変化の早い今の時代に、ベンダーの都合に振り回されることなくアプリケーションやITインフラを維持したい――。そのためにユーザー企業は何をすべきでしょうか。
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IT業界で働くうちに、いつの間にか「常識」にとらわれるようになっていませんか?
もちろん常識は重要です。日々仕事をする中で吸収した常識は、ビジネスだけでなく日常生活を送る上でも大きな助けになるものです。
ただし、常識にとらわれて新しく登場したテクノロジーやサービスの実際の価値を見誤り、的外れなアプローチをしているとしたら、それはむしろあなたの足を引っ張っているといえるかもしれません。
この連載では、アイ・ティ・アールの甲元宏明氏(プリンシパル・アナリスト)がエンタープライズITにまつわる常識をゼロベースで見直し、ビジネスで成果を出すための秘訣(ひけつ)をお伝えします。
「甲元宏明の『目から鱗のエンタープライズIT』」のバックナンバーはこちら
最近、「プラットフォーム」を名乗るIT製品やサービスが多く登場しています。「プラットフォーム」は、昔から存在しているIT用語ですが、なぜか最近またよく使われるようになりました。
そもそも「プラットフォーム」とはどういう意味で、具体的に何を指すのでしょうか。
ITに長く携わっている人は、あまり疑問を持たずに「プラットフォーム」という単語を使ってきたでしょう。しかし、「プラットフォームの意味は?」と尋ねられると、すぐに答えられない人も多いのではないでしょうか。IT業界にはいわゆる「謎ワード」が氾濫しています。「プラットフォーム」もその一つと言ってよいでしょう。
AmazonやAlphabet、Meta、Appleなどは「プラットフォーマー」と呼ばれています。特定のビジネス分野において巨大な存在感を発揮している企業を「ビジネスのプラットフォーム」という意味でこう呼んでいるのです。しかし、日本のIT業界では「プラットフォーム」をこのような意味で捉えることは少なく、アプリケーションやサービスのITインフラを指すことの方が多いと思います。
「platform」の語源はフランス語で、「少し高くなった面や土地」を意味する「plate-forme」が中世期に英語に取り入れられたとの説もあります。このような背景から、「プラットフォーム」はITサービス、アプリケーションの基盤や土台を意味するようになったと考えられます。
ITに長く携わっている人ほど、「プラットフォーム」を「統合的なIT基盤」と解釈する傾向にありますが、前述の通り、「プラットフォーム」は「統合的なIT基盤」だけを指すわけではありません。では「プラットフォーム」は、「ITインフラ」や「IT基盤」と何が違うのでしょうか。
「プラットフォーム」の利用例を調べると、実際には「プラットフォーム」と「ITインフラ」や「IT基盤」はほぼ同じものを指していることが多くあります。「ミドルウェア」や「アプリケーション開発、実行ツール」などを「プラットフォーム」と称するケースもあります。
つまり、「プラットフォーム」を名乗る製品やサービスは単なる商用ソフトウェアにすぎず、魅力的な語感を持つ「プラットフォーム」という単語に重要な意味はないというのが筆者の見立てです。
そもそも「IT基盤」と「ITインフラ」の区別はあいまいです。本来、「IT基盤」は「企業グループ全体で統合、統一されたITインフラ」を指すはずですが、実際にこうした環境を「IT基盤」と称するケースはむしろまれで、「IT基盤」が単なる「サーバ群」や「単一のITインフラ」を指しているケースも多くあります。
筆者は、「プラットフォーム」よりも「アーキテクチャ」の方がはるかに重要だと考えています。「アーキテクチャ」とは、アプリケーションやITインフラをどのように構築、運用するかという設計思想を指す言葉です。企業や組織において、「アーキテクチャ」が単一であることはまれです。自社のアーキテクチャを意識せずにアプリケーションやITインフラを設計する日本企業も多くあります。ビジネスやアプリケーションごとにアーキテクチャを選択しているケースも多く見られます。
レジリエンス(回復力、耐久力)の高い企業アプリケーションを構築するためには、明確な「アーキテクチャ」を持つことが重要です。変化が激しい時代には、テクノロジーやベンダー製品のライフサイクルに左右されずに、アプリケーションやITインフラを維持できるアーキテクチャを持つことが求められます。
「マイクロサービス・アーキテクチャ」はその有力候補ですが、他にも選択肢はあります。一つの明確な「アーキテクチャ」の下に多種多様な「プラットフォーム」を構える「シングルアーキテクチャ&マルチ・プラットフォーム」が今、求められています。
「プラットフォーム製品」を導入すれば、統合的なIT環境が構築できると多くのITベンダーは吹聴しますが、そういった宣伝文句には耳を貸さない方が得策だと筆者は考えています。
三菱マテリアルでモデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革やCRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州や北米、アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。クラウドコンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを手掛ける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。
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