日本オラクルは2025年5月期の事業戦略説明会を開催した。取締役執行役社長の三澤智光氏が、グローバルを含めたOracleのクラウドビジネスの概況と日本市場に対する重点施策を説明した。同社が語る「日本のためのクラウド」とは。
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日本オラクルは2024年7月9日、2025年5月期の事業戦略説明会を開催した。取締役執行役社長の三澤智光氏が、グローバルを含めたOracleのクラウドビジネスの概況と、日本市場に対する重点施策を説明した。
会見で三澤氏は、日本オラクルの2024事業年度重点施策として、「日本のためのクラウドを提供」「お客さまのためのAIを推進」の2つを掲げた。この2項目は、前年度と一字一句同じだ。
一般的に、次の年は何らか発展形のタイトルに変える。しかし三澤氏は、「この2つが実を結ぶには時間がかかる。昨年度の成果を、2024年は本格的に普及させる年だと認識している」と話し、日本オラクルの強みを生かしたクラウド推進をブレずに進める決意を表明した。
同社は2024年4月に国内の年次イベントを開催した。米国OracleのCEOであるサフラ・カッツ氏が来日し、日本市場に対して今後10年間で80億ドルの投資を実行すると宣言していた。これは日本市場に対する期待の大きさの表れであり、「すでに投資は始まっている」と三澤氏は話す。
日本のためのクラウドとして、期待をかけるテーマの一つが「ガバメントクラウド」だ。「多くの地方自治体で、2024年度末ごろからクラウドシフトが活発になるとみている。自治体向けのパッケージソリューションを提供するITベンダーを、日本オラクルは支援していく」(三澤氏)
そして、ガバメントクラウドにも求められる新たなクラウドの潮流は、データ主権を確保した「ソブリンクラウド」だ。地政学的リスクの高まりによって、ソブリンクラウドのニーズが高まっていると三澤氏は話す。
顧客のデータセンター内にオラクルのクラウド基盤である「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)を設置して専用クラウドを提供する「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」、パートナー向けクラウドの「Oracle Alloy」の受注が大きく伸びていると三澤氏は説明し、日本オラクルのクラウド戦略は専用クラウド市場で優位に立っていることを説明した。
専用クラウド導入の先行事例は、野村総合研究所(NRI)によるものだ。国内の金融機関向け基幹システム構築で強みを持つ同社は、世界で初めてOracle Dedicated Region Cloud@Customerを採用し、2022年11月から証券会社向けプラットフォームの提供を開始した。「NRIのデータセンターで稼働するOCIで、国内の個人向け証券会社の約8割のサービスが稼働している。これほどの規模のミッションクリティカルなシステムが、クラウドで動く例は珍しい」と三澤氏はOCIの性能の高さを説明する。
同社はさらに、2024年4月からOracle AlloyによってNRIのデータセンター内でOCIを運用するサービスを稼働させた。これによってNRIは、データを自社のデータセンター内で保護しながら、顧客のクラウドシフトを進められるようになった。
また富士通も、ソブリンクラウド要件に対応するクラウドとしてOracle Alloyの導入を決定し、2025年4月をめどにデータセンターを建設しているという。これは、前述した地方自治体のクラウドシフトを意識した投資だろう。
「既存のパブリッククラウドでは、お客さまが求める要件の全てを満たせくなっている。つまり、『大は小を兼ねない』ということだ。日本オラクルは、専用クラウドの構築で、こうしたニーズに応える」(三澤氏)
「Oracle Cloud」は、既存のクラウドベンダーが持たない付加価値を顧客やパートナーに提供するが、その一方で、クラウドベンダーと深く連携した「マルチクラウド戦略」も進めている。すでにMicrosoftとのクラウド連携を強化しており、「Microsoft Azure」とOCIの東京リージョンの両データセンターは、インターコネクトによって転送料なしで高速の接続をしている。
