2024年に向けて知るべきクラウドのトレンド 「自分で運転」する企業へ変革せよ

すさまじい速さで変化するビジネス環境に対応するために、企業は何をすべきなのだろうか。ガートナーが11のトレンドとそれぞれの解説を発表した。

» 2023年11月17日 07時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 ガートナージャパン(以下、ガートナ―)は2023年11月15日、2024年に向けて日本企業が押さえておくべきクラウドコンピューティングのトレンドを発表した。

2024年のクラウドの主要トレンド(出典:ガートナーのWebサイト)

企業が押さえておくべき11のトレンドとは

 ガートナーは「“産業革命クラスの大変化”に備えるべく、クラウドのリテラシーを高めて“自分で運転”する企業への変革を加速させることが重要だ」としている。以下は11のトレンドとその解説だ。

1.2026年問題

 クラウドコンピューティングというキーワードは2006年から存在するが、2023年においても「クラウドはまだ早い」と考えているユーザーが相当数存在する。また、システムインテグレーション(SI)や仮想ホスティング、クラウドの違いを理解していないユーザーもいる。

2.クラウドの正しい理解

 ガートナーは、クラウドコンピューティングを「スケーラブルかつ弾力性のあるITによる能力を、インターネット技術を利用し、サービスとして企業外もしくは企業内の顧客に提供するコンピューティングスタイル」と定義している。企業はこの定義を理解し、時代とクラウドに適したITの導入や運用スタイルを実践する必要がある。

 本物のクラウドとは数百ものサービス部品の集合体であり、これは「変化対応が可能」「スケーラブル」「早く導入して運用しながら最適化」などが可能で、かつ情報も価格も透明性が高いものだ。企業がクラウドの真のメリットを得るには、クラウドを正しく理解し、システムインテグレーターに丸投げせずに「自分で運転」できるエンジニアを自社に増やす必要がある。それには新しいスキルやマインドセット、スタイルが求められる。

3.コスト最適化

 クラウド化をシステムインテグレーターに丸投げしている企業や組織では、「オンプレミスと比べてコストが下がらない」「コストが上がった」という声が挙がっている。クラウドインテグレーションは従来型の手組みによるフルカスタムの要件ファーストのSIとは異なり、ベンダーが作った標準に業務を合わせる「Fit to Standard」のアプローチを原則とし、要件定義は最低限で「あるものを使う」「過度に作りこまない」のが前提だ。

 クラウドインテグレーションに当たっては、コストについてもシステムインテグレーターに丸投げせず、自分でコスト最適化に取り組む必要がある。ガートナーは、2026年までにクラウドを「自分で運転」し始めている企業の30%は、クラウド関連のコストをオンプレミス時代の10分の1にまで抑制すると考えている。

4.ハイブリッドクラウド/Newオンプレミス/オンプレ回帰

 ガートナーは2023年4月、日本におけるクラウドコンピューティングの導入状況に関する調査を実施した。同調査によると、SaaSの導入率割合の35%、PaaSとプライベートクラウドの25%に続き、IaaSの導入率割合も24%となり、着実にクラウドが浸透している状況が浮き彫りになった。

 同調査では、「これから1〜2年かけて、外部のクラウドサービスの利用とオンプレミスへの投資、どちらにより投資をすると考えていますか」という質問に対し、60%が「外部クラウド」と回答した。外部クラウドサービスへの投資意欲は引き続き高く、オンプレミスへの投資意欲も回復傾向にある。「オンプレミスへより投資する」という人は、2013年の26%から2020年に11%まで低下したが、2023年には18%に上昇した。

 ガートナーは、クラウドネイティブの要素を取り入れた新しいオンプレミスを「Newオンプレミス」と呼んでおり、それにはハイパーコンバージドインフラストラクチャ (HC)ベンダーや、ハイパースケーラーが提示しているハイブリッドソリューションにおけるオンプレミスも含まれる。

