専門家が予言するERPのトレンド、2024年の3本柱とは(2/2 ページ)

» 2024年02月28日 16時43分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]
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「有用な生成AI」が徐々に登場

 AIがERPシステムの一部に組み込まれるのは驚くべきことではない。かなり以前から、大半のERPはAIを利用してきたからだ。とはいえ、2023年にはERPも生成AIの爆発的普及の流れに加わり、ほぼ全てのベンダーから機能が発表された。その多くは、SAPの「Joule」のように、大規模言語モデルを基盤としてデータからテキストや画像、動画を生成してタスクの実行を支援するチャットbotだ。

 製品に関するニュースは今後の動きを先取りしたものになる傾向があるため、ERPにおける生成AIの利用事例はまだそれほど多くない。それでも、生成AIのトレンドは2024年も続き、ERP向けの機能が今後もベンダーから発表されると予測される。

 業界を一変させてしまうような生成AIの登場までにはまだ数年かかるとみられるが、生成AIチャットbotは生産性向上ツールとして有用性を発揮するようになるというのがグールド氏の見方だ。

 「社内にあるデータのクエリ支援をメインとするものが多くなるだろう。こうしたコパイロット(副操縦士)役を引き受けるツールによって、自社データに関するクエリが可能になり、ひいては、レポートの生成と取得の迅速化が図られる」

 一方、Gartnerのリサーチディレクター、グレッグ・ライター氏は、生成AIは現状では実力以上にもてはやされており、ERPにおける実際の利用事例が現れるのはまだ先のことだと見ている。

 短期的にはアプライドAI(応用AI)と生成AIを組み合わせた生産性向上を促すツールが登場する可能性が高いが、2024年内にERPでの利用事例が多少は出てくるだろうと、ライター氏は言う。

 「生成AIが得意としているのは、ERPシステムの記録システム(SoR)プロセスには含まれない、顧客対応やCRMをはじめとする部分だ」とライター氏は指摘する。「人事アプリケーションなどの分野には興味深い利用事例があるものの、圧倒的な実力を発揮しているとは言いがたい」(同氏)

 解決が必要な問題点の一例として、ライター氏は顧客が負担する生成AI機能のコストを挙げた。2023年夏、SAPがAI機能に最大30%の追加料金を課す可能性を表明したのに対し、WorkdayやOracleなどの他のベンダーは、追加料金を課さないとした。

 ライター氏は、どのベンダーも今後何らかの形で生成AI機能をマネタイズする方法を見出すだろうとしており、その料金はユーザーが属するティア、ならびにこの技術から得られる価値に応じて決まるとの見方を示した。また、提供可能な内容については、大手ERPベンダーにアドバンテージが生じる可能性があるという。

 「ベンダーが今後どうやって実現にこぎつけるかは定かではない。高価な技術で、実行に必要な演算能力を確保するにはコストがかかるため、最大手のベンダーであれば実現可能だろう。しかし、ティア2のベンダーが生成AI企業と提携し、提供できるかどうかはまだ分からない」(ライター氏)

 Enterprise Applications Consultingのプリンシパルのジョシュア・グリーンバウム氏は、請求書の照合や書式管理といったプロセス自動化などを例に挙げ、AIはすでに重要なタスクを担っていると指摘する。

 「人間が担ってきた作業から機械でも実行可能な部分を切り出すのはよいことだ。しばらく前からAIがこの作業を担っている領域、特に機械学習を使っている分野では、ROI(投資対効果)を上昇させる切り札になっている」とグリーンバウム氏は語る。

 「AIに関して話題にすべきはこの点だ。なぜなら、これが現実世界の話であり、将来の言語モデルではないからだ。残念ながら、何らかの価値を引き出すためには質の悪いデータを一掃しなければならず、それなくしては質の悪いデータに依存することになる」(グリーンバウム氏)

