その業務、ホントにAIに置き換える価値ある? MITの研究者が調査を発表CIO Dive

AIの普及によって「人間の業務が奪われる」という言説をしばしば聞くようになったが、果たしてそれは本当だろうか。MITの研究者がAIへの投資対効果に関わる興味深い調査を発表した。

» 2024年03月11日 07時00分 公開
[Roberto TorresCIO Dive]

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 マサチューセッツ工科大学(以下、MIT)の研究者が、目視検査を必要とする作業の自動化を望む企業が、短期的に費用対効果を実現することは難しいことを明らかにした(注1)。

安易な自動化推進はリスク AIに投資した方がいい企業、やめた方がいい企業

 2024年1月第4週に発表されたこの研究は、MITコンピュータ科学・人工知能研究所やMITスローン、生産性研究所、IBMのビジネスバリュー研究所によって実施された。

 この研究では、品質検査や医療画像のスキャンなど、人間がコンピュータビジョンを通じて実行できる作業について検討した。研究者によると、システム導入のコストを考慮した場合、米国企業の大半はAI(人工知能)に代替可能な視覚ベースのタスクの大半を自動化しない選択をするという。

 しかし導入コストが急速に低下するか、AIベースのプラットフォームがスケールメリットを発揮できるようになれば、AIの普及が促進されると研究者は予測している。

 企業はコスト削減と生産性向上を期待してAIに殺到している。ただし、経営陣は大規模な導入を実施する前にAIにどれだけのコストがかかり、その見返りに何が得られるのかを知りたいと考えているようだ。

 研究者は一例として、目視による食材の検査をコンピュータビジョンシステムに置き換えたいと考えているベーカリーの例を挙げた。このようなシステムの構築と維持にかかるコストは、人間の作業員がその作業を続けるよりもはるかに高額になるだろう。

 「この例から得られる結論、すなわち特に規模の大きくない企業にとっては人間の労働者の方が経済的に魅力的であるという認識は、広く浸透していることが判明した」と研究者は話す。AIシステムの初期費用が大きいため、AIコンピュータビジョンで代替できる労働者の報酬のうち、費用対効果が高い自動化は23%にすぎないことが分かった。

 コストの問題に加えて、データの利用可能性がコンピュータビジョンによる代替の実行可能性をさらに妨げるかもしれない。

 別の例では、研究者は返品プロセスの自動化を望んでいる工業部品メーカーを調査するケーススタディーを実施した。その会社では、顧客が壊れた部品の写真を送付するため、適切な交換部品を特定できるコンピュータビジョンシステムを求めていた。

 しかし同社の部品は独自のものであり、基礎となるモデルに各製品を正しく識別するのに十分な部品データがあるとは考え難い。

 コンピュータビジョンの導入で成功を収めた企業もあるが、適用できるかどうかはシステムが拡張性を持っているかどうかに左右されることが多いのだ。

 住宅関連の商品を扱うThe Home Depotは、コンピュータビジョンを使って棚上の在庫切れ商品を検知し、従業員に警告を発して補充を優先させる「Sidekick」プラットフォームを活用した(注2)。このプラットフォームはクラウドベースのML(機械学習)アルゴリズムを使用し、最も時間的に優先度の高いタスクを決定する。

 Boston Consulting Groupの調査によると、経営幹部の半数以上がAI導入による運営コストの削減を期待して2024年を迎えた(注3)。ビジネスリーダーはまた、この利益を享受するためにテクノロジーへの投資を増やしている。

 削減効果がどこで実現するのか、AIの導入が労働需要にどのような影響を与えるのかについては疑問が残る。The Goldman Sachs Groupは、AIによって世界の職種の3分の2近くが少なくとも部分的に自動化される可能性があると見積もっている。

 企業はまた、顧客にサービスを提供するためにAIを使用する必要があることを想定し、既存の労働力を整えている(注4)。

 SAPは2024年1月25日(現地時間)、AIをより重視した新たなビジネス戦略に対応するため、約8000のポジションを再構築すると発表した(注5)。同社は、影響を受ける従業員の大半はリストラを受けるか、組織内で再教育訓練を受けることになると考えている。

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