富士通「フジトラ」はデジタルだけの話じゃない “聖域なき変革”の3つのポイント「Anaplan Connect」CDO/CIOリレートーク(後編)

IT企業が取り組むDXと言うと、とかく新たに導入されたシステムに注目が集まりがちだが、富士通の福田氏は「DXの対象はITだけではない」と力説する。企業風土をも対象とする“聖域なき変革”の3つのポイントとは。

» 2022年11月25日 09時00分 公開
[加山恵美ITmedia]

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 DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増え続けているが、着々と成果を上げる企業がある一方で、なかなか思ったような結果にたどり着けない企業も存在する。マニュアルがない中で、それぞれの企業は自社の強みを生かしてデータやテクノロジーを駆使して変容を遂げていくことを求められている。

 成果を出している企業はどのような戦略を立案して、それを実行するための仕組みをつくり上げているのか。また、DX推進に当たって活用しているシステムとは何か。

本稿はAnaplan Japanが2022年11月10日に開催したオンラインイベント「Anaplan Connect」から、「CDO/CIOリレートーク DX戦略とAnaplan」を基に編集部で再構成した。

 リレートークには日揮ホールディングスの花田琢也氏(専務執行役員 CHRO《最高人事責任者》・CDO《最高デジタル責任者》)と富士通の福田 譲氏(執行役員 Executive Vice President CIO《最高情報責任者》、CDXO《最高デジタル変革責任者》補佐)が登壇して、DXの取り組みのポイントと現在地について語った(注1)。

 前後編の後編となる本稿では、富士通の取り組みを紹介する。

「フジトラ」で企業風土もトランスフォーム

富士通の福田 譲氏(出典:「Anaplan Connect」の映像) 富士通の福田 譲氏(出典:「Anaplan Connect」の映像)

 富士通の福田氏は「富士通に限らず、IT企業はさまざまなことを変えていくべき時です。富士通はトップ自らが変革をリードしようとしており、私はその補佐役です」と語る。福田氏がCIOを兼務しているのは「物事を変えていくのにITやデジタル、データほど効果的なものはない」という理由からだという。

 富士通では自社を変革する全社DXプロジェクトを「フジトラ」(Fujitsu Transformation)と呼んでいる。富士通が掲げるDXは、経済産業省の定義をベースとしつつも、独自のポイントがあるようだ。福田氏は「DXとは、古いシステムをクラウドに移行するといったITだけの話ではありません。対象はもっと幅広く、製品やサービスから企業文化や風土までトランスフォームするのがDXです。日本お得意の『カイゼン』ではなく、トランスフォームです」と説明する。

 同社がDX推進のために特に念頭に置いているのが次の3点だ。

  1. 経営がリーダーシップをとる:経営トップが(フジトラの)ステアリングコミッティ(運営員会)に並ぶ。CEO(最高経営責任者)室には「物事を変えていく知見がある」と評価された約30人の「DXデザイナー」が在籍する
  2. 現場が主役で、全員参加型でやる:主要組織、主要グループ、リージョンごとにDXO(DX責任者)を置き、かつ横のつながりを持つようにした。「変革の現場は事業の現場」と考え、社内のソーシャルネットワークに最下層に位置するDXコミュニティーを設けた。ここでは有志メンバーが変革のために「部門ごとではない、オール富士通のベストは何か」をフラットに考えている
  3. カルチャーそのものを変えていく:ダイバーシティーやインクルージョンなど幅広く、企業変革を進めていく
図1 フジトラの概要図(出典:富士通 福田氏の講演資料) 図1 フジトラの概要図(出典:富士通 福田氏の講演資料)

 変革テーマの対象は「“聖域”なく選んでいる」と福田氏は強調する。管理部門や事業部門から上がってきたテーマを定期的に分類、分析して優先順位を付けている。現在は150ほどのテーマを同時並行で進めているという。

 中でも大きなインパクトをもたらしそうなのが「One Fujitsuプログラム」だ。これまでの各事業部門がそれぞれの顧客に対応する自立型組織から、「『オール富士通』で最適なビジネスを最大効率でやるように方向転換した」と福田氏は語る。

Anaplanの導入で「Excel数珠つなぎ」を脱却

 同社は業務のやり方を標準化して、経営や業務をデータ駆動で回すことを目指す。そのためにリージョンやグループ会社を横断して、基幹システムやCRM(顧客関係管理)、人事制度も一本化する。

図2 One Fujitsuプログラム(出典:富士通 福田氏の講演資料) 図2 One Fujitsuプログラム(出典:富士通 福田氏の講演資料)

 フジトラの目的は経営改革や業務改革だ。「ITはあくまで手段です」としつつ、デジタル面の刷新例として「Microsoft Excel」からAnaplanへの切り替えを挙げた。

 「Anaplanをはじめとするツールを活用することで、かつての『Excel数珠つなぎ』から脱しました。合理的かつ迅速な意思決定を支えるリアルタイムマネジメントの実現を目指します」

 現在、富士通は大小さまざまなプロジェクトを同時並行で進めている。明確な成果はまだ出ていないものの、「意識が変わると行動が変わります。ここ3年間で収益性は倍増しており、企業価値も高まっています」と福田氏は語る(注2)。

 人事面ではジョブ型人事制度を全面的に導入した。とはいえ従業員の仕事との向き合い方がすぐに変えられるとは限らない。同社は丁寧な面談や幅広いトレーニング、デザイン思考や心理的安全性への取り組みなども並行して進めている。

 2020年にジョブポスティング(社内公募)に手を挙げた従業員は数百人だったが、2022年には約4000〜5000人と広がりを見せている。「従業員の仕事に対するマインドが着実に変化しています」(福田氏)。富士通は今後、グローバルにグループ横断でジョブポスティングを展開しようとしている。

 一方、人事業務プロセスは統合の過程にある。グループ全体で人事システムは約400個も利用されており、微妙に異なるマスターデータが混在しているという。「ただ、全面的な刷新を終えて統合されるまで待つことはできません。そこで、グローバルな人員計画や人件費のシミュレーションなどにはAnaplanを活用しています」(福田氏)

 富士通は現在、中期経営計画の策定にもAnaplanを活用している。同社は2022年が中期経営計画の最終年度に当たるため、現在は次の計画を策定している。

 福田氏は「Anaplanは多軸、多次元のプランニングを柔軟に組める。数字の集計とシミュレーションに優れているため、経営計画策定に活用しようと考えた」と話す。これまでAnaplan活用してきた知見があるため、モデルは約3週間で組み上がった。「スピード感、柔軟性、ユーザーエクスペリエンスがすごく良い。こうしたクラウドサービスの力を使わない手はないと感じました」

 富士通は今後、人員計画や中期経営計画以外にもAnaplanの活用領域を広げようとしている。福田氏の見立てでは、Anaplanはサプライチェーンなど「計画を数珠つなぎにしているもの」を中心に汎用(はんよう)的に使えるツールだ。

 最後に福田氏はDXについて「DXは『ITごと』ではないという点が重要です。あくまで目的があっての手段です。しっかり目的に注力することで手段が生きてきます」と述べて講演を締めくくった。

(注1)前編の「日揮が取り組む『建設の自動化』とは? 宇宙進出を視野に入れた“5つのイノベーション”」はこちら

(注2)主な財務諸表データおよびセグメント別四半期データ(富士通)

本稿のリレートークを含めて「Anaplan Connect」は11月15日〜12月31日の間、こちらでアーカイブ視聴できる。

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