Gartnerが2023年のセキュリティトレンドを発表 企業がやるべき9つのトピック(2/2 ページ)

» 2023年08月25日 07時00分 公開
[指田昌夫ITmedia]
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トレンド5:サイバーセキュリティ・オペレーティング・モデルの変革による、価値創出の支援

 トレンド5は「サイバーセキュリティ・オペレーティング・モデル」の変革だ。ITの新たなオペレーションモデルの採用によって、アジリティを追求することが重要である。一般的な大企業のサイバーセキュリティ・オペレーティング・モデルは、「ビジネス部門とのやりとり」「セキュリティを有効にする方法」「機能の提供」の3層に分かれる。従来の方法では分散したサイバーリスクに対応するのが難しく、新たなモデルが必要となっている。

 テシェイラ氏は、モデルの再構築は簡単ではないと話す。まずはセキュリティを既存のビジネスワークフローの中核機能として提供し、リスク判断を担う人に権限を与える。しかもその判断はサイロの中でなく、全社的な共有できるガバナンスを確立すること。そして、セキュリティがビジネスの成果をどうサポートしているかを示すことも必要だ。

トレンド6:コンポーザブル・セキュリティによるコンポーザブル・ビジネスの安全性の確保

 トレンド6は「コンポーザブル・セキュリティ」の確保だ。コンポーザブル・ビジネスは、ビジネスをモジュール型のサブプロセスに分割し、組み合わせによってコントロールする考え方だが、セキュリティもコンポーザブルな思想で設計すべきだというのがGartnerの主張である。

 「ビジネスプロセスを作り、活用している従業員は、クリエーターやキュレーター、コンポーザー、コンシューマーの4つの『C』に役割分担される。ここに5つ目の『C』としてCISOが参加することで再利用可能なセキュリティオブジェクトを提供できる」(テシェイラ氏)

コンポーザブル・セキュリティのイメージ(出典:Gartner《2023年7月》)

 CISOはコンポーザブルなビジネスアプリケーションがセキュアであることを確認し、安全性を確保する必要がある。

トレンド7:人間中心のセキュリティ・デザイン(HCSD)による、コントロール実装の強化と効率の向上

 トレンド7は「人間中心のセキュリティデザイン」(HCSD)で、不安定な人間の行動をコントロールすることだ。行動科学やユーザーエクスペリエンスとセキュリティを関連付けるものだ。

 技術だけでセキュリティを強化するのには限界がある。Gartnerの調査では、セキュリティ運用が日常業務に摩擦を引き起こすことが問題視されている。技術ではなく従業員を設計プロセスの中心に据えることで、コントロール性が向上し、サイバーインシデントが減少する。

 人間中心設計のためにすべきことは、まずインシデントを分析して摩擦の原因を特定して削減する。次にユーザーインタフェース(UI)に対して影響が大きい部分について概念実証(PoC)を実施する。最終的にHCSDを実施して、ユーザーの満足度を評価指標として、改善度合いを測定するプロセスが必要になる。

「人間中心のセキュリティデザイン」(HCSD)とは(出典:Gartner《2023年7月》)

トレンド8:人材管理の強化によるセキュリティ・プログラムのサステナビリティの向上

 トレンド8はセキュリティ人材の管理と維持だ。持続的なセキュリティレベルの向上には優秀なセキュリティ人材を採用・育成することが重要である。タレントマネジメントの考え方に基づいて、セキュリティ人材の募集や交信、定着、離任に至る人材のライフサイクルを回していく。組織を離任する人を許容することも重要だ。

 「セキュリティ人材に選んでもらうための組織のブランドづくりも必要である。どうすれば自社のセキュリティチームで仕事をしたいと思ってもらえるのかを考えるべきだ。CISOのリーダーシップで優秀な人材を獲得すれば、会社全体のセキュリティレベルの向上につながる」(テシェイラ氏)

 人材獲得のための具体策は、業務と必要な人材のギャップを特定し、目標を設定する。次に前述のライフサイクルを採り入れる。社内の人事部門と連携して、サイバーセキュリティ部門の価値提案を行うなどの取り組みが考えられる。

トレンド9:取締役会による監視の強化によって促進されるサイバーセキュリティ・レポート機能の拡充

 トレンド9は取締役会の監視強化である。これは今、多くの企業で実施されていることだとテシェイラ氏は言う。セキュリティがビジネスの重要事項となっていることの要因は、外部の規制が強化されていることもある。

 「米国証券取引委員会(SEC)は、企業がセキュリティ侵害を受けた際に当局への報告を4日以内に実施することを求めようとしている。そのため取締役会は、サイバーセキュリティに対して関心を持たざるを得ない状況になっている」(テシェイラ氏)

 この要件を実現するには、セキュリティ部門が提出するレポートに取締役会にとって必要な情報が全て入っているかどうかが重要だ。セキュリティレポートは技術的な記載だけでなく、取締役会のITリテラシーに合わせた内容としなければいけない。

 テシェイラ氏は最後に「企業のセキュリティ対策はオペレーションの問題からビジネスの問題へと進化させ、セキュリティ投資に対する意志決定を支援するものにしていくことが必要である」と語った。

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