Microsoftと挑む業務の自動化 具体的な方法を紹介(Microsoftのビジネスアプリケーション-AI編その2)DX 365 Life(11)(1/2 ページ)

いかに業務を効率化し、ビジネスを成長させるかは多くの企業にとって課題です。本稿ではMicrosoftと一緒に挑戦する業務自動化を解説します。

» 2023年10月31日 08時00分 公開
[吉島良平ITmedia]

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 Microsoftは2023年10月3〜5日にわたり、米国ラスベガスで「Microsoft Power Platform Conference」を開催しました。日本企業の参加も多く、ローコード領域のソリューションニーズに対する期待の高さを感じました。

 この期待の背景には「世界で今後5年間に5億個のアプリが必要」「世界で400万人のIT技術者が不足」「2024年までにアプリ開発の65%以上がローコード化」「IT人材採用は難しく、ある程度のITスキルを持つ人材への育成にも時間がかかる」という課題があります。

 一方、企業内では経営層から現場へ「可能なものは全て自動化しろ」というお達しが出はじめているようです。

 自動化を実現しビジネスを成長させるためには「ビジネスプロセスを定義し、データの収集や可視化、AI(人工知能)による分析、次の一手に関するインサイトの獲得」を一気通貫で対応できる仕組みが非常に大切です。また、現場への継続的なIT教育も欠かせません。

 仮にシステム構築でパッケージを活用しても、業務ニーズとの間には必ずギャップが生まれます。直接システムをカスタマイズせずに、このギャップをユーザー側で内製化できるローコードツールの存在は、システム導入を推進するチームにとって大きな助けとなります。

 私は社会人になってからグローバルに仕事をしてきました。日本と海外を比較した場合に、日本は圧倒的に『きめ細かなサポート』が充実しています。2023年9月8日〜同年10月28日にフランスで開催された「ラグビーワールドカップ 2023」(以下、RWC 2023)を例にとっても、2019年に日本で開催されたものと比較するとイベント運営やボランティア対応に雲泥の差があったと聞きます。

 日本品質は“過剰なサービス”とやゆされることもありますが、これに慣れると海外の不便さを痛感します。業務を効率よく回すことを考える際に、日本企業は「誰もが同じオペレーションをできるように」と目標設定しがちですが、欧米企業は「結果が正しければいいじゃないか」というマインドで何事にもスピードを求めます。

 このような違いもあり、システム開発などでは日本企業の方が本番稼働までに時間をかけます。結果、欧米をはじめとする外資企業は日本よりも他拠点を優先する傾向にあります。しかしこれも一長一短で、日本企業の方が将来起こる得る問題などに対する議論を丁寧かつ活発的に行っているように感じます。

 ただ、顧客ニーズへの対応を内製化ではなくベンダー依存型のカスタマイズ対応という選択肢をとると、コスト増加に加えて運用までの期間も長くなり「システムの本番稼働時には別の要件が多々発生している」ということにもなりかねません。

 このような時は欧米の取り組み方の方がスマートに感じます。欧米ではCRMやERPなどのシステムを「買ったら時間をかけずにすぐ使う」という発想が定着してきているようです。欧米企業や日系企業に共通している点としては、システム選定において「操作性」「柔軟性」「拡張性」はとても大切なキーワードになっているということです。

 本連載「DX 365 Life」ではMicrosoftのビジネスアプリケーション領域におけるERP・CRM「Microsoft Dynamics 365」(以下、Dynamics 365)やローコードツール「Microsoft Power Platform」(以下、Power Platform)、昨今話題につきないAI「Copilot」、Microsoftのコミュニティー、Microsoftに関するキャリア形成、導入事例など、幅広く紹介してきました。第11回となる本稿は前回第10回に続き、FY24のトレンドになるであろうAI領域について、Power Platformを題材に解説します。

この連載について

 本連載は12回にわたって、Microsoftのビジネスアプリケーションに関する情報を発信し、製品やサービス、学習ツールだけでなく、導入ベンダーやその事例、コミュニティーの活動にも触れていきます。

筆者紹介吉島良平(Chief Operating Officer)

約20年にわたって日本を含む31カ国でMicrosoft社製ビジネスアプリケーションの導入・開発・コンサルティングに従事。2022年11月よりシンガポール企業『Technosoft (SEA) Pte. Ltd.』のCOOに着任、2023年7月よりTechnosoft Japan Co., Ltd.のPresidentを兼務。

Microsoft Regional Director

Microsoft MVP for Business Applications

Blog:DX 365 Life - マイクロソフトのBizAppsを活用し、企業のDX実現に向けて国内外を奔走する室長Blog



AIは本当に機能するのか?

