頭の痛い“在庫”問題 「多品種小ロット」時代にどう対応する?Supply Chain Dive

小売業者にとって過剰在庫は“恐怖”の存在だ。店頭に限られた種類の商品が大量に並ぶ時代から一転、顧客の好みに合わせた多品種小ロット生産に移行しつつある今、いかに在庫を最適化するかは以前にも増して難しい問題になっている。

» 2023年06月14日 17時10分 公開
[Ben UnglesbeeSupply Chain Dive]

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Supply Chain Dive

 多過ぎる在庫は抱えたくない一方で、顧客が購入しようとした際に在庫切れで提供できないという機会損失も減らしたい――。小売業者にとって在庫最適化は古くから抱える課題だが、顧客の好みに合わせた多品種小ロット生産に移行しつつある現在、その難易度は増している。

「多品種小ロット」企業は在庫をどう最適化している?

 この問題を在庫に関する発想の転換とAI(人工知能)を活用したシステムによって解決した企業の事例を紹介する。この企業はビッグサイズに特化したアパレルを扱っているため、通常のアパレル企業に比べてより多くのサイズを少数ずつそろえる必要がある。その具体的な取り組みを見ていこう。

 在庫の最適化について「キャンセルを追いかけるより、商品を追いかける方がいい」という哲学的な視点を披露するのは、男性向けのビッグサイズ衣料品大手Destination XL Group(以下、DXL)のハーベイ・カンターCEO(最高経営責任者)だ。カンター氏が過剰在庫に恐怖心を抱くのは、小売業界で培ったマーチャンダイジングの経験によるものだ。

 2023年4月下旬に実施された「Supply Chain Dive」のインタビューで同氏は「過剰な在庫を抱え、新たな領収書を切らなくなれば、『自分のしっぽ』を追いかける状況になってしまう。商品の鮮度の高さは小売業の生命線だ」と語った。

在庫の“洪水”からの教訓

 特に2022年に起きた在庫の“洪水”以降、多くの小売業者はカンター氏の発言に基本的には同意するだろう(注1)。しかし、在庫を減らすのは必ずしも容易ではない。多くの人にとって、在庫はコストや足かせではなく将来の売り上げにつながるものとして認識されているからだ。

 DXLの2022年度末における在庫は金額にすると9300万ドル分で、前年比で13.7%増となった(注2)。2桁台とはいえ、この伸びはアパレル業界の中ではかなり低いものだった。小売業を対象とする調査会社Telsey Advisory Group(TAG)の分析によると、彼らがカバーするアパレル企業の第4四半期末の在庫増加率は53.8%だった。

 DXLは、2021年に在庫が逼迫(ひっぱく)したため在庫量を増やしたものの、「2022年末の在庫は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック前の2019年よりも9.2%減少した」と指摘した。その間、在庫回転率は30%上昇した。

 DXLは供給元から店舗までのサプライチェーン全体における在庫を調べた。「市場や店舗にはそれぞれ独自の特徴がある。(他の店舗よりも)よく売れるブランドやよく売れるサイズ、よく売れる色がある。当社は、店舗で関連性の高いソートを最も効率的にできる最高のAIを活用した在庫管理手法を導入した」とカンター氏は述べた。

在庫を持たない方針は何をもたらすか?

 在庫を管理するための取り組みは、調達と購買から始まる。カンター氏は「われわれにはキャンセルを追いかけるよりも商品を追いかける方がいいという哲学的な視点がある」と語る。

 言い換えると、DXLの仕入れ量は、在庫として残るには少な過ぎるという“過ち”を犯している。さまざまなサイズの商品を扱っている同社にとって、在庫数を正しく把握することは他社よりもさらに重要だ。

 同社のピーター・ストラットンCFO(最高財務責任者)は「DXLは他のアパレル小売業と比較して、受発注・在庫管理における最小の管理単位数が少ない。1サイズにつき4〜5枚はあるが、(他社と比べて)扱うサイズの数が2〜4倍なので、店頭に並ぶシャツの枚数はかなり少ない。当社のビジネスはフィット感が全てだからだ」(ストラットン氏)

 カンター氏は、「パンデミック前と比較すると、商品が回転するスピードは速く在庫は減った。他の小売業者が直面しているような、大量に抱えた在庫を正常な状態に回復させるためのプロモーションを行うといった課題も経験していない」と述べた。

 DXLの調達チームは、必要な時に必要な在庫を追跡できるよう上流で“土台”を作っている。同社が仕入れるのは、加工前の素材や、染色済みだがカットされていない素材だ。DXLが意図した通りに素材が使用されなくても、それらの素材は同社の他の製品として加工される可能性がある。サプライヤーは完成品を抱え込まずにすむ。

 「サプライヤーと当社の双方のリスクを減らすことができる。倉庫には注文品をあまり置いていない。素材メーカーに大量の注文品ががあるわけでもない。生産工程の一部を調達しているおかげで、より迅速に製造できる」(カンター氏)

 DXLの製品のほとんどは船で運ばれるが、在庫を迅速に出荷する必要がある場合は航空便を選択することもある。

ウイグル問題で中国からの調達を削減

 DXLが西半球からの調達を増やしていることも、出荷までの時間短縮につながっている。

 DXLが米国証券取引委員会(SEC)に提出した最新の年次報告書によると、同社の生産工程の一部はメキシコやニカラグアを含む西半球諸国に移っている(注3)。カンター氏は正確な数字は開示しなかったが、「西半球からの調達が全体に占める割合は2桁に達しており、当社はグアテマラやペルーでの調達の可能性も視野に入れている。調達先を決める際は品質が最優先だ。しかしその後は、市場投入のスピードとコストのバランスを取る必要がある」と述べた。

 ベトナムやバングラデシュ、カンボジア、インドなど東南アジア諸国からも同社は多く調達している。DXL傘下のブランドが扱う商品の中で、中国からの調達率は10%以下だ。この削減はここ数年続いている。カンター氏は「当社は基本的に中国から手を引いている」と言う。DXLが中国からの調達を避ける最大の理由は、新疆ウイグル自治区に住むウイグル族に課せられている強制労働にあるという。

 DXLは男性用ビッグサイズアパレルに特化しているため、通常は専門のサプライヤーに依存している。DXL製品はサイジングや製造工程が複雑なため、工場設備や製造工程もビッグサイズ特有のものになることが多い。標準サイズの2倍もの大きさがあるシャツのためには、通常よりも2倍大きな裁断台が必要だ。

 DXLの調達ネットワークには、8カ国に20社強のサプライヤーがある。DXLは約34工場から製品の大半を直接調達している。「われわれのサプライヤーはかなり限られており、100社にも満たない」(カンター氏)

 カンター氏は、「限られたサプライヤーと付き合うことによって、最終的にはサプライヤーとの関係が深まる。サプライヤーはわれわれの市場シェア拡大や幅広い分野での専門知識から恩恵を受けられるだろう。サプライヤーは日々の生活を通じて未来を見据えられるからこそ、私たちに賭けているのだ」と語る。

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