またグローバルでは、これをさらに発展させたビジネスも進む。Microsoft Azureのデータセンター内にOCIを構築し、遅延のないデータベースサービスを提供している。国内でも同様のサービスが、2024年末までに稼働する見込みである。さらに、これらと同様の連携は「Google Cloud Platform」(GCP)とも進めており、すでにOCIの東京データセンターでは、GCPと専用ネットワーク接続を実現している。
「OracleだけがMicrosoft、Google両社のクラウドと接続している。当社の創業者でありCTOのラリー・エリソンが描くマルチクラウド戦略が、着実に進んでいる。クラウドの世界でもお客さまが使いたいサービスを自由に使えるようになる時代が近づいてきた」(三澤氏)
また、昨今急激な進化を遂げるAIについても、Oracleは積極的にサービス提供と関連ベンダーとの提携を進める。直近のニュースでは、「ChatGPT」の開発ベンダーであるOpen AIがOCIを採用することを発表した。Microsoft、NIVIDIAなどのAI関連企業も、Oracleとの提携を表明している。
これらの提携によるクラウドビジネスの急拡大が寄与し、米オラクルコーポレーションが発表した決算では、将来獲得する収益、つまり受注残である「総残存履行義務」がグローバルで約980億米ドル(約15兆円)に及ぶことが明らかとなった。決算発表後の株価が10%近く急騰したことから、市場にとってもオラクルのクラウド事業の成長性はサプライズだったことが分かる。
「Oracleのクラウドは、他のクラウドベンダーより10年遅れて市場に参入した。しかし、遅れた分、最新のテクノロジーを組み込めた。その効果が顕在化し、オラクルのクラウドは先行他社とは違う進化を遂げつつある」と三澤氏は話す。
三澤氏は、2021年の日本オラクルの社長就任当時から、Oracleのクラウドが高い性能を誇る設計思想であることを繰り返し説明してきた。だが当時は、クラウドシフトのプラットフォーム競争が過熱していた。そのなかで日本オラクルの主張は「ミッションクリティカルなシステムにも耐える高性能なクラウド」というもので、一部の市場に特化したサービスであるかのような印象も受けた。
しかし、生成AIの登場がその流れを変えた。生成AIの学習では膨大な量のデータを処理する必要があり、GPUを多数搭載したクラウドデータセンターの性能が、AIの能力を左右する。
三澤氏によると、クラウドに数万のGPUを置いたクラスタを組めるクラウドベンダーは、とOracleとMicrosoftの2社しかいないという。このとき、Microsoft Azureでは高性能だが高価なInfiniBandでクラスタを組む必要があるが、Oracleはイーサネットによる圧倒的に高いコストパフォーマンスでクラスタを構築できる点が強みとした。
「OCIは、GPUクラスタを含め、生成AI向けのクラウドとして世界最大規模の実績を誇っている。この高い実力を日本市場にも投入していく。すでに、東京、大阪のOCIリージョンに数千のGPUを設置し、企業向け生成AIソリューションを展開する準備が整いつつある」(三澤氏)
加えて、生成AIを企業が活用する際は、社内のデータベースとの連携が重要であり、AIに対応するデータベースの検索能力が求められる。Oracleでは新しいバージョンのデータベース「Oracle Database 23ai」で、文書や画像、動画、音声などの類似性を、従来と同じSQL構文で検索できる「AI Vector Search」という機能を搭載した。
三澤氏は、他社とは違う進化によって、先行するクラウドベンダーと争うのではなく、パートナーとして連携する道を選んだと語る。その結果、Oracleはクラウド市場で独自のポジションを獲得しつつある。このゲームチェンジによって、他のベンダーを含めたクラウド市場全体が拡大すれば、それに比例してオラクルへの引き合いが増え、受注残を積み上げて将来の事業成長につながる好循環を生みつつある。「クラウド事業者のためのクラウド」を提供する日本オラクルの戦略は成功しているかもしれない。
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