大企業がスタートアップに積極的に投資するケースが目立っている。スタートアップに投資することでどんなメリットを得ようとしているのか。また、スタートアップに投資するために社内に設立するCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が重視すべき「リターン」とは。
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読者の皆さんは日々さまざまな記事を読む中で「〇年には△億円に拡大する」といった市場規模推移予測データを日々目にしているだろう。文字数が限られるニュースリリースでは予測の背景や市場を構成するプレーヤーの具体的な動きにまで言及するのは難しい。
本連載では調査データの“裏側”に回り込み、調査対象の「実際のところ」をのぞいてみたい。ちょっと“寄り道”をすることで、調査対象を取り巻く環境への理解がより深まるはずだ。
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連載第5回は、少し変化球を投じてみたい。矢野経済研究所では特定の市場について調査して発表することが多いものの、数字ではなく「提言」を発表することもある。本稿では、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の“裏側”に迫る。少し生々しい実態を明らかにした上で、筆者が取材する中で得られた「実際に投資を手掛ける際の8つの必須要件」を示したい。
ここ1〜2年で大手企業を中心にCVCを設立して、スタートアップに対する投資活動を強める動きが目立っている(CVCと同機能を持った事業部を含む)。ただし、「CVC」と一言で言っても、その活動の幅は広い。通常、事業会社は既存事業の強化や新規事業の創出を目的として、スタートアップとの業務提携やM&Aなどを実施する「コーポレートベンチャリング」を手掛けている。
コーポレートベンチャリングには、投資を伴わない手法から投資を伴う手法までさまざまな手法がある(図1)。通常はこれらの手法を組み合わせて取り組んでいる。
CVCの役割において出資はあくまでも一手段にすぎない。また、資金があれば自然にスタートアップが「投資してください」と来てくれるわけではない。CVCを通じて投資を手掛ける際は、CVCを最初から手掛けるのではなく、スタートアップコミュニティーとの関係を構築し、スタートアップとの距離を縮める中で自社の認知度を高め、浸透させていくといった地道な活動から始めるケースが多い。
ここではCVCが実施する4つの手法に触れつつ、スタートアップとの関係性を示す(図2)。
実際には図のように順を追って進めるわけではなく、自社に合った形で複数の手法を組み合わせることが多い。当初はアクセラレータープログラムやVCへのLP出資を通じてスタートアップとの関係やノウハウを獲得した上で、CVCの立ち上げに進む企業も多い。また、アクセラレータープログラムに出資をひもづける形で取り組む事業者もある。
では、CVCを立ち上げるメリットとは何だろうか。当然、財務的なリターンはありつつも、事業会社はVCと異なり、戦略的リターンを重視する。本項では、戦略的リターンについて技術面やビジネス面、人材育成面における8つのリターンを挙げ、各手法を採用することでどのようなリターンが得られるのか簡単に押さえておこう。
まず技術面では、技術シーズ情報の探索や技術や特許ライセンスの取得が考えられる。ビジネス面では、スタートアップの持つプロダクトについてホワイトレーベルとしての提供や、自社プロダクトとの抱き合わせなどに加えて、中長期的にはスタートアップとの協業による新たな事業機会の創出やスタートアップを通じた業界人脈の獲得、LP出資を通じたVCとの人脈構築が期待できる。業界の動向やダイナミズムなどを把握することで影響度合を分析し、将来的な対応を検討する材料とすることも考えられる。
人材育成面では、スタートアップとの協業やオープンイノベーションの推進を通じてイントレプレナーを育成する他、スタートアップ支援として自社従業員をスタートアップに派遣することで営業力やマネジメント力を強化するメリットもあるだろう。
矢野経済研究所は、4つの手法と得られるリターンとの関係性について調査した結果を図表4のようにまとめている。
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