5.マルチクラウド

 マルチクラウドは、複数のパブリッククラウドプロバイダーが提供するクラウドサービスを意図的に使用することを指し、現在のマルチクラウドは「計画的マルチクラウド」「自然発生的マルチクラウド」「発展的マルチクラウド」「先端的マルチクラウド」「戦略的マルチクラウド」「分散マルチクラウド」に分類できる。

 マルチクラウドは、クラウドプロバイダーによるロックインのリスクを低減すると期待され、特定のユースケースに最適な機能を提供する他、俊敏性やスケーラビリティ、弾力性というクラウドのコアメリットに加えて、サービスの復元力と移行機会を提供する。

6.サービスファクトリ

 サービス・ファクトリは、クラウドネイティブを中心とする多様なテクノロジーや方法論を包括し、アプリケーションやインフラをサービスとして提供するための「サービスデリバリーフレームワーク」だ。

 サービスファクトリに含まれるテクノロジーや方法論には、クラウドネイティブやDevOps、継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)、コードとしてのインフラストラクチャ(IaC)、サイトリライアビリティエンジニアリング(SRE)、可観測性などがあり、ここ数年で注目度が増している。企業は、サービスファクトリを新たなビジネスの基盤として捉え、自動化を積極的に進めることでビジネスを段階的にスケールできる。

7.生成AI(人工知能)

 2023年は生成AIを巡るハイプが加速し、多くの企業が積極的に試行、実験に取り組んでいる。大規模AIスーパーコンピュータの開発や大規模言語モデル(LLM) の開発用途、自社データへの生成AI機能の組み込みなど、クラウドコンピューティングにおける取り組みも進んでいる。

8.ハイパースケーラーのトレンド

 Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloudなどのハイパースケーラーは、さまざまな取り組みを進めている。一方、ハイパースケーラーによってその取り組み姿勢に差があるのは事実で、2024年にはこれらの取り組みが日本でも導入事例として出てくるとみられる。

9.ソブリンクラウド

 国内外のデータ保護やプライバシー関連規制の強化、地政学的リスクの高まり、サイバーセキュリティリスクの急増、経済安全保障や産業政策を背景に、外国が所有、運営するクラウドサービスにホストされるデータやインフラ、運用のソブランティ(主権)に対する懸念が高まっている。

 日本では、デジタル化の進展に向けて政府が米国ハイパースケーラーを採用する一方、国内産業育成やデジタル主権の在り方についても議論されており、データレジデンシ要件とクラウド運営の自律性を満たした管轄区域内で提供されるクラウドサービスであるソブリンクラウドは、ハイパースケーラー各社もその取り組みを強化している。

10.クラウド人材・組織

 2030年に向けて、テクノロジーを駆使できる企業とそうでない企業の二極化が進む。テクノロジーを駆使できる企業に進化するには、生成AIなどの“スーパーパワー”(想像を絶するテクノロジー)を駆使できる実行力を獲得する必要があり、そのためには新たなテクノロジー人材の獲得が重要になる。

 産業革命ともいえるフルデジタルの時代に向けて、企業はテクノロジーとの向き合い方を見直し、個人や組織のスキル、マインドセット、スタイルを変革させ、People-Centric(人間中心)の観点から従業員を大事にし、彼らが元気に活躍できる環境と整え、企業として進化する必要がある。

11.クラウド戦略

 クラウドはサービス部品の集合体であり、「自分で運転」することで、ビジネス効果を最大化できる可能性があるテクノロジーだ。クラウド戦略の推進には、ユーザー企業が自らクラウドを使いこなせるスキルやマインドセット、スタイルを高めた人材が、テクノロジーを駆使して新しいビジネスアーキテクチャの構築や次世代サービスファクトリを実践して、ビジネスをスケールさせることが重要になる。それにはテクノロジーの観点だけでなく、人材への投資を含めた戦略やロードマップの策定が欠かせない。

 ガートナーの亦賀忠明氏(ディスティングイッシュトバイスプレジデント アナリスト)は「日本企業はいつまでもクラウドについて同じ議論をしている場合ではありません。2024年はクラウド戦略のスコープとフォーカスを再設定し、2030年以降を見据えてテクノロジーを駆使したさまざまな取り組みを推進させる必要があります」とコメントしている。

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