流通にかかるコストと手間を削減するために、何に投資して何を削るべきかの判断は難しい。ある「100均」チェーンが物流版“ジャストインタイム”を捨てて投資した技術とは。
この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
ここ数年のインフレで原料費や燃料費、人件費などが嵩む中、流通にかかるコストをいかに削減するかという問題は小売業者にとって以前にも増して重要になっている。
運送体制を全面的に見直す中で、かつて皆が絶賛したシステムよりも良い方法が見つかる場合もある。ある「100均」チェーンがとった"選択"を紹介する。
米国版「100均」とも呼ばれるディスカウントストアチェーンのDollar TreeでCEO(最高経営責任者)を務めるリック・ドレイリング氏は2023年第2四半期決算説明会で、同社の運送体制の変更について「当社が温度管理技術を導入したことでクロスドッキング(注1)のコストが削減され、柔軟性が増す」と、述べた(注2)。
「温度管理はクロスドッキングの費用を削減し、さまざまな商品を保管する柔軟性を高めることで、営業パフォーマンスの改善や小売業者の施設の効率化につながる」(ドレイリング氏)
Dollar Treeは現在、4つの配送センターで温度管理技術を導入している。そのうち2つは最近導入したもので、2023年末までに8つの施設をアップグレードする予定だ。残りの施設にも2024年末までに温度管理システムを導入する計画がある。
同社のマイク・キンディ氏(最高サプライチェーン責任者)は、2023年6月21日に開催した投資家向けプレゼンテーションで、「Dollar Treeは温度管理によって店頭に置く商品を直接店舗に出荷できるようになる」と語った(注3)(注4)。この投資によって、(物流会社を)複数回にわたって手配したり、高価で効率の悪いクロスドッキングを実施したり、処方箋なしで購入できるOTC医薬品を指定されたエリアに保管したり選別したりする必要がなくなる。
さらにDollar Treeは店舗在庫と配送サービスを最適化するため、ロボットと自動化の技術である「Rotacart」の活用をはじめとする店舗配送プロセスの改善を実施している。
ドレイリング氏は2023年第1四半期決算説明会で(注5)、「まだ始まったばかりだが、Rotacartの展開は順調に進んでいる。現在、Rotacartによる配送のベータテストが進行中だ。ノースカロライナ州マシューズの配送センターでは、年内にRotacartに対応する予定だ。当社は流通網の最適化を目指す。Dollar Treeは2015年に買収した雑貨店チェーンのFamily Dollarと共同で利用する倉庫をフロリダ州に建設している」と、アナリストに話した。
「われわれはユタ州にも倉庫を持っていたが、(この倉庫は2つのチェーンが共同で使うやり方から)Family Dollarのみに変更した。倉庫の統合は簡単そうで理にかなっている提案の一つだが、実行するのは少し難しいかもしれない」(ドレイリング氏)
同社の競合企業であるDollar Generalもサプライチェーンの能力を強化しており、最近ネブラスカに生鮮食品と冷凍食品を扱う初の「二重流通施設」を開設した(注6)。
(注1)生産工場から物流倉庫に運送する過程で、入荷後に保管せず、そのまま仕分けして小売店舗に向けて出荷する仕組みを指す。貨物を開梱せずにパレットやケース単位で積み替えるためリードタイムと在庫を減らせる利点があるとされる。製造業で代表的な在庫管理方法「ジャストインタイム」の物流版ともいわれる。
(注2)Dollar Tree, Inc. (DLTR) Q2 2023 Earnings Call Transcript(Seeking Alpha)
(注3)Mike Kindy CHIEF SUPPLY CHAIN OFFICER(Dollar Tree)
(注4)Dollar Tree hires Dollar General vet as chief supply chain officer(Supply Chain Dive)
(注5)Dollar Tree (DLTR) Q1 2023 Earnings Call Transcript(Seeking Alpha)
(注6)Dollar General opens first dual distribution center(Supply Chain Dive)
(初出)Dollar Tree eyes distribution efficiency with temperature controls
© Industry Dive. All rights reserved.