機能の充実を図るERP

 ERPは今後さらに拡大し、これまでスタンドアロンアプリケーションが有していた機能を取り込んでいくと専門家は見ている。その際、新たな機能はERPの中核システムではなく、その外側に統合されていくという。

 Technology Evaluation Centersでプリンシパルインダストリーアナリストを務めるプレドラグ・ヤコヴリエヴィッチ氏は、ERPベンダーが新たな機能を取得あるいは開発し、ERPに加えている事例を指摘する。こうした機能としては、仕様や価格、見積金額の決定(CPQ)、FSM、eコマース、電子データ交換(EDI)、勤怠管理などがある。

 またヤコヴリエヴィッチ氏によると、ERPベンダーはここ数年、現場労働者の生産性と効率を向上させるために従業員を支援するコネクテッドアプリケーションの機能を強化している。例えば、IFSはPokaとFalkonryを、QADはRedzoneを、EpicorはEFlexを買収している。また、Microsoftは現在「HoloLens」を使って技術者をアシストする「Dynamics 365 Remote Assist」と「Dynamics 365 Guides」を提供している。

 「新たに登場しているコンセプトでは、ERPが記録システムとして機能する一方で、コネクテッドソリューションが行動システムとして機能することが提案されている。今後は従業員支援のコネクテッドソリューションや品質管理システム、製造実行システムのあいだの連携が予想される」(ヤコヴリエヴィッチ)

 また、Nucleus Researchのグールド氏は、IFSやInfor、Microsoft、Oracle、SAPといった大手ERPベンダーは、顧客に提供する機能統合のオプションを充実させることで「継続性を高める」方向にシステムを拡張することを考えていると解説する。

 「ERPベンダーはこれまで、CRMや人的資本管理といった隣接するアプリケーションをERPに追加すべく取り組んできたが、今はこうしたソリューションに関してIT部門が必要とするものに目を向けている」とグールド氏は語る。

 「(2024年には)多くのERPベンダーが、独自の統合および自動化プラットフォームを携えてこの分野で競い合うことになるだろう。そのベースにあるのは、ERPに多くのデータを統合できる方が、『Amazon S3』などにデータを格納するよりも望ましいという考え方だ」(グールド氏)

 グリーンバウム氏は「2024年のERPはイノベーションの必要性と標準化されたクリーンコアを実現するための要件のあいだで綱引きが生じ、既存のカスタマイゼーションはモダン化か削除か、いずれかの道をたどる」と語る。

 「クリーンコアがあれば、企業はeコマースやサプライチェーン、顧客体験、従業員体験といった、従来型のERPが直接的にカバーする範囲の外にあったプロセスについてもイノベーションを開始できる」とグリーンバウム氏は指摘する。しかし、エッジイノベーションに着手するなら、その前にまずはクリーンでモダンなコアを手にいれる必要がある。

 「問題は、イノベーションを今すぐ必要とする顧客が多いことだ。こうした顧客は待つことができない。顧客企業は事業の基本的な部分で差別化を図る必要がある。そのため、半ば相反する2つの要件を両立させながら、エッジイノベーションとERPイノベーションとのあいだの適正なバランスをとろうとしている。それは現時点である程度の成果を出すとともに、未来に向けた基盤を築くためだ」(グリーンバウム氏)

 「もっとも、2024年のERPビジネスの世界で取り沙汰されるテーマには、コストと支出、データ、人員、ビジネスプロセス、リスク管理に関わるものなど、聞き慣れたものもあるはずだ。こうした問題は業種や規模を問わずどのような企業にも共通するものであり、2024年もERP戦略に影響を与え続ける」とグリーンバウム氏は語る。

 「こうした問題も消えることはない。2023年の始まりには、これらの問題が俎上(そじょう)に載せられていた(中略)。2024年も同じようなスタートになるだろう。そして2024年が終わりを迎えるときも、世界中のエンタープライズ顧客はこの5つの問題で頭がいっぱいのはずだ」(グリーンバウム氏)

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