人とマシンの関係は新たな段階へ 戦略的テクノロジーのトップトレンドは何が変わったか

来年のIT投資を占う「テクノロジートップトレンド」が発表された。今年の特徴はDXが次のステージに移行しつつあること、AIの可能性をいよいよ具体的に理解しなければならないことが強く意識されている点だ。われわれは今から何を準備すべきなのだろうか。

» 2023年11月14日 14時22分 公開
[原田美穂ITmedia]

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 ガートナージャパン(以下、ガートナ―)は2023年11月13〜15日にかけて「Gartner IT Symposium/Xpo2023」を開催しており、13日には「2024年の戦略的テクノロジーのトップトレンド」を発表した。

「2024年の戦略的テクノロジーのトップトレンド」(出典:ガートナー)

 10のテクノロジートレンドは「投資の保護」「ビルダーの台頭」「価値の拡張」に分類される。今回のトレンドの特徴について、生成AI(人工知能)の登場などを受けて「過去数年来取り組んできたデジタル化の取り組みが『腹落ち』したことにある」と、ガートナーの池田武史氏(リサーチ&アドバイザリ部門バイス プレジデント アナリスト)は説明した。

 「生成AIかDX推進か、きっかけは定かではないが、今まで積み上げてきたデジタル化の取り組みがようやく腹落ちした1年。人とマシンの新たな関係を確信し、デジタル化が進んだ。生成AIブームはその確信を確かなものにするドライバーとなるものだった。大きなトレンドの変化があったとすれば、人とコンピュータの関係が新しくなりそうだという期待が高まっており、過度な期待のピーク期になっている点だろう。それ以外の要素は粛々と進展している」(池田氏)

テクノロジートップトレンド 10の要素は1年でどう変わったか

 池田氏は「現実に起こっている出来事の全てがつながる時代のモデル=ハイパーコネクテッドの像」だと示し、それらと下記に挙げたテクノロジートップトレンドの10の要素を当てはめて説明した。

  1. AI TRiSM (AIの信頼性)
  2. CTEM(脅威セキュリティエクスポージャー)
  3. 持続可能なテクノロジー
  4. AI拡張型開発
  5. プラットフォームエンジニアリング
  6. インダストリークラプラットフォーム
  7. インテリジェントアプリケーション
  8. マシンカスタマー
  9. ジェネレーティブAIの民主化
  10. 拡張コネエクテッドワークフォース
全てがつながる時代のモデル=ハイパーコネクテッドの姿(出典:池田氏の発表資料)
ハイパーコネクテッドの世界にテクノロジートップトレンドの10要素をマッピング(出典:池田氏の発表資料)

 2023年のトップトレンドと比較すると、重複は4点。以前から継続しつつ、やや概念が発展したものとしてCTEMやAI Automated Developmentが挙げられる。前回と比較してより具体化した内容を指すものになっていることからも、DXが次のステージに移行しつつある状況が見て取れる。

2022年のテクノロジートップトレンドとの比較(出典:池田氏の発表資料)

AI TRiSM

 AI TRiSM(AIの信頼性/リスク/セキュリティマネジメント)は、コンプライアンスを容易に達成するためのテクノロジーを指す。より多くの場面でAIを活用するためにもAI TRiSMの必要性がより緊急かつ明白になっているとしており、ガートナーは、AI TRiSMを適用した企業は2026年までに、誤った情報や不正な情報を最大80%排除し、意思決定の精度を高めるようになるとみている。

CITEM(Continuous Threat Exposure Management:継続的な脅威エクスポージャ管理)

 CTEMは「企業のデジタルおよび物理資産のアクセシビリティ、脅威エクスポージャ、悪用可能性を継続的かつ一貫して評価できるようにするための、実践的かつ包括的なアプローチ」だ。

 CTEMの評価と修復の範囲を、ITインフラの技術コンポーネントではなく攻撃シナリオやビジネス、プロジェクトに連携させることで、脆弱(ぜいじゃく)性だけでなくパッチが適用できない脅威も明らかにする。

 ガートナーは、2026年までに継続的な脅威エクスポージャ管理に基づいてセキュリティ投資の優先順位を設定する組織はセキュリティ侵害を3分の2減らせると見ている。

 「脆弱性の修復からエクスポージャの優先順位付へ。脆弱性の一つ一つを潰すのではなく脅威の評価を軸にセキュリティを考える。セキュリティ部門だけでなく、ビジネス部門やCIO(最高情報責任者)と連携して運営するのがCITEMのアプローチだ。体制整備は困難を伴うが、セキュリティ侵害リスクは3分の1にできるだろう」(池田氏)

持続可能なテクノロジー

 持続可能なテクノロジーは長期的な生態系バランスや人権を支えるESG(環境、社会、ガバナンス)の成果を実現するソリューションを指す。ガートナーは2027年までに、CIOの25%が持続可能なテクノロジーの影響に連動する報酬を受け取るようになるとしている。

プラットフォームエンジニアリング

 プラットフォームエンジニアリングはエンジニアの開発効率向上に寄与するプラットフォームを指す。

 人材不足や開発環境の複雑化により、開発者の負担が増える中で、「クラウドにおけるリソース利用の概念から発展してきた考え方」(池田氏)として、ソフトウェアのデリバリやライフサイクル管理を効率化する目的でセルフサービス型の開発者プラットフォーム構築や運用が進むと見ている。

