企業を取り巻くIT環境は大きく変化している。その中で高まるシステムの“複雑さ”を解決するために、ネットアップが事業戦略を発表した。
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ネットアップは2023年7月27日、新年度に向けた事業戦略説明会を開催した。
NetAppはこれまで、エンタープライズに向けたNAS(ネットワークHDD)やサーバの仮想化、複数のパブリッククラウドにまたがるデータファブリックといったさまざまなソリューションを提供してきた。
現在は多くの企業がAI(人工知能)を活用して企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しようとしているが、課題もある。ネットアップの中島シハブ・ドゥグラ氏(代表執行役員 社長)以下のように語る。
「2023年の初めにNetAppが行った調査によると、ITリーダーの98%がDXの複雑性が上昇していると回答しました。複雑さはITパフォーマンスの低下や収益の損失、ビジネス成長の障壁につながります。また、IT予算の制限やランサムウェアなどの脅威、サステナビリティへの対応も欠かせません」
NetAppはこれらの課題に対処するために、データ管理コストの最適化を実現する「Saving」、インフラストラクチャの統合や簡素化、自動化を実現する「Simplicity」、ランサムウェアや災害対策におけるデータ保護と回復性を迅速かつ確実にする「Security」、データインフラストラクチャの効率性を高めサステナビリティ目標の達成を支援する「Sustainability」という4つの「S」を通して企業を支援するという。
「データ、クラウド、AIという大きなトレンドが交差するエキサイティングな時代では、この4つの「S」を通して企業の増加するデータをハイブリッドマルチクラウド環境の中でも柔軟に扱えるようにしなければなりません。そうすることでイノベーションを加速できます」(中島シハブ氏)
NetAppはこの戦略に基づき、「データファブリックプラットフォーム」「クラウドネイティブプラットフォーム」という2つの事業領域にフォーカスする。
データファブリックプラットフォームでは、オンプレミスとクラウドにあるそれぞれのストレージがシームレスに連携し、“ハイブリッドストレージ”としてデータを自由に活用できる環境を目指す。
ネットアップの神原豊彦氏(チーフテクノロジーエバンジェリスト)は「ハイブリッドマルチクラウドの世界で、シームレスなデータのモビリティと画一的なデータの管理を簡単に実現するのがデータファブリックです」と説明した。
この実現に向けてNetAppは2022年11月、管理ポリシーやバックアップの取得、アクセス権限をはじめとするセキュリティ権限の設定などを一括で制御する管理ツール「NetApp BlueXP」を発表した。
「NetApp BlueXPは、Saving、Simplicity、Security、Sustainabilityを実際に設定できるツールです」(神原氏)
データファブリックプラットフォームを構成するストレージに関しては、コストとパフォーマンスに応じて幾つかのシリーズから選択できる。
その中でも、新製品となるオールフラッシュストレージの「AFF C シリーズ」は、QLC(クアッドレベルセル)の搭載と半導体の積層化技術を組み合わせたことで、記憶容量が大幅に増加したという。神原氏はこれについて「ギガバイト当たりの容量単価を見ると、高回転のHDDの単価を下回ります。『高いんじゃないか』といわれるオールフラッシュストレージの固定概念を覆す製品です」と話す。
従来は約1.5ペタの容量に対してHDDは約1200本のディスクが必要だったが、AFF Cシリーズであればわずか2Uサイズに収まる。
「サイズが小さくなるのはもちろん、消費電力やCO2排出量を90%以上削減でき、コスト削減とサステナビリティのといった二つの取り組みを同時に推進できます」(神原氏)
NetAppはSAN(ストレージエリアネットワーク)に特化したフラッシュストレージとして「ASA シリーズ」も追加した。ASAシリーズは、オンプレミス環境で増加するトランザクションに耐えられる強靱(きょうじん)性を備え、99.9999%の高可用性を実現するSAN専用ストレージだ。
神原氏は「これから先、AI技術の進化やRPAのような自動化技術によって、人間だけでなくプログラムがシステムにアクセスする時代が来るでしょう。そうした世界における秒間トランザクション数は、これまでと比較にならないほど増加します」と説明した。ASAシリーズはそうした時代に備え作り出されたという。
神原氏によれば、この2つに「FAS シリーズ」「AFF A シリーズ」を加えた4つのポートフォリオがストレージ専用OS「ONTAP」ではシングルアーキテクチャで統一されており、同一操作で利用できる。NetApp BlueXPにも対応しており、ハイブリッド・マルチクラウド環境でシームレスな統合管理を実現する。
NetAppはこの4つの追加に合わせて、同社のアプライアンスOS「NetApp ONTAP」(以下、ONTAP)のライセンスに新たな「ONTAP One」を追加した。従来はコアライセンスをベースに、データ保護やランサムウェア対策などの機能をアドオンで追加する形態だった。ONTAP Oneはコアライセンスに比べると価格は高くなるが、全機能を包括して利用できる。これはコアライセンスベースで全てのアドオンを追加した場合よりも安価だ。
クラウドネイティブプラットフォームでは「Spot」と呼ばれるブランドを中心に機能強化を進める。神原氏は「クラウドは非常に便利ですが、選択肢が増えることで複雑化や煩雑化が進んでいます。こういった課題をAIで効率化し、コストの最適化を実現します」とした。
ネットアップは事業戦略発表会を通して、顧客体験の向上に向けた施策の強化もアピールした。同社は「ハイブリッド・マルチクラウド環境の運用をシンプルにしたい」と考える顧客に向けて、サブスクリプション型でStaaS(Storage as a Service)を利用できる「NetApp Keystone」を提供している。
中島シハブ氏はNetApp Keystoneについて「複数のクラウドに対して、シングルオーケストレーションやプロビジョニング、管理を提供します。ユーザーはより自由な選択ができるようになるでしょう」と話した。同氏によれば、2022年から案件数は約3倍、提携パートナー数は約2倍に成長している。
また、NetAppは顧客体験の向上に向けた保証プログラム「NetApp Advance」の強化に向けて、新たにプログラムを追加した。
「ストレージライフサイクルプログラム」では、無期限でのコントローラーアップデート保証や、3年ごとに追加費用なしで無停止更新を可能にするオプションを提供する。クラウドストレージ移行時にはコントローラーの下取りを行い、NetApp Keystoneなどへのライセンス転換が可能だ。
「ランサムウェアリカバリー保証プログラム」では、プロフェッショナルサービスを通してNetAppにおけるランサムウェア対策のベストプラクティスを導入できる。これを実施した場合は、バックアップデータからのデータ復旧を保証する。万一に復旧できなかった場合は金銭的な補償を提供する。
上記の2つに加えて、ASA Seriesを対象に高可用性を保証する「99.9999%データ可用性保証プログラム」など、複数のプログラムを提供する。
「ユーザーが安心して利用できる“NetAppの体験”を提供したいです」(神原氏)
同社は従来のパートナー支援プログラムも「NetApp Partner Sphere」として刷新し、ソリューションの強化を通してカスタマーエクスペリエンスの全方位的な向上を目指す。その一例がNVIDIAとの協業だ。NetAppはハードウェアとソフトウェアのツールセットを組み合わせたレファレンスアーキテクチャ「NetApp Data Pipeline」に基づき、堅牢性や信頼性を備えたAI環境を実現を目指す。
「4つのSの推進に当たって、ユーザーやパートナー企業におけるNetAppの体験は重要な要素です。カスタマージャーニーの全体を支援するアプローチを通して、顧客価値の向上に努めます」(中島シハブ氏)
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