HPEとDellがハイブリッドクラウドに「こだわらざるを得ない」理由とは? 「バトル勃発」の可能性を考察Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2023年12月04日 13時30分 公開
[松岡功ITmedia]
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ハイブリッドクラウドの最適化を目指す「Dell APEX」

 一方、Dellの日本法人デル・テクノロジーズは2023年11月21日、「ハイブリッドクラウドの最適化戦略」をテーマに都内ホテルでプライベートイベントを開催し、そのオープニングスピーチで、同社 代表取締役社長の大塚俊彦氏と常務執行役員パートナー事業本部長の入澤由典氏がハイブリッドクラウド向けサービスについて説明した。

デル・テクノロジーズ 代表取締役社長の大塚俊彦氏

 大塚氏は「当社は2022年から最適なマルチクラウド利用を実現するための『マルチクラウド・バイ・デザイン』を提唱し、ハイブリッドクラウド環境においてマルチクラウドも柔軟に利用できるサービスを提供してきた。日本ではこれまでパブリッククラウドを積極的に利用してきた企業の多くが、ここにきてオンプレミスも生かしたハイブリッドクラウド環境をベースにするとともに、複数のクラウドサービスを適材適所で利用して、業務の効率化やビジネスの成果につなげたいと考えている」との見方を示した。その上で、そうしたハイブリッドクラウドおよびマルチクラウドのニーズに応えるためのサービスとして提供しているのが、「Dell APEX」(以下、APEX)だと紹介した。

 入澤氏は大塚氏の説明を受け、企業におけるクラウド利用の変遷について次のように解説した(図3)。

図3 企業におけるクラウド利用の変遷(出典:デル・テクノロジーズのイベント講演資料)

 「左の『クラウド内での最適化』とは、クラウドサービスをまず使ってみてクラウドのメリットを享受しようという動きのことだ。そこから中央の『クラウド間での最適化』、すなわちマルチクラウド利用の動きが出てきた。そして今、そうした経験をしてきた企業がハイブリッドクラウド環境をベースにして『クラウド全体の最適化』を図ろうとしている。APEXはまさしく、そうしたお客さまに活用していただきたいサービスだ」

 さらに、同氏はAPEXについて「(2020年に)サービスを始めた頃はオンプレミス環境をクラウドサービスのように提供する内容が中心だったが、今ではマルチクラウド利用をはじめ幅広い領域のサービスを提供している」と説明した。APEXのポートフォリオは、図4に示す通りだ。

図4 Dell APEXのポートフォリオ(出典:デル・テクノロジーズのイベント講演資料)

 これまでHPEとDellのハイブリッドクラウド向けサービスを見てきて、GreenLakeとAPEXが同様のサービスであることをお分かりいただけただろう。それは冒頭で述べたように業態が似ているからだ。

 では、なぜ両社はハイブリッドクラウド向けサービスに注力するのか。理由は大きく2つある。

 一つは、両社のトップも述べているように、企業のIT環境としてハイブリッドクラウドがこれから中心になるとの見方が強いからだ。

 もう一つは、両社がハードウェアベンダーだからだ。ハイブリッドクラウド向けサービスは、両社にとってオンプレミスのハードウェアを生かすためでもある。言い換えると、ハードウェアの既存の顧客を同サービスへ誘導するためだ。ここに両社のこだわりというか、「こだわらざるを得ない」理由がある。

 そう考えると、サーバやストレージで激しいシェア争いを繰り広げてきた両社が、ハイブリッドクラウド向けサービスでも引き続きバトルを展開しそうだ。しかし、もし前提が変われば、もっと大きな対立構図が浮き彫りになる可能性がある。その前提とは、パブリッククラウドを利用する割合がオンプレミスに比べて相当大きくなる場合だ。

 ハイブリッドクラウドはオンプレミスとパブリッククラウドの両方を包含しているので、今後も中心になり続けるだろう。だが、その中でパブリッククラウドが多くの割合を占めるようになれば、HPEとDellによるハイブリッドクラウド陣営と、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft、Googleといったハイパースケールのパブリッククラウド陣営による主導権争いが浮かび上がってくる。パブリッククラウド陣営もハイブリッドクラウド環境に向けてソリューションを拡充するだろう。

 その際、ハイブリッドクラウド向けサービスの中で、ユーザーが相談したいと考えるファーストコンタクト先はどこか。主導権争いのポイントはここにあると、筆者は見る。これは言い換えると、ハイブリッドクラウドのエコシステム(生態系)において、どちらが頂点に立つかという戦いだ。両陣営はパートナー同士でもある。その意味では、まさに右手で握手しながら左手で殴り合うバトルが繰り広げられそうだ。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身

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