会計業務に生成AIを活用することでさまざまな作業を効率化できる。これによって中小の会計事務所が大手に匹敵するサービスを提供できるようになるという声もあるが、それにはリスクも伴う。
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中小会計事務所は、生成AIで効率性を高めたりデータ分析を強化したりして人員不足の負担を軽減することで、大手事務所と競えるようになるという。
しかし、「会計や監査に生成AIを使用することにはリスクが伴う」と話す会計士やビジネスコンサルタントもいる。会計事務所における生成AI活用の現在地を届ける。
米国公認会計士協会(AICPA)は「CPA.com」と共著の報告書で「AIはインターネットやスマートフォンと同程度に画期的なものだが、普及スピードははるかに速く使い勝手も抜群だ。この技術によって、より優れた新しいビジネスモデルを構築でき、コストに見合った価値を得られるようになる」と述べた(注1)。
財務責任者は、コンテンツの統合や決算報告、質疑応答の要約や売上高の予測といった9種類のタスクにAIを活用するのが最適だと考えており、「特に売上高が1000億ドル以上の事務所ではその傾向が強い」とAICPAはみている。
AICPAによると、生成AIの急速な普及を鑑みて、会計事務所や企業の財務チームは生成AIを受け入れ、試すべきだという。
大手会計事務所The Bonadio Groupのパートナーであるジェニファー・ウッド氏は2024年5月7日(現地時間)、質問に対して電子メールで「生成AIによってこれまでは人的資源や技術に多大な投資が必要だったツールを中小会計事務所に提供することで、中小会計事務所が大手事務所と同じ土俵で勝負することが可能になる」と回答した。
「中小会計事務所は、AIを活用することでより低コストかつ効率的に、大手事務所に匹敵する質のサービスを提供できる。例えば、AIを活用した分析によって、従来は大規模なデータ分析部門を持つ大手事務所にしかできなかった価値の高いカスタマイズされたコンサルティングサービスの提供が可能になる」(ウッド氏)
AICPAによると、生成AIの導入によって競争力の強化も見込めるという。同協会は、AIを活用した会計ソフトを提供するDigits Financialのジェフ・サイバート氏(CEO)の言葉を引用しながら、「最も多くのリソースを持つ企業ではなく、早期に導入した企業が勝者となるためだ」と述べた。
AICPAの見解は必ずしも普遍的なものではない。
財務・経理サービスを提供するEarnest & Associatesのトーマス・フィッツジェラルド氏(CFO《最高財務責任者》)は、「中小会計事務所にとって、AI技術だけで大手事務所と対等に渡り合うことは容易ではない。大手事務所は中小会計事務所に比べて規模もリソースも大きいので、AI技術をいち早く導入し、その最先端に立てる規模を持っているだろう」と答えた。
それでも公認会計士のフィッツジェラルド氏によれば、生成AIにはフォレンジック(法廷)会計や監査、売上・消費者行動・資源の将来的な入手可能性の予測、サプライチェーンが途絶する可能性を予測するなど、幾つかの魅力的な用途がある。
さらに、財務担当者は生成AIを活用することで、「文書や電子メール、契約書のレビュー、補足資料のデータ収集、トレンドの調査、会計方針の立案、注文データや支出傾向に基づく予算再配分の合理化方法などの効率化が可能であることを実感するだろう」とAICPAは述べている。
「AIは特に知識労働者の生産性を劇的に向上させ、事務作業を削減する。AIが定型的な手作業を引き受けることで、経理やその他の業務における人材不足の影響を最小限に抑え、人々がより価値の高い活動にシフトできるようになる」(AICPA)
Sage Group plcが提供するAIを活用した請求書処理を利用している顧客は生産性が3倍も向上し、「戦略的なタスクに集中できるようになった」と同社のアーロン・ハリス氏(CTO《最高技術責任者》)は答えた。
しかし、「会計や監査に生成AIを使用することにはリスクが伴う」と話す会計士やビジネスコンサルタントもいる。
「会計事務所がAIシステムに依存し過ぎると、倫理的な懸念や責任が生じるリスクは常にある。AIを使用する際は膨大な量の機密データを扱う必要があるため、データ漏えいや不正アクセスのリスクがあり、顧客の機密性が損なわれる可能性がある。また、AIシステムは完全ではないため、その出力や推奨事項は使用する専門家が慎重に評価する必要があるだろう。そして、AIアプリケーションは倫理基準や会計規則に沿ったものでなければならない」(ウッド氏)
(注1)The Rise of GenAI(CPA.com)
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