 「AIは本当に機能するのか」という疑問に対して、ここではスポーツデータを提供しているOptaの話をしたいと思います。同社はAIを活用してRWC 2023の勝敗をシミュレーションしました。図1を見ると、AIはグループ予選終了後にフランスとアイルランドが決勝を戦い、ホームでフランスが優勝すると予想しています(筆者の予想はフランスvs.ニュージーランドでフランスの優勝でした)。

図1 OptaによるRWC 2023の優勝予想

 まずベスト8ですが、オーストラリアが予選敗退となりフィジーが決勝トーナメントに進出しました。判狂わせの少ないラグビーにおいて、Tier2とされるチームがTier1に勝つのは非常に難しいのが現実です。OptaのAIによる予想結果は7勝1敗で正解率は0.875、結構いい読みといえます。

 続いて、ベスト4ですが、イングランドがフィジーに勝利するという予想以外は全て外れています。1勝3敗で正解率は0.25、正直これは高いとはいえません。

 何がAIのファクターに組み込まれていたのか気になりますが、AIが審判とチームの相性や選手のコンディション、適切な戦略遂行、運などを考慮するのは困難ということです。現在、野球やサッカーなど他競技でもAIは活用されており、AI領域はまだまだ改善の余地があります。

 AIの課題は「結果に対する根拠が不明瞭」「人の心や感情の理解に難がある」「学習のために大量のデータが必要」などさまざまですが、こういったことを理解しながらAIを活用し、「臨機応変な判断」「論理的な推論」「大量のデータ処理」「学習スピードの速さ」などのメリットを享受することが労働供給制約社会では重要です。しかし、AIを頼りすぎると自分で解決する能力が身につかない可能性もあります。AIで管理する教育データは機密レベルが高く、万が一情報漏えいが起きれば大きなトラブルにつながります。MicrosoftのAIについては本連載第5回、第8回、第10回でも触れています。

 以下ではMicrosoftのローコードソリューション領域であるPower PlatformのAI機能を紹介します。日本ではまだプレビュー(公開前)のものもありますが、随時利用可能になるはずです。

図2 Microsoftのビジネスアプリケーション一覧(出典:Microsoftの資料を基に筆者作成)

開発者の能力を最大化し市民開発者をエンパワーしたい 成功の秘訣は?

 IT人材の確保が難しい昨今、全従業員がローコードツールを活用してアプリケーション開発に取り組めるようにするには、プロの開発者やIT管理者のサポートに加え、「全社で使える最適な仕組みは何か」という着眼点が必要になります。

 Power Platformが満たすビジネスニーズには「従業員エクスペリエンスの向上」「部門や課内におけるエンパワーメント」「アプリケーションのモダナイズ」「文書管理に代わる業務データ管理」「自動化による最適化」「プロの開発者向けの機能群」などがあります。

 また「Microsoft Excel」や「Microsoft Outlook」などのユーザーにとってもPower Platformは「アプリケーション開発とビジネスプロセス設計を迅速化し、ビジネス需要へ迅速に対応」「アプリケーションの開発コストの低減」「セキュリティを改善しながらアプリケーションのライフサイクルをシームレスに管理」「『Microsoft Azure』(以下、Azure)のサービスを合わせて活用し、柔軟にアプリケーションを拡張」といったメリットがあります。

図3 Power Platformについて(Microsoftの資料を基に筆者作成)

 AIに関してよく「本当にセキュリティは大丈夫なのか」という意見を聞きます。

 MicrosoftはAIにセキュリティやケーパビリティ、ガバナンスを目的にした機能を組み込んでおり、ユーザーはビジネスアプリケーションとデータを完全にコントロールできます。また、市民開発者が構築したアプリケーションに対するアクセス権限を変更する場合にも、データ接続を完全に制御しプラットフォームでの活動履歴を把握できます。

図4 Microsoftのセキュリティについて(出典:Microsoftの資料を基に筆者作成)

 次にローコードにおけるPoC(概念実証)の成功に何が必要なのかを説明します。

 まず大切なのは「何を実現するか」というビジョンと計画です。計画実行時には社内の認知度を上げるようなコミュニティー活動に加え、CoE(センターオブエクセレンス)でPDCA(Plan、Do、Check、Action)を回してビジネス上の価値を高めることが大切です。

 個人的には、ローコードソリューションを社内で定着させるのに一番大切なのは「プロジェクトメンバーをどう育てるか」「どう新たな文化をつくっていくか」などの、管理・推進を目的としたプログラムマネジメントだと思います。

図5 デベロッパーエクスペリエンス実現に向けた仕組みづくり(出典:Microsoftの資料を基に筆者作成)

 Microsoftが2023年5月に開催したイベント「Microsoft Build」で、同社のチャールズ・ラマナ氏(ビジネスアプリケーション プラットフォーム担当 CVP)は「私たちはローコードシフト、ローコード革命の中間地点にいます。ローコードシフトは5〜6年後に起こるとされ、私たちはまさにその真っ只中にいます」と話しました。

図6 Power Platformの概要(出典:Microsoftの資料を基に筆者作成)
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