「エンタープライズAIはいますでに使える物ができている」NEC森田社長 2024年には商用LLM提供へ

NECの社長兼CEOの森田隆之氏は2024年にも独自のAIサービスをリリースすることを公表した。既に15社がユースケース創出に取り組んでいるという。

» 2023年12月15日 08時00分 公開
[荒 民雄ITmedia]

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 NECは2023年12月12日、同社「IR Day」開催に合わせて中期経営計画の進捗(しんちょく)を発表したことを受け、メディア向けに社長兼CEOの森田隆之氏へのグループインタビューを実施した。本稿はその中でもITサービス事業を中心に、特に生成AI(人工知能)への取り組みと同社自身のレガシーマイグレーションやデータドリブン経営への改革を含む「コアDX」領域を見ていく。

NEC 社長兼CEOの森田隆之氏

 同社は現在、2021年からスタートした中期経営計画「2025中期経営計画」の折り返し地点にある。森田氏は「2023年のNECを一言で表すと何の年だったか」との問いに「変革の年」と表現。「組織改編によってITサービスと社会インフラにセグメントを統合し、それぞれのビジネスの『勝ち方』を整理できた」と全体を振り返った。

ITサービス事業は機能別、顧客別の組織から「ITサービス」「社会インフラ」に統合(出典:NECのIR資料)

 その上で、2022年と比較して飛躍したのは「DXの領域」だとして「日本発の生成AIの提供を開始し、社内DXについても基幹システムの刷新を行い、5月に稼働を開始してデータドリブン型の経営を進めた。社会のDXについてもスマートシティーやインフラ協調型モビリティに関するコンソーシアムの推進といった具合に、具体的な行動を目に見える形で出せたのは(2023年の)成果だ」と語った。2025年までの中期経営計画の中間地点といえる2023年は過去2年で積み上げてきた改革の下地を基に、いよいよ具体的な変革を進める段階にあるようだ。

 ITサービス事業に関してはアビームコンサルティングを傘下に加えたことに加え、NECの既存ITサービス部門も上流のコンサルティングを重視する体制を取りつつある。「私は今年(2023年)からアビームコンサルティングの会長も務めている。こうしたことを自然に実現できるようになった。お客さまにも理解いただけていると思う。来年からは両社協働の形を具体的に見せていきたい。幾つかの顧客で上流から会社のトランスフォーメーションを支援するプロジェクトが動いている。来年はこれらの取り組みを紹介できればと考えている」(森田氏)

コアDXの中核を担う「NEC Digital Platform」(NDP)の概念図。戦略策定支援やコンサルティングを介して「NEC Digital Platform」(NDP)を軸に複合的な提案を進める総合的な顧客支援を進める(出典:NECのIR資料)

 「次のフェーズは強い領域を含め、日本のプレゼンスとともにグローバルでの位置付けを明確にする。その中間地点として、順調にきていると感じる。事業によって温度感は違う。当然、事業環境の変化はあり、相応のスピードで対応できているかといえば満点とはいえないけれどもギリギリで及第点と言える」(森田氏)

「いますでに企業が使える生成AI」で強みを打ち出し、2024年に商用リリース

 生成AI開発については「競合が多い領域だが今後は何を強みとしていく計画か」との質問に、「いま実際にもう企業が使っている、いますでにできているものを見せられる点が私たちの強み」と回答。現在、同社が独自に開発を進めている日本語LLMは、現在、主要な業種ごとに1社ずつ、代表的な企業15社が参加して評価、ユースケース検討を進めていることを示した。

 「間もなく各業種で業務適用モデルを更改する予定だ。加えてFoundation Modelを強化し、用途別、かつせキュリティソリューションを組み込んだものを2024年内に商用リリースする」(森田氏)

生成AI競争の中での立ち位置、競走の軸はアプリケーション層にある

 生成AIについては国内外の企業が開発を急ぐ状況で競争が激しい領域だ。この点についてはどう勝機を見ているのだろうか。

 まず主要な競合が日本語や日本語文化の文脈に特化しておらず、各業種向けの最適化が十分に進んでいない点をカバーするところが大きな差別化ポイントとなる。

 「欧米における生成AIはGAFAMを中心にパブリックなものが中心となるだろう。パブリックな生成AIはエンタープライズ利用においては、言語面やデータの持ち方、セキュリティ面で課題がある。これらを考えると日本語を中心に学習させられるAIモデルは日本企業にとって重要になる。経済安全保障の面でも重要だ。その意味では、業種別、企業別、組織別に最適化されたものについてのニーズは可能性がある」(森田氏)

