「クラウド移行の半分は失敗」 それでもオンプレ回帰が起きない3つの理由CIO Dive

ある調査によると、クラウドに移行した企業の半分が「クラウド移行は失敗だった」と考えている。クラウド移行には多くの困難が伴い、当初の想定以上にコストがかかることもある。それでも「脱クラウド」すべきでない3つの理由とは。

» 2023年12月04日 12時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

CIO Dive

 クラウドサービスに関する不満は数多く存在する。使用量に応じた価格設定や通信料によって毎月のコストがかさみ(注1)、経費削減効果が予想より得られないこともある。スマートで合理的なITエコシステムへの期待は、SaaS(Software as a Service)の乱立や、仕様が異なるシステム同士でデータをシームレスにやりとりする相互運用性に問題が見つかることで、簡単に打ち砕かれてしまう(注2)。

3分の2の企業が「クラウド移行で当初の目標を達成できない」

 クラウド移行が技術スタックのあらゆる部分に及び、ITベンダー依存への懸念が高まるにつれて、信頼できるオンプレミスデータセンターの閉鎖を考え直す動きが浮上し、クラウドからの撤退する「脱クラウド」の議論が持ち上がる。

 しかし、「脱クラウド」は滅多に実施されない。なぜだろうか。

 クラウドベースのITシステムやアプリケーションをオンプレミスに戻すという考え方は、クラウドの無能さを露呈させることになるからだ。一般的に、IT部門の管理職はこうした負担を負いたいとは考えない。

 「クラウドに移行するために多大な時間とリソースを費やした後、オンプレミスに戻すことは、後退であり失敗だといえるだろう。戦略や初期計画の不十分さまで露呈する」と、調査とコンサルティングサービスを手掛けるForresterは最新のレポートで指摘した。

 調査とコンサルティングサービスを手掛けるHFS Researchによると、目をそらしたい事実だが、クラウドに不満を抱く顧客は増えている。HFS Researchが500人以上の上級管理職を対象にして2022年に6カ月間にわたって実施した調査によると、クラウド移行の半数は失敗に終わっている(注3)。「クラウド移行によって当初の目標を達成できた」と回答したのは3分の1以下だった。

 主に問題となっているのはコストだ。コンサルティング会社West Monroeのアンディ・シーロック氏(アドバイザリー 兼 トランスフォーメーション担当シニアパートナー)は、「クラウド移行を急いだ結果、コスト面で大きな打撃を受けた」と「CIO Dive」に語った(注4)。オンプレミスのデータセンターを最大限の効率で運用していた企業は、アプリケーションをクラウド向けに最適化しなかった場合、移行後のコストが特に増大する可能性があった。

 一方で注目すべき例もある。オンラインクラウドサービスを提供するDropboxは、2018年にパブリッククラウドからワークロードを引き上げた際に7500万ドルのコストを削減した(注5)。ソフトウェア企業の37signalsは2022年、クラウドにかかるコストを分析した後に「Amazon Web Services」(AWS)からワークロードを引き上げた(注6)。

 しかしForresterは、「このような動きはまれだ。テック企業に限定される傾向にある」と述べる。それを裏付けるように、同社の報告書には次のような指摘がある。「脱クラウドの大規模な例として広く知られているのは、クラウドにかかるコストが利益を圧迫したことで、自社でデータセンターリソースを保有する必要があると気付いたテック企業の事例だ」

 「ほとんどの企業にとって、脱クラウドは最後の手段か、特定のアプリケーションや相互依存性の高いアプリケーション群に限定した戦略的な決断であるべきだ」とForresterは助言する。

 同社が脱クラウドを避けるべきだと推奨する理由は、風評被害を受ける潜在的な可能性があるというだけではない。同社は以下の3点を挙げる。

1. イノベーションに関するソリューションの不足

 ハイパースケーラーが提供するのはITインフラだけではない。AWSや「Microsoft Azure」、「Google Cloud」ではソフトウェアのマーケットプレイスを通じて、企業は生成AIや大規模言語モデル(LLM)など、汎用的なソリューションや業界特有のソリューションにアクセスできる。

 「クラウドプラットフォームから離れることは、イノベーションのパートナーシップや活気あるコラボレーションコミュニティから大きく退くことになる」と報告書は述べている。

2. 技術スタックの最適化

 企業はクラウドを採用することで、データセンターの保守責任を外部事業者に移し、IT担当者がより高い競争力を発揮する技術の構築に専念できるようになった。オンプレミスに戻るとこのメリットは失われる。多くの場合、技術的な能力が制限されてしまう。

 「オンプレ回帰は、価値を提供する機能やそれ以外の能力を排除することになる。クラウドベースのソリューションをオンプレミスに置き換えるのは、コストがかかるだけでなく技術的にも難しい」とForresterは語る。

3. 移行の手間

 オンプレミスへの回帰は、どのような手段を使おうと困難であることに変わりはない。クラウドで最新化されたアプリケーションや、移行に先立って更新されたアプリケーションは、オンプレミス環境へのリフト・アンド・シフトも容易かもしれない。しかしアクティブディレクトリの不整合や独自のクラウドネイティブサービス、ネットワークプロトコルが移行プロセスを複雑にしている。

 Forresterの調査によると、クラウドプラットフォームを利用する企業の半数は、特殊なインフラやサービスにアクセスしている。そのような機能をオンプレミスに置き換えるのは大変な作業だ。「一度モダナイズされたものを元に戻すのは非常に難しい」と、Forresterは指摘している。

© Industry Dive. All rights reserved.