「エンタープライズAI元年」目前 勝つプレーヤーはどこか

2024年を「エンタープライズAI元年」と位置付けるOracle。AI導入を急ぐ企業が増える中、Oracleは何を強みに勝負を仕掛けるのだろうか。

» 2023年11月06日 08時00分 公開
[荒 民雄ITmedia]

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 2023年10月31日、日本オラクルが「Oracle Technology Day/Oracle Applications Day」を開催した。米Oracleが2023年9月に開催した「Oracle CloudWorld」を受けて、日本の顧客やパートナー向けに開催されたものだ。

 基調講演で日本オラクル社長の三澤智光氏は「来年(2024年)はエンタープライズ向け生成AI(人工知能)元年になる」と宣言した。

日本オラクル社長の三澤氏はAI関連の認定資格制度や無償トレーニングプログラムの開始といった技術者育成、支援体制の強化を発表した

企業専用に生成AIを拡張 ニーズに適合する技術はどれか

 Oracleは2023年6月、独自に生成AIを開発するカナダのスタートアップ企業Cohere(コーヒア)にNVIDIAやSalesforceと共同で投資しており、同年6月には、Cohereの技術を基に生成AIサービスを開発することを発表していた。Cohereの技術に基づくAI機能の搭載は2024年を予定している。

 イベントで三澤氏は、CohereをはじめとしたAI関連について「『ChatGPT4』などの他のLLMと比較してパラメータ数が少ない中で品質を高めている。AIモデルを最適化する工程であるファインチューニングにおいてはパラメータ数が少ない方が有利だ。加えて、今後エンタープライズ用途のAI利用において求められる企業独自の情報探索などにおいてはRAGによる拡張が主流になると考えられる。RAGにおいては23C AI VectorSearchも有効だ。ベクトルデータもSQLでアクセスできるため、開発効率も良い」と説明した。

 OracleはIaaSのOCI(Oracle Cloud Infrastructure)をベースに、SaaS「Oracle Cloud Fusion Applications」や「NetSuite」、PaaSとして「Base Database Service」や「Exadata Database Service」などを提供する。

 このうち、業務アプリケーションなどの定型業務については「企業がAI利用するに当たり、ERPのような基幹業務においてはAIの恩恵をいち早く受けられるSaaS型を利用が重要。OracleのSaaSであればデータモデル/アーキテクチャ/クラウドを単一のものに集約可能だ。四半期ないし半年ごとの自動アップデートにより、常に最新のテクノロジーを利用できるようになる」と三澤氏は話す。

 AI関連のサービスとしては、SaaSであるOracle Fusion Applicationsに組み込まれるAI機能や機械学習サービス、事前構築済みモデルを提供するAIサービスの他、IaaSにおいては、AIモデル開発向けにOCIにNVIDIAの「NVIDIA H100 TensorコアGPU」「NVIDIA L40S GPU」「Ampere AmpereOne CPU」を搭載したインスタンスやAI向けの「OCI Supercluster」も提供する。

AIモデル開発企業がOCI Superclusterを採用 コスト効率のよいHW構成を強調

 三澤氏はこれらのクラウドにおける技術スタックの強みとして、ハードウェアアーキテクチャの違いを挙げた。

 「Oracle Cloudのサービス提供基盤ではサーバ内の通信にRoCE(RDMA over Converged Ethernet) v2を採用し、高速化を図っている。Oracle CloudにはNVIDIA GPUを搭載しているが、サーバない通信が高速化するためGPUを生かしたAI学習のパフォーマンスを高められ、より少ないリソースで効率よく演算できる。この技術を実装しているクラウドサービスはOracle Cloudだけ。AIモデル開発ではインフラへの大規模投資が必要になるが、AI向けに提供するOCI Superclusterを使えば(性能面の違いから逆算すると)他社で4000億円/年かかるようなAIモデル開発もOracle Cloudであれば1000億円/年で済む」と、性能面およびコストパフォーマンスの高さを強調した。

三澤氏はLLMなどの大規模AIモデル開発においてNVIDIAなどの主要ベンダーがOracleを開発基盤に採用していることを示した

 日本オラクルは、企業におけるAI利用支援を本格化させる構えだ。ワークショップやビジネス企画構想支援、環境構築支援、AI導入プロジェクト支援などを同社顧客に無償で提供する。また同日からAIに特化した認定資格もスタートさせた。同資格取得に向けたトレーニングの無償提供も始め、「OracleのAI」に関する技術スキルを持つ人材を拡大させる計画だ。

イベントでは大規模な導入を発表した野村総合研究所(NRI)の大元成和氏(常務執行役員 IT基盤サービス担当)も登壇。NRIはリテール証券会社向けに展開するバックオフィスシステム「THE STAR」においてOCIを自社データセンターで利用する「OCI Dedicated Region」を採用している

 基調講演後の記者会見で野村総合研究所(NRI)の大元成和氏(常務執行役員 IT基盤サービス担当)は、Cohereへの期待として、「(複数の言語生成AIを評価した)スタンフォード大学(基盤モデル研究所)の論文によればCohereが持つ生成AI技術への評価は非常に高い。自社サービスにおいてはOSSを含めどのAIを使うかを検証中だが、マルチクラウドの考え方と同様に用途によって複数のAIを使い分けることを考えている。CohereのAIと一緒に、ものによってはOCIから『Azure OpenAI』使うといったアプローチも考えられるだろう」とした。

 その上で「Cohereはエンタープライズ品質のAIに求められる要件を実装するのに適しているのではないかと考えている。企業独自の情報を組み合わせたAIを開発する場合、(技術特性を考えるとCohereは)OpenAIの半分くらいの期間でモデル開発ができるのではないかと期待している。現在は先行してOSSの技術検証を進めているがOracleのAIについてはベータ版が提供された際に改めて評価していきたい」とコメントした。

 2022年末頃からの1年はまさに生成AIブームと呼べる状況が続いた。大手ITベンダーがAIスタートアップと技術提携をしたり独自に開発したりといった手法で続々と競争に参戦したこともあり、技術的な進化も著しい。

 一方で、企業がAIにおけるAI利用においてはまだ幾つかの障壁があることも事実だ。データ収集や整備といった基礎的な環境構築ももちろんだが、コンプライアンスやガバナンス面の課題も議論の渦中にある。企業データを扱うとなれば、開発コストや品質にも配慮が求められる。三澤氏が言うように、エンタープライズAIの本格化はこれからのことになるだろう。そのときに向けてどのAIをどの基盤でどう使うかを判断するには、各社のAI利用に対するアプローチの違いや技術背景を理解しておく必要がある。Cohereの技術に掛けるOracleの2024年はどうなるだろうか。

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