 これについてはFoundation Modelを前提に、複数の生成AIエンジンを使い分ける中でNECの生成AIが生かせる点を強調した。生成AIについては多くの企業がユースケースを模索する過程にあり、企業向けの最適化に強いAIという立ち位置をいち早く確立することを目指しているようだ。

 「生成AIビジネスを展開する場合、例えばMicrosoftは『Microsoft Azure』のコンサンプションモデルでビジネスを組み立てるだろう。具体的なシステム構築などの領域は別でビジネスを検討できる。最終的にはアプリケーション層に大きな商機があると考えている。そうなった時にはそれぞれの事業会社が生成AIをビルトインしていくことになるだろう。競争の軸はそちらの領域になると見ている」(森田氏)

 生成AIの競争の軸をアプリケーション層に見た場合、いかに早く各業界で具体的な成果を示せるかが重要だ。この点について、森田氏は共創だけではない単独での「強さ」も求めていく考えだ。

 「ユースケースと実用モデルをどう業界リーダーと構築していくかが(生成AIビジネスの)カギとなる。国内LLM(大規模言語モデル)開発企業との連携については、経営資源や計算資源の共有などで共創や協調、ユースケース共有などが考えられる。しかし、(われわれがまず生成AI領域において)強くなった上で協力する、という形が望ましいと考える」(森田氏)

 また、企業における生成AI開発、利用については欧州のAI規制法案に見られるように、安全性をどう保証するかが課題となる。安全性の取り組みについては「第三者機関の評価を受けたものを顧客に提供する枠組みの構築を考えている」とした。

LLM開発は技術開発重視の投資が奏功した

 2023年5月に独自生成AI開発を発表してからわずか数カ月で具体的な成果を見せるスピード感はなぜ実現したのだろうか。これには森田氏が「NECは技術の会社。そのための投資を惜しむ考えはない」と語るように、成長の源泉としてのR&Dに対する思いが奏功した形だったようだ。

 「2021年初めに研究所が中心となってHPC用として(生成AIモデル開発にも転用できる)GPUとしてNVIDIA A100を900台ほど導入していた。これが生成AI開発の一早い開発につながった。この投資は私が即決した」(森田氏)

 森田氏は今後も研究開発に投資を進めるとして「研究開発への投資を予算の5%程度に引き上げられればと考えている」と語った。

 同社は重要視している従業員エンゲージメント改革に関連して、エンジニア獲得意欲も旺盛だ。森田氏は「来年はいよいよ全面的にジョブ型雇用に切り替え、仕事の市場価格に合わせた処遇ができる仕組みを実現する。総人件費については社会の期待する回答を示せるだろうが、それをどう分配するかはしっかり見ていく。プロンプトエンジニアやセキュリティエンジニアの獲得にも注力していきたい」と説明している。

社内DXをショーケースに企業、社会のDXを支援

 同社が成長領域と位置付ける「コアDX」は、は同社自身の社内DXやコーポレートトランスフォーメーションを社内実践とし、その成果を顧客企業や社会に還元する取り組みを指す。グローバルでのビジネスプロセス変革による業務オペレーションの改善に加え、データプラットフォームを活用したデータドリブン経営の基盤の構築も進めており、2023年5月には基幹システムの刷新も終えている。

 「社内のDXと顧客のDXが良いサイクルで回り出していると感じる。自らを『クライアントゼロ』と呼び、改革を進めている。基幹システム刷新ではプロセスマイニングの手法で業務プロセスの効率化も進めた。現場はまだまだ苦労しているようだが業務プロセス改革に必要な苦労。マネジメント面ではデータ駆動型の経営が見えてきた」(森田氏)

社内DXの推進とデータドリブン経営推進に向けた改革(出典:NECのIR資料)

 コアDXは自社をショーケースとして自社実践で得られたベストプラクティスを顧客に展開する狙いがある。森田氏は現在のコアDXの取り組みを「自信を持って顧客に提供できる」「コストパフォーマンスを含め、優位な状況を作れる」を自信を伺わせた。さらにコアDXの推進と合わせて、マネージドサービスを含むセキュリティ分野にも注力する。

 「われわれのノウハウとシステム可視化を含め、マネージドサービスを自社内で実践することでユースケースとして見ていただけるように運用できていると考える。サイバーセキュリティを含め、宇宙広帯域光通信や量子暗号の領域でも当社は強みを持っている。これらの領域は民需においても今後、大きな市場になるだろう」(森田氏)

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