構造化されず散在していたデータを構造化してまとめてマネージすることで業務プロセスを最適化して、生産性を高めることが狙いでした。Anaplanはローコードで内製化を進めていく上で頼りがいのある“武器”になる。今後も使い倒していきます」(花田氏)

 後編では富士通の取り組みを紹介する(注2)。

(注1)専門分野を持ちつつ、他の専門分野の人材とのつながりを作り、仕事に活用できる人材のこと。

(注2)後編の「富士通「フジトラ」はデジタルだけの話じゃない “聖域なき変革”の3つのポイント」はこちら

【更新情報】日揮から提供を受けて図表(2030年までに達成すべき5つのイノベーションのロードマップ)を追加しました(2022年12月6日更新)。

本稿のリレートークを含めて「Anaplan Connect」は11月15日〜12月31日の間、こちらでアーカイブ視聴できる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