3年後は「8割以上」の企業が生成AIを活用? ガートナーが2023年版「生成AIのハイプ・サイクル」を発表

ガートナーによると、2026年までに8割以上の企業が生成AIのAPIやモデルを使用して生成AIに対応したアプリケーションを本稼働環境に展開する見通しだ。生成AIについて特に注目すべき3つのイノベーションとは何か。

» 2023年10月20日 07時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 ガートナージャパン(以下、ガートナー)は2023年10月12日、「生成AIのハイプ・サイクル:2023年」を発表した。

10年以内にインパクトを及ぼす3大イノベーションとは

 ガートナーは「2026年までに、80%以上の企業が生成AIのAPIやモデルを使用して、生成AIに対応したアプリケーションを本稼働環境に展開するようになる」との見解を示した。これは、2023年の5%未満からの大幅な増加となる。

 ガートナーのアルン・チャンドラセカラン氏(ディスティングイッシュト バイス プレジデント)は、「今や、生成AIはCレベルの経営幹部の最優先課題になっている。ファウンデーション・モデルの範囲を超え、新たなツールに大きなイノベーションを巻き起こしている。医療やライフサイエンス、法律、金融サービス、公的機関など、多くの業界において生成AIへのニーズが増大している」と語る。

 今回の「生成AIのハイプ・サイクル」には、エンタプライズアプリケーションに組み込まれている主要なテクノロジーが掲載されている。10年以内に大きなインパクトを及ぼすと予測される3つのイノベーションとして「生成AI対応アプリケーション」「ファウンデーションモデル」「AI TRiSM」(AIのトラスト、リスク、セキュリティマネジメント)を挙げる。

2023年の生成AIのハイプ・サイクル(出典:ガートナージャパン発表リリース)

生成AI対応アプリケーション

 生成AI対応アプリケーションとは、ユーザー・エクスペリエンス(UX)とタスク拡張のために生成AIを使用し、ユーザーが目指す成果の達成を支援するものだ。アプリケーションの生成AI対応が進むにつれて従業員のスキルセットの幅は広がるとしている。

 チャンドラセカラン氏は、次のように解説する。「生成AIが組み込まれた機能は現在、『text to X』のパターンが最も一般的だ。これは、自然言語を使用するプロンプトエンジニアリングによって、従来は専門的であったタスクに従業員が対応できるようにする『アクセスの民主化』を実現するものだ。しかし、こうしたアプリケーションにはハルシネーション(Hallucination:もっともらしいが誤った回答を返すこと)や不正確さといった障壁が依然として存在し、インパクトや導入の拡大が抑制される可能性がある」

ファウンデーションモデル

 ファウンデーションモデルは今回のハイプ・サイクルでは「過度な期待」のピーク期に位置している。2027年までにファウンデーションモデルは自然言語処理(NLP)のユースケースの60%を支えるようになるとガートナーでは予測する。これは2021年の5%未満からの大幅な増加になるという。

 チャンドラセカラン氏によると、ファウンデーションモデルは「大規模な事前にトレーニングされたモデルであり、幅広いユースケースに適用可能であるという点で、AIにとって重要な前進といえる。従業員の生産性向上やカスタマーエクスペリエンス(CX)の自動化、強化、コスト効率に優れた方法で新プロダクトやサービスを創出することで、企業内のDX(デジタルトランスフォーメーション)を促進する」という。

 さらにチャンドラセカラン氏はテクノロジーリーダーへのアドバイスとして、「Hugging FaceのOpen LLM 『Leaderboard』など、パフォーマンスのリーダーボードの精度が高いモデルから始めるべきだ。加えて、優れたエコシステムのサポートがあり、企業が求めるセキュリティとプライバシーを適切に確保できる『ガードレール』が考慮されているモデルを採用すべきだ」と述べる。

AI TRiSM

 AI TRiSMは、AIモデルのガバナンスや信頼性(トラスト)、公平性、確実性、堅牢性、有効性、データ保護を確保するフレームワークだ。AI TRiSMにはモデルの解釈可能性や説明可能性、データとコンテンツの異常検知、AIデータ保護、モデル運用、攻撃に敵対的に抵抗するためのソリューション、テクニック、プロセスが含まれる。

 AI TRiSMは、責任あるAIを提供するための重要なフレームワークで、「2〜5年以内には採用の主流になる」とガートナーは予測する。「2026年までにAIの透明性や信頼性、セキュリティを継続的に実現する組織は採用やビジネス目標、ユーザーの受け入れに関して、AIモデルが導き出す結果の50%を改善できる」とガートナーは予測する。

 「首尾一貫したAIリスクマネジメントを行っていない組織は、プロジェクトの失敗や侵害といった弊害を被る傾向が格段に高まる。AIによるアウトカム(成果)が不正確、非倫理的または意図しないものであった場合やプロセスエラー、攻撃者からの妨害が生じる場合は、セキュリティ侵害や財務的、風評的な損失や法的責任の他、社会的損害を招く恐れがある」(チャンドラセカラン氏)

 今後の生成AIの展望について、国内の生成AI領域を担当するガートナーの亦賀忠明氏(ディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリスト)は、「これから生成AIは、さまざまなところに溶け込み、存在することが当たり前のものとなっていく。生成AIはインターネットと同様、またはそれ以上の進化をもたらし、企業のビジネススタイルや人々のライフスタイルを変えていくだろう。現在の生成AIはまだ初期の段階であり、2030年に向けて、AIエージェントや汎用(はんよう)人工知能(AGI)、超知性(スーパーインテリジェンス)に向けてさらなる進化が予想される。それは結果として、全ての産業や企業に革命的な変化をもたらす」と述べる。

 亦賀氏は企業が生成AIに対して取るべき姿勢として、「生成AIの出現を単に業務効率化の話として捉えるのではなく、むしろ産業革命の始まりと捉える必要がある。企業はAIとの共生時代、ニューワールド、産業革命の時代に対応するために抜本的に企業や業務の在り方、人々の役割と能力の見直しを図る必要がある」と呼びかける。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