インフレの「終わり」が見えない中、企業にとってコストの見直しは喫緊の経営課題となっている。いかにデータを活用してコストを削減するか。
サプライチェーンはコロナ禍による逼迫(ひっぱく)の後遺症に悩む中、インフレという新たな頭痛の種に襲われている。製品の需要が供給を上回る「バックオーダー」に長年頭を悩ませていた医療法人は、データ分析でいかに課題を解決したか。
インフレは全国の病院にとって継続的な懸念事項だ(注1)。
デトロイトを拠点とする非営利団体Henry Ford Healthは2022年、サプライチェーンマネジメント担当シニアバイスプレジデントのビル・モア氏がサプライチェーンのコスト削減に成功した。
同団体は5つの病院と250以上の施設を運営し、さまざまな症状を訴える患者に初期段階で対応するプライマリーケアから、がんや整形外科治療、行動医療サービス、緊急医療までを提供している。
同団体は、共同購買組織(GPO)のPremiereと協力してデータを活用し、インフレの影響を受けづらい供給分野を特定した。その情報に基づいてより効果的に値下げ交渉を実施した。
2018〜2022年にかけてインフレが進行したが、病院が供給費を評価するために使用する最も一般的なベンチマークの一つである「症例混合調整済み等価退院単価」(CMAED)を見ると、2022年のコストは減少傾向にあった。この指標は、症例混合指数で調整された入院患者数と外来患者数の両方を考慮したもので、治療を受けている患者の急性度を示すものだ。医療機関のコスト管理と効率性を示すのに役立つとされている。
モア氏は、Henry Ford Healthがデータの正確性や発注プロセスにおけるオーダーの正確性、(取引先と決定した)価格の正確性など他の業務指標においても正しい方向に進んでいると述べる。「われわれが望む目標はまだ先だが、かなり前進してきた」(モア氏)
モア氏はHenry Ford Healthに入社した2021年、データ分析チームを一新した。モア氏のリーダーシップの下、チームは1件当たりのコスト分析ツールを含む財務分析などの指標を測定、監視するためのサプライチェーンのダッシュボードスコアカードを開発した。
「『Microsoft Excel』を効果的に使うのがやっとという状態から、データ可視化ツール『Microsoft Power BI』で作業するようになった。数年前とは比べものにならないほど高度な作業ができるようになった」とモア氏は言う。
Henry Ford Healthはコスト管理に注力し、金利上昇がサプライヤーにどのような影響を与えるかを理解し、インフレによってコストが上昇していないヘルスケア製品やカテゴリーを特定しようとしている。同団体はPremiereのコストベンチマーキングツールを使用し、GPOと協力してコスト削減を図れる分野を特定している。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックの最中にHenry Ford Healthに入社したモア氏は、多くの企業同様、混乱が広範囲に広がる中でレジリエンス(回復力)に焦点を当てることになった。
「パンデミックが原子力爆弾の爆発のようなものだとしたら、その後遺症はいまだに残っている」とモア氏は言う。パンデミック初期に明らかになったサプライチェーンの課題が解決した後も、バックオーダーは依然として大きな課題だ。
パンデミックによって、Henry Ford Healthはバックオーダーに関して長年抱えていた課題に対処しなければならなくなった。パンデミックが最も深刻だった時期を過ぎても、医療メーカーや医薬品メーカーは複数の分野で必要な製品を提供できなかった。納品の遅れは同団体における長年の課題となっていた。
「この課題は依然として非常に高いレベルでさまざまな分野に及んでいる」(モア氏)
この問題を軽減するため、Henry Ford Healthは2023年、医師が好む資材(特定の種類のメスや手術用手袋など外科手術で使われる品目を含む)のコスト削減を目的としたセントラルサービスセンターを開設する予定だ。ただし、包帯やガーゼ、手指消毒剤など多くの流通センターが扱う汎用(はんよう)品は保管しない。
セントラルサービスセンターは、医療流通業者を通じての入手が困難な100〜200のSKU(Stock keeping Unit:在庫管理上の最小の品目数の単位)に焦点を当てることで弾力性にも部分的に対処する。その目的は、これまで入手が困難だった品目について適切に供給されるように一元的に管理することだ。
Henry Ford Healthは、PremierおよびPremierの会員である数社と協力して、在庫切れを事前に察知し、リスクに基づいて医療関連製品の製造を手掛けるメーカーをスコアリングするための分析プラットフォームを開発している。この情報は品質やコスト、リスクに基づいてメーカーを評価し、選択するための調達プロセスで使用される。
現在、Henry Ford Healthとそのパートナーはデータを共有し、変数と分析をプラットフォームに組み込む最適な方法を決定している。
また、レジリエンシーマネジャーにも「投資」している。「レジリエンシーマネジャーの役割は、まさにレジリエンスを高めることで、レジリエンスに関するあらゆることを一手に引き受けるリーダーだと確信している。サプライチェーンだけでなく組織全体のサポートにも役立つだろうと期待している」(モア氏)
レジリエンシーマネジャーは予測分析を担当して、顧客とのクロスファンクションコールを促進し、Henry Ford Healthの全拠点と調整する。「Henry Ford Healthには多くの拠点があるため、各拠点をサポートしながら相乗的に機能する弾力性のあるサプライチェーンを維持するのは難しい」(モア氏)
Henry Ford Healthは多様性や公平性、インクルージョン(包摂)の取り組みにもデータとテクノロジーを活用している。同団体は多様なメーカーとのより良い関係を築くためにデータツールを使用している。女性やマイノリティーが経営する企業との協力を支援するポータルサービス「VIVA」と協力して(注2)、二次下請けの支出を登録、報告している。
VIVAはさまざまな分野のメーカーの推薦も行っている。「多様性という点では、これが次なる挑戦であり、サプライヤーパートナーがこうした二次下請けの中でより効果的に活動できるよう後押しするものだ」(モア氏)
原注:本記事は、医療機関の経営幹部がサプライチェーンの課題に対処するための戦術に関するシリーズの一部だ。前回の記事はこちら(How Allina Health is rethinking supply chain spend)。
(注1)Report: Inflation continues to burden hospitals as margins remain near zero( American Hospital Association)
(注2) THE VIVA EXPERIENCE Transforming your Digital Business(VIVA USA)
(初出)How Henry Ford Health uses data to combat inflation and improve its supply chain
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