“人間扱い”が、企業の人材獲得力を高めるワケCIO Dive

デジタルトランスフォーメーション実現に向けたIT人材獲得競争が激化する中、優秀な人材を引き付け、定着させる企業は何が違うのか。

» 2023年07月03日 07時00分 公開
[Gabriela VogelCIO Dive]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

CIO Dive

編集部注:以下は、Gartnerのシニアディレクターアナリストであるガブリエラ・ボーゲル氏によるゲスト投稿である。

 全世界の組織は、数十年掛かる可能性があるデジタルトランスフォーメーション(DX)とテクノロジー導入をわずか数年に圧縮しようと競っている(注1)。そのため、IT人材を発掘する方法は大きく変化し、優秀な人材を確保するための競争も激化している。

 若干の改善はみられるものの、依然として激しい人材争奪戦は続いている。従業員の志向の変化に伴い、自発的な離職の増加もみられる。Gartnerの調査では、組織にとどまる意向が高いIT人材は3分の1しかいないことが明らかになった(注2)。

 人材の供給が限られていることに加え、パンデミックの影響が続いているなどの要因で、雇用者と被雇用者の関係は変化した。従業員は給与やワークライフバランス、尊敬、安定性、フレキシブルな勤務地など、仕事に対してより大きな価値を求めるようになっている。

 ITプロフェッショナルの需要が世界的に高まる中、CIO(最高情報責任者)は重要な人材を引き付けて維持するために、企業が従業員に対して提供できる価値(EVP:Employee Value Proposition)を見直す必要がある(注3)。今、CIOはこれまで以上に、人に寄り添ったEVPを設計しなければならない。そうしなければ、重要な技術職の離職率が高まり、組織のDX実現が危うくなるだろう。

EVPとは従業員を“労働者”ではなく“人間扱い”することだ

 IT人材不足がすぐに解消されないことを考えると、DXの推進は困難を極める(注4)。

 そのためCIOはワークフォースプランニング(要員計画)を通じて、人材ニーズを満たす必要がある。ワークフォースプランニングは、今後2〜5年間の人材ニーズとリスクの概要をまとめ、今必要な投資と軽減すべきリスクシナリオを特定する。

 多くの組織では、企業レベルでのEVP戦略を意識的に明確にしていないため、CIOはテクノロジー人材のリスクに対処する責任がある。

 CIOはテクノロジー人材への期待に応える対応を取る一方で、発生している可能性のある人材課題を特定するための診断をするなど、当面の課題解決に役立つ施策を実施する必要があるだろう。

プロジェクトマネジメントからピープルマネジメントへ

 IT人材の働き方には将来的に以下の3つの変化が起こると考えられる(注5)。

1.従業員は単なる労働者ではなく、人としてみられることを望んでいる

 経営戦略では、従業員が抱える人間的な課題を認識する必要性を強調し、純粋なプロジェクトマネジメントのアプローチからピープルマネジメントのアプローチへと移行している。

 従業員一人一人のニーズに合わせて、日々の経験をパーソナライズし、従業員自身がオーナーシップを持つことの必要性が高まっている。EVPは労働力を中心に考えるのではなく、その人全体を中心に定義すべきだ。

2.仕事と生活の調和を実現する

 仕事は人生の一部であり、人生から切り離されたものではない。従来のように仕事と生活を区別することは今日の労働環境ではもはや不可能であり、望ましいものでもない。

 仕事は従業員の生活の一部であり、分離するのではなく調和させるべきものであると考えるようになってきている。仕事の調和を押し付けるのではなく、あくまで仕事と生活の調和は個人的なものであり、従業員が自主的に決定できるようにすることが望ましい。

3.特性よりも感情を重視する

 従業員が私生活や仕事において何を必要としているのか、なぜ今の組織で働きたいのかに焦点を当てることで、従業員の主な動機が見えてくる。EVPは特性で定義するのではなく、経験で定義する必要がある。

 これら3つの変化によって、組織は従業員体験を人間的なものにし、ヒューマンディール(human deal:人間的な扱い)を実現することが求められる。

 ヒューマンディールは「より深いつながり」「根本的な柔軟性」「個人の成長」「全体的な幸福」「目的」の5つの要素で構成されている。ヒューマンディールは、ハイパフォーマーの増加や定着率の向上、従業員の幸福度の向上など、幾つかのメリットをもたらす。

 従業員の人生経験やアイデンティティーと組織との関連性を示した上で、職場でのポジティブな経験によって従業員と雇用者の間に生まれる感情にフォーカスするとよいだろう。

EVPをより適応性の高いものにするには?

 従業員が最も関心を持つ要素を的確に捉え、それに対して訴求方法と投資を順応できている組織は、優秀な人材の獲得と維持に成功している。

 CIOは、従業員が働く中で求める個人的な価値に何がつながるのかを理解するために、人々に影響を与える変化の合図やきっかけを把握しておく必要がある。

 経済情勢の変化に伴い、IT人材は成長軌道にある組織への興味が高まっている。

 このような優先事項を理解した上で、CIOはコミュニケーションに工夫を凝らし、EVPのうち成長に関連する要素にスポットを当てなければならない。例えばチームや事業部門、グローバル環境における成長の機会を強調するといったように。

 これらの手掛かりが分かれば、CIOは従業員や入社希望者の話に積極的に耳を傾けることで、ヒューマンディールを再構築できるだろう。

 「在宅勤務からどこでも勤務に」という明確なトレンドが生まれた今日、IT人材市場はボーダーレスになっている(注6)。年齢層や地域、勤続年数がさまざまなテックワーカーは、未来の働き方について抱く期待も人それぞれだ。

 CIOは競争力を維持するために、人材獲得と定着の促進要因を細分化して考える必要がある。EVPの焦点をヒューマンディールに当てることで、CIOチームはより人間らしい雇用契約を構築し、進化し続けるIT人材の状況を導けるだろう。

© Industry Dive. All rights reserved.

注目のテーマ