生成AI活用の「2つの鍵」 今後1〜2年で企業が「最優先すべきこと」をガートナーが提言

AIを活用するビジネスを成功させるために企業は何をすべきか。ガートナーが「今後1〜2年の間に最優先課題として取り組むべきこと」を提言した。

» 2023年11月16日 07時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 ガートナージャパン(以下、ガートナー)は2023年11月13日、「AI(人工知能)、特に生成AIの台頭が人間とマシンの関係を大きく変化させている」という見解を発表した。AIが単なる「ITツールの中で率先して取り入れるべきもの」から、「全社を挙げて優先的に進めるべき課題」に認識が変わるにつれて、CIO(最高情報責任者)をはじめとするITエグゼクティブにとって2つの重要領域が明らかになりつつあるという。

AI活用に向けて最優先で取り組むべき「2つの重要領域」

 Gartnerのデーブ・アロン氏(ディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリスト兼Gartnerフェロー)は、「生成AIは、単なるテクノロジーやビジネストレンドではなく、人間とマシンとの関係に重大な変化をもたらすものだ。その台頭に伴って、マシンは『人間の代わりに何かをするもの』から『人間と共に何かをするもの』に変わりつつある。人間にとってのツールから“チームメイト”へと進化しつつある。2030年までに、人間の80%はスマートロボットと日常的に関わるようになるとGartnerは予測している」という。

 同氏は、AIを活用する時代におけるCIOの役割について次のように定義する。

 「CIOは、人がAIをどのように形成し、AIが人をどのように形成するかについて、大事な役割を担っている。Gartnerの調査によると、世界のCEOの51%が、CIOなどのテクノロジーリーダーが生成AIへの取り組みを主導することを期待している」

 今後1〜2年にCIOがAIの取り組みを主導するためには、「AIの活用機会を特定すること」と「AI-Readyになること」の2つの最優先課題に注力すべきだという。

AIの活用機会を特定する

 1つ目の「AIの活用機会を特定する」について、ガートナーの片山博之氏(バイスプレジデントアナリスト)は「現在、AIの課題の一つになっているのが、変化が非常に早く、極めて複雑であることだ」と指摘する。

 同氏によると、AIには主に次の2つの種類がある。

  • Everyday AI(エブリデイAI): 「生産性」に焦点を置き、マシンは生産性の向上をサポートするパートナーとなる。従業員が既に実施していることを、より速く、より効率的に実行する。現在、世界のCIO、テクノロジーリーダーの77%が、このAIの活用機会に注目している(日本の割合は82%)。「エブリデイAIは素晴らしいものからあっという間に平凡なものへと変化するため、持続可能な競争優位性は得られない。しかし、エブリデイAIを活用しなければ、ビジネスは維持できない」(片山氏)
  • Game-changing AI(ゲームチェンジングAI): 主に「創造性」に焦点を置いている。「ゲームチェンジングAIは、単に作業を高速にし、改善するAIではない。新たな成果やプロダクトとサービス、ビジネスモデル、そして新しい産業までをも作り出す。ゲームチェンジングAIによって、マシンはビジネスモデルや業界全体にディスラプション(破壊的イノベーション)をもたらすだろう」(片山氏)

 エブリデイAIとゲームチェンジングAIの活用機会は、「バックオフィス」「フロントオフィス」「新しいコア機能」「プロダクトとサービス」の4つの領域にある。CIOは、経営幹部のAIガイドとして、これらの領域で生成AIを使用する機会とリスクを検証することによって、CEOや他のCレベル幹部がAIの複雑さを克服し、AIに関する目標を設定し、企業におけるAIの活用機会を特定できるよう支援すべきだという。

AI Opportunity Rader(AI活用機会レーダー)(出典:ガートナーのプレスリリース)

 片山氏は「AIは単なるITイニシアチブではなく、全社的イニシアチブとなる。AIの使い方を考えるときは、人間とマシンの関係から始めることが重要だ。成功に導くには、経営幹部全員の関与が必要だ。まずは、組織としてどこでAIを活用したいか、あるいは活用したくないかから議論を始めるべきだ」と提言する。

「AI-Ready」になるには?

 重要領域の2つ目となる「AI-Readyになる」についてアロン氏は次のように説明する。「AIが人間とマシンの関係を変革し続ける中で、CIOは変化の本質を積極的に形あるものにしなければならない。人間とマシンがやりとりするこの新たな時代には、多くの予期せぬ結果が待ち受けている」

 アロン氏は、テクノロジーに関する意思決定は、もはやテクノロジーだけの問題ではないと説明する。「経済、社会、倫理に及ぶ意思決定となっている。CIOをはじめとするITリーダーは、組織内でAIに関する意思決定をかじ取りする上で、『灯台となる原則』、換言すれば、道を照らし、どのような人間とマシンの関係を許容するか、許容しないかを示すAIのビジョンが必要だ」(アロン氏)

 ただし、Gartnerの調査によると、灯台となる原則やAIの明確なビジョンを持つ企業はほぼ存在しない。同社が2023年6月に606人のCIOやテクノロジーリーダーを対象に実施した調査によると、「AIビジョンステートメント」を策定している企業はわずか9%だった(日本の割合は7%)。また、世界のCIOやテクノロジーリーダーの36%は、「AIビジョンステートメントを策定する予定はない」と回答している。

 こうした状況から、ガートナーは、今後1年以内に生成AIの迅速かつ安全な導入を促進するために次の3項目に取り組む必要があると指摘する。

  1. AI-Readyの原則を策定する: 灯台となる原則は、企業の価値観と一致している必要がある。企業の価値観は、人間とマシンがどのように関わり合うかという未知の問題をかじ取りするための指針でなければならない
  2. データをAI-Readyにする: データをAI-Readyにするには、5つの基準を満たさなければならない。つまり灯台となる原則によって、データは「安全である」「強化されている」「公平である」「正確である」「統制されている」の5つの基準を満たす必要がある。データがAI-Readyでなければ、組織はAI-Readyではない
  3. AI-Readyのセキュリティを実装する: AIがプラスの目的で使われると同時に、別の誰かがAIを悪用しているという影の側面がある。そのためCIOは、新たな攻撃経路に備える必要がある。経営幹部チームと連携して、公開されている生成AIソリューションについて、許容される使用方法に関するポリシーを策定する必要がある

 アロン氏は、次のようにコメントした。「AI活用型ビジネスの時代に事前の計画策定を怠れば、意図せぬ結果が生じることになる。CIOには、あらゆるものが目新しく不透明に見えるときでも、前途を照らす手段が必要だ。CIOがこのディスラプションを安全に活用するためには、CEOや他のCレベル幹部と連携して、エブリデイAIやゲームチェンジングAIを利用する目的を明確にし、AI-Readyになるための原則やデータ、セキュリティを確立しなければならない」

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