なぜSAPはCX領域でセールスフォースに追い付けないのか?

SAPはCXにスポットを当て、生成AI「Joule」に新機能を追加した。一方、セールスフォースに流れる顧客も増えているようだ。SAPが持つ課題と強みとは。

» 2023年12月19日 08時00分 公開
[Mary ReinesTechTarget]

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 SAPは2023年10月25日(現知時間)、オンラインカンファレンス「SAP CX Live」を開催した。同イベントでは、同社の生成AI(人工知能)である「Joule」の最新ツールが発表された。

 発表された新機能には、AIでエンドユーザーを正確に認証するリスクベースのAI認証機能や、SAPの「Customer Data Platform」(CDP)のリアルタイムデータを使ってJouleがカスタマープロファイルなどを作成するといったものがある。その他、サービスワーカーの日常業務を自動化するために、顧客の問い合わせを要約して回答を提案することも可能になるようだ。

SAPが取り組むCX市場への進出 Salesforceにどう追い付くか?

 Enterprise Applications Consultingのジョシュア・グリーンバウム氏(プリンシパル兼アナリスト)によれば、CX市場の中でSAPは顧客関係管理(CRM)で先頭を走るSalesforceに後れを取っているという。

 「ここ数年、SAPはCXとCRMの進歩についていけていない。それにより、SAPの顧客の多くがSalesforceなどの他社のシステムに乗り換えている」(グリーンバウム氏)

 両社の根本的な違いの一つに、Salesforceの「クラウドファースト型アプローチ」がある。Salesforceは1999年の創業以来、SaaSモデルを採用するクラウドネイティブ企業として、CRMソフトウェアを提供し続けてきた。このアプローチによって、迅速なアップデートや拡張性、実装の容易さを実現している。CXソフトウェアには柔軟性が欠かせないことを考えると、このどれもが大きな意味を持つ。

 「Salesforceの強力なクラウドベースのアプローチが、CX市場における同社の優位性の確立に貢献している」(グリーンバウム氏)

 対照的に、SAPのクラウドへの移行は思うような速さで進んでいない。SAPによるCallidusCloudとGigyaの買収は(どちらもクラウドベースCX企業)、CX/CRM市場におけるSAPの可能性の拡大を目的にしていた。しかし、この買収はSAPのCX製品スイートにクラウドCX機能をもたらしたものの、Salesforceのような遍在性は得られなかった。

 SAPのリトゥ・バーガヴァ氏(CX/CRM担当 プレジデント 最高製品責任者)は「われわれは、ビジネスユーザーに“真のインサイト”を提供し、よりパーソナライズされたCXを促進する。また、収益性の高いビジネス成果を創出するユニークな製品で、サイロを取り払いギャップを埋め、顧客により多くの価値を提供する」と述べている。

土台にあるのはERPという遺産

 SAPにも強みはある。それは、Salesforceが主戦場にしていないERP関連の機能だ。SAPの製品は、製品サプライチェーンやメーカーが顧客や店舗に送った商品に関して、エンドツーエンド経路の複雑な物流的側面を追跡、管理できる。一方、CX/CRMベンダーがフォーカスするのは販売やサービス、マーケティングという対顧客的側面であって、流通の複雑さではない。

 こうしたプロセスを追跡することによって、SAPはサプライチェーン管理などのビジネスプロセスに関する企業独自のデータやインサイトに触れられる。グリーンバウム氏は「SAPは、幅広いソースからデータを集められる。これこそがSAPにしかできないことだ」と説明する。

AIツールの導入だけでは不十分

 しかし、グリーンバウム氏は「SAPの最新AIツールはどれも、新規の顧客を呼び込んだりライバルを追い抜いたりといった効果は見込めないだろう」と指摘する。

 「CXベンダーの大半は革新的なAI製品を提供しているわけではなく、製品に段階的な改良を加えているにすぎない。SAPが新機能追加してこの流れが大きく変わるようなことはない」(グリーンバウム氏)

 SAPがCX領域で他社との競争力を保つには、自社の強みを強化する必要がある。

 SAPのバーガヴァ氏によると、生成AI技術は既にSAPのCXアプリケーション(営業、サービス、コマース、マーケティングチーム全体)およびERP全体で機能している。

 「SAPの業界への深い専門知識や、過去10年にわたるアプリケーションへのAI組み込みの実績、豊富なデータが、SAPを際立たせている」(バーガヴァ氏)

 しかし、グリーンバウム氏は「どうすればSAPは競争力を獲得できるのか? 大局的な視点から見て、これらのAI機能がそれをもたらすことはない」と語る。

 「競争力をもたらすのは、例えばこうしたエンドツーエンドプロセスを提供し、それをコスト効率の良い合理的なプロセスにするといったライバルがまねのできないことだ」(グリーンバウム氏)

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