これら2つの先にあるデジタルツインエンタープライズの実現について、保科氏は次のように説明した。
「デジタルツインは企業活動をデータ化し、デジタルで再現することでAIによって最適化できる。従来のプロセスには人が関わるため、広範囲での最適化が難しかったが、生成AIを活用することによって、経営者が生成AIを通じて直接、業務を確認して指示できるようになる。さらに株主や顧客、従業員といったステークホルダーの声を基に各種業務の全体最適を実現する世界が視野に入ってきた」
すなわち、生成AIがそれぞれの間のコミュニケーションの“潤滑油”となるわけだ。これも企業活動における生成AIの導入効果につながるだろう(図5)。
では、生成AIを活用したデジタルツインエンタープライズの中身とはどのようなものか。図6が、その要素や機能を示したものである。左の「現実世界」では、属人的に連携してきた各業務を生成AIが人に代わってつなぐことで最適化を図っていく。右の「デジタル世界」では、企業活動に関するさまざまな因子をデジタル世界で改変しながら、収益とステークホルダーへの影響をシミュレーションし、そこで得られた最適解を現実世界のビジネス施策に反映させていく形だ。
アクセンチュアは、デジタルツインエンタープライズを実現するソリューションとして「AI HUBプラットフォーム」を提供している。同社はこのソリューションを以前から提供しているが、新たに生成AIを組み込んで進化させているという。
改めて、企業において業務システムへの組み込みだけではない生成AIの導入効果とは何か。保科氏がキーワードとして挙げたのは、「パートナーAI」と「デジタルツインエンタープライズ」だ。AIを利用することで、企業活動におけるさまざまなコミュニケーションの質が向上するというのが筆者の印象だ。
最後に、生成AIの利用が広がる中で「人はどう変わっていくべきか」「どんなケイパビリティが求められるか」について職能ごとに示した図が興味深かったので紹介しておこう(図7)。人に求められるケイパビリティもさることながら、職能ごとの「AIに任せるべきこと」も参考になるだろう。また、筆者としては図の右端に記されている「全ての人に求められるケイパビリティ」に「意思決定力」を加えたいところだ。職能の種類を問わず、意思決定をAIに安易に委ねないようにしたいものである。
この1年間に起きた生成AIブームが私たちに問いかけているのは、まさしく「人はこれからどうあるべきか」ではないか。今回のアクセンチュアの記者説明会を通じて、そう強く感じた。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身
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