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» 2023年11月28日 08時00分 公開

Oracleが目指すのはエンタープライズのためのAI 他社との差別化は成功するか

「生成AI実装競争」が激化している。各社が多様なサービスを打ち出している中、Oracleが差別化を図っている。どのような違いがあるのだろうか。

[河嶌太郎ITmedia]

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 日本オラクルは2023年10月31日、「Oracle Technology Day」を開催した。同イベントは2023年9月に米国ラスベガスで行われた「Oracle CloudWorld 2023」で発表された内容を国内向けに紹介するもので、データ活用や生成AI(人工知能)に関わる活用事例を多く発表した。

Oracleの生成AIはエンタープライズのため 他社との違いは

 基調講演には同社の三澤智光氏(取締役 執行役 社長)が登壇し、「Oracle CloudWorld 2023」を振り返りこう話した。

 「報道などではAIによって“突然”世の中が変わるという論調もあるが、Oracleはそうは考えていない。AIは今のビジネスや社会課題を解決していくための一つの手段にすぎない。AIそのものが重要なのではなく『AIで何を成し遂げるのか』『AIをどのようにコントロールするのか』が重要だ」

三澤智光氏

 Oracleは世界最大の電子カルテベンダーでもある。この領域では、AIによる血液検査の自動化や検査室のデータを医師に送信するといった業務効率化が期待されている。

 現在、多くの日本企業が抱える課題の一つに、レガシーシステムによる業務の非効率化がある。レガシーシステムを抱えること自体は決して悪いことではない。しかし、セキュリティをはじめさまざまな要因から、レガシーシステムもバージョンアップしなければならない。

 特に基幹システムなどは、約5〜7年に1回入れ替え作業が行われる。この際に多大なコストがかかっているのが日本のIT事情だ。そこでレガシーモダナイゼーションを行い、レガシーシステムにクラウドテクノロジーを入れ込むことで、アップグレードコストを抑えることが可能だという。コストが下がれば、技術者の育成やデータの整備に予算を使える。

 「こういったことを当たり前にやっている企業が、今後AIを活用できる企業になっていく。レガシーシステムのネクストジェネレーションはどういう姿なのか、これは真剣に検討すべき課題ではないか」(三澤氏)

 こうした課題を解決するために、Oracleは「Oracle Fusion Cloud Applications」(以下、Fusion Cloud)と、「Oracle NetSuite」(以下、NetSuite)を提供している。いずれもクラウドネイティブなサービスで、Fusion Cloudは2500万以上のユーザーが、NetSuite」は3万7000以上の企業が採用している。

 Fusion Cloudには四半期に1回、NetSuiteには半期に1回のアップデートを提供している。ERPのアップグレードが可能になることで、セキュリティホールが埋まり、パフォーマンス改善も期待できる。

 「私たちは『iPhone』のアップグレードをあまり意識していない。それと同じような環境を新しいビジネスアプリケーションの世界でも提供していくというのがOracleの発想だ」(三澤氏)

 ERP市場でもAIの進化に注目が集まっている。生成AIといえば「ChatGPT」のようなコンシューマー向けのAIを意識しがちだが、Oracleが目指す生成AIはB2Bやエンタープライズ向けのAIであり、これは企業業務に耐えうる高速なインフラストラクチャが必要だ。

 Oracleは「RDMA over Converged Ethernet」という標準仕様のイーサネットを使ったRDMAネットワークで、NVIDIAのGPUを最大限活用している。同社はこの技術を生かし、他社よりも効率の良い生成AIの運用を目指す。

 「生成AIベンダーのMosaicMLによれば、他社クラウドと比較してOracleは学習時間を50%、学習コストを80%削減できる。つまり、他社だと年間4000億円かかるサーバコストをオラクルだと1000億円に抑えられる」(三澤)

 OracleはCohereに出資し、生成AIの開発に携わっている。また、NVIDIAは生成AI開発に「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)を活用している。

 OracleはCohereと提携し、生成AIそのものの開発も進めている。サービス名は「OCI Generative AI Service」(Powered by Cohere)だ。ChatGPTで知られるOpenAIはMicrosoftと連携しているが、OCI Generative AI Serviceはエンタープライズ向けに特化した生成AIとして差別化を図る。

 生成AIの学習量を示すパラメータ数では、「GPT-3」が1750億パラメータに対し、Cohereは520億パラメータだ。数値はGPT-3に劣るものの、Cohereは「RAG」というハルシネーションを防ぐ機構の精度を高めることで、少ないパラメータ数でも高い性能を目指す。

 B2CのChatGPTとは異なり、Cohereの生成AIはエンタープライズ向けで、企業ごとのカスタマイズを前提とした作りであるため、ファインチューニングのしやすさを念頭に置いている。そのため、パラメータ数はそこまで増やさず、企業ごとに特化した生成AIを生み出しやすくしている。

 Oracleはこの生成AIを既存サービスに組み込んでいる。実際に「Oracle Database」に、AIデータファイルシステムとAIベクターサーチの機能を盛り込む予定だ。

 「さまざまな生成AIをサポートするためにエンジンを提供することが、Oracleの新たな戦略になる。この生成AIはCohereのためだけではない。これは『生成AIを支えるデータプラットフォームを提供する』という意思表示だ」(三澤氏)

 具体的には、ベクトルデータを含むあらゆるデータタイプを一つのデータベースに集め、構造化データとベクトルデータのベクトル検査を「SQL」でデザインをする。これによりAIアプリケーション開発の劇的な生産性向上を目指す。

 三澤氏は生成AIの今後の展開について「オープンソースを少し改良して作ったようなベクトルファイルシステムや、ベクターサーチエンジンとはまるっきり違うものをOracleが提供していく。この新たなデータベースによって、2024年をエンタープライズ生成AI元年にしていきたい」と語る。

 Oracleは各SaaSにおいても生成AIを取り入れる方針だ。これは製品の一環として提供するもので、ユーザーはファインチューニングをする必要もなければ、RAGを組む必要もない。導入直後からすぐに使えるAI機能だ。

 「今後の5年、10年を考えたとき、オンプレミスアーキテクチャのERPが良いのか、クラウドネイティブのERPが良いのか。これはもう明確だ」(三澤氏)

 オラクルはIaaS、PaaS、SaaSの全層でAIサービスを提供していく。エンタープライズ生成AI元年に向け、こうしたサービスを使いこなすユーザー支援も急務だ。Oracleは「AI推進室」を設立し、社長直下にAI有識者を集約させている。他にもユーザーのニーズに応じて「AIワークショップ」や「AIビジネス企画構想サービス」「AI環境構築支援サービス」を無償で提供する。また、AIに関連するトレーニングや認定資格も無償で提供する。

 「日本のユーザーに日本のためのクラウドを提供していく。そしてユーザーのためのAI活用を推進していく。この2つの施策を日本でしっかりやっていく。OracleのクラウドやAIは、ユーザーとともに進化していく」

 エンタープライズの生成AI活用はどうなっていくのか。さまざまな企業が生成AI開発に取り組む中、Oracleの生成AIはB2Bの生成AIサービスのスタンダードになるのだろうか。

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