AI拡張型開発

 AI拡張型開発とは、ソフトウェアエンジニアによるアプリケーションの設計やコーディング、テストを支援するAIテクノロジーを利用する開発を指す。エンジニアはコーディングに要する時間を短縮し、ビジネスアプリケーションの設計や構成といった戦略的意義がより大きい活動に振り分ける時間を増やせるとガートナーは説明している。

インダストリクラウドプラットフォーム

 インダストリクラウドプラットフォームは「SaaS、PaaS、IaaSの基盤サービスを組み合わせて業界別の具体的な要件に対処」する「業界固有のカスタマイズ機能を提供するクラウドの提案」とされる。業界別のデータファブリックやビジネスケイパビリティパッケージのライブラリ、コンポジションツール、その他のプラットフォームで構成され、さらなるカスタマイズを含むアプリケーションサービスを提供する。

 ガートナーでは2027年までに、企業の70%以上はインダストリ・クラウド・プラットフォームを使用するようになると予測する。

インテリジェントアプリケーション

 インテリジェントアプリケーションは、適切かつ自律的に応答するための、学習で得られた適応力を持つアプリケーションを指す。機械学習yベクトルストア、コネクテッドデータなどを学習ソースとするAIの多様なサービスで構成される。2026年までにISVの80%以上が、エンタープライズアプリケーションに生成AI機能を組み込むとガートナーは予測する。

ジェネレーティブ(生成)AIの民主化

 ガートナーは、OSSを含め多様な生成AIモデルが発表され、サービスとして利用可能になりつつあることから、AI開発の専門家ではない人材が生成AIに用意にアクセスできる環境が整うと見ており、2026年までに80%以上の企業がジ生成AIのAPIとモデルを使用して本番環境でジ生成AI対応のアプリケーションを展開するようになると予測する。

 生成AIの民主化は、ビジネスユーザーが社内外の膨大な情報源にアクセス可能になり、「企業内の知識とスキルが大きく民主化」されることにつながるとしており、誰もがセマンティクスに応じて対話形式で知識にアクセスできるようになる。また「このトレンドが進行すると生成AIの倫理面への配慮もさらに重要なテーマ」になるとも指摘している。

拡張コネクテッドワークフォース(Augmented-Connected Workforce)

 拡張コネクテッドワークフォースは、従業員から得られる価値を最適化するための戦略を指す。従来、タレントマネジメントなどの個人に着目した人材活用が注目されてきたが、拡張コネクテッドワークフォースはAIを使って従来の人材活用の在り方を拡張し、組織パフォーマンスやビジネス成果を考慮した従業員体験や能力開発を支援するコンテキストやガイダンスを提供する。

 「機械と違って人間には多様性がある。これを組織としてマネジメントする必要がある。AI技術が発展したことで、反復作業や長期稼働はコンピュータにまかせられるようになる一方、人間はより人間らしいタスクに移行するはずだ。拡張型コネクテッドワークフォースは人間にしかできないタスクを支援するものになる」(池田氏)

 ガートナーは2027年末までにCIOの25%は、拡張コネクテッドワークフォースのイニシアティブを利用して、重要な職務のコンピテンシー獲得に要する時間を50%短縮すると予測する。

マシンカスタマー

 マシンカスタマーは、人に変わってモノやサービスを自律的に交渉・購入する「人間以外の経済主体」(=マシン)を指す。

ガートナーでは2028年までに顧客として行動する可能性のあるコネクテッドプロダクトが150億個にのぼり、その後の数年間でさらに数十億個増加するとみており、「2030年までに数兆ドル規模の収益の源泉となり、最終的にはデジタル・コマースの到来以上に重要な影響をもたらす」と予測する。企業は、こうしたアルゴリズムやデバイスを促進する機会、あるいは新たな顧客ボットを生み出す機会を含めて、戦略的に検討する必要がある。「自社独自のマシンクライアントを作るチャンス」(池田氏)でもある。

 「マシンカスタマーはインテリジェントアプリケーションの発展系と言える。人間のエージェントとしてそれなりに働くようになる。例えばプラントなどの設備において、機器の保守業務において、コンピュータにある程度任せてしまえるようになるのではないか。今は保守の提案までを担っていたが、実際の部品調達や手配、スケジュールなどをマシンが自動で運用することが可能になる。システムが顧客になる。システムに対してサービスを拡張していく」(池田氏)

エブリデイAIとゲームチェンジングAI

 池田氏は2024年のテクノロジートップトレンドを総評して、「(生成AIブーム前に)AIに取り組んできた企業は多い。何年もDXを推進してきたがようやく『デジタルは本当にいけるんだ、できるんだ』という話に『腹落ち』感が出たのが2023年。人とコンピュータの新しい関係を検討しようと考え始められるようになってきた」

 人とマシンの新たな関係について、同イベントの基調講演ではGartnerフェローでディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリストのデーブ・アロン氏が「生成AIは単なるデクのロジーでもビジネストレンドでもなく、人間とマシンとの関係に重大な変化をもたらす」と語っていた通りだ。なお、ガートナーは今回、AIを、生産性向上を目的としており、陳腐化しやすく、フロントオフィスやバックオフィスで適用される「エブリデイAI」と、プロダクトやサービス、企業のコア機能に適用され、ビジネスモデルにインパクトがあるような創造性の高い「ゲームチェンジングAI」に分けて扱っており、それぞれの領域で生成AIの利用機会とリスク検証を進めることがAI Readyな組織への道筋だと示している。

 調査の詳細はリサーチノート「Top Strategic Technology Trends for 2024」で公開している。

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