米飲料メーカーのERP導入 上手な製品選定に必要な考え方とは(1/2 ページ)

米飲料メーカーのTalking Rainは既存システムの限界を感じ、ERPの導入を決めた。プロジェクトを導いたホーナー氏は、製品選定において重要なことは慎重かつ綿密な計画だと話す。

» 2023年12月15日 08時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 ERPの導入は骨の折れるプロジェクトだ。ERPの選考と導入には手間と費用が伴うが、その負担を少しでも軽くするには準備が不可欠であることを飲料メーカーの米Talking Rainは学んだ。

 米ワシントン州プレストンに本社を構え、創業35年を迎えるTalking Rainは、自社のクラウドEPRとして「Microsoft Dynamics 365」(以下、Dynamics 365)を選んだ。既存の雑多なエンタープライズ向けアプリケーションをリプレースし、分析やAI(人工知能)ベースの業務プロセスといった将来的なビジネス上のニーズを満たせるシステムを構築するためだ。

 フレーバー炭酸水などの飲料を製造する中堅飲料メーカーであるTalking Rainは、北米を中心に自社製品を提供している。同社はかつて、「Microsoft Azure」で稼働する「Microsoft Dynamics 365 Business Central(以下Business Central)」を急場しのぎのERPシステムとして使っていた。

 ところが、同社のテクノロジー担当バイスプレジデントを務めるデイヴ・ホーナー氏によると、当時のシステムではTalking Rainの成長や目標に対応できなくなったという。

 同社はBusiness Centralを高度にカスタマイズしていた。そのため、Microsoftが提供する最新機能を適用するのが難しかったとホーナー氏は語る。同社は同システムに「Anaplan」のような高度なプランニングツールやTPM(トレードプロモーション管理)ツールといった外部アプリケーションを追加して補強していた。その結果、同社は次第に純粋なパブリッククラウド型ERPシステムへの移行を望むようになった。

 「当社はBusiness Centralを使っていたが、単なる記録システムになっていた。ほとんどの仕事をシステム外でやっていた」とホーナー氏は言う。「テクノロジーの観点から物事の見方を変える必要があると認識したため、数年前には新しいERPシステムの可能性を探ることになった」(同)

 しかしTalking Rainには当時、ERPの導入を経験した従業員がほとんどいなかった。ホーナー氏はERP導入プロジェクトの監督のために同社に入社した人物。過去に他社のERPプロジェクトに携わってきたベテランであるホーナー氏は、この導入プロジェクトを単なる技術的なプログラムではなく、ビジネス変革として実施する必要性を感じていた。

ERPの選考に何より重要なのは計画

 ERPの選考と導入を最初から実施する場合、その柱になるのは慎重かつ綿密な計画だとホーナー氏は言う。Talking Rainのケースでは、選考が始まったのが2022年9月、終わったのが2023年4月だった。

 選考を始める前に、ホーナー氏率いる選考チームは同社の事業プロセスを洗い出し、プロセスマイニングツール「BusinessOptix」に情報を取り込んだ。

 「新たなERPの候補を絞り始める前に、我々はこのツールを使って、Talking Rainのビジネスプロセスのどこにボトルネックがあるのか、どこにチャンスがあるのかを特定した」と、ホーナー氏は話す。このアプローチを取ることにより、選考チームは、ERPベンダー候補のために標準化された提案依頼書(RFP)を作成せずに済んだ。そして代わりに、テクノロジーの観点から見たTalking Rainの状況を記したマップをベンダー候補に提供し、対処が必要なビジネス上の問題を明確にした。

 ホーナー氏によると「導入するERPの候補を絞り込む前に、当社はBusinessOptixと使って、事業プロセスのどこにボトルネックがあるのか、どこにチャンスがあるのかを特定した」という。このアプローチにより選考チームは候補となるERPベンダーのために標準化した提案依頼書を作らずに済んだ。その代わりに、技術的観点から見たTalking Rainの現状を記したマップを提供することで、対処するべきビジネス上の問題を明確化した。

 そのおかげで、同社はERPベンダーが提供する機能の数ではなく、洗い出した問題を最も適切に解決できるかどうかを基準にERP選考を進められた。選考においてはERPベンダーだけでなくパートナーとしてSIerも参加させた。これはベンダーを選んだあとにSIerを手配するという慣習に反することだった。

 「クラウドテクノロジーの登場でさまざまなことが大きく変わった。クラウドシステムと導入パートナーが与えてくれる価値はどんどん大きくなっている。今回のような問題解決のアプローチを選んだことで、ベンダー側はプリセールスチームを送り込んで特定の製品を送り込むようなマーケティングを行うのではなく、ソリューションデリバリーチームを送り込まざるを得なくなった」(ホーナー氏)

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