絶対王者NVIDIAを脅かす? AMDが仕掛けた「あの買収」の影響を解説CIO Dive

AIインフラの覇権を握るNVIDIA。AMDによる幾つかの買収によってAI、AIチップ市場をめぐる状況は変わるだろうか。

» 2024年09月13日 08時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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CIO Dive

 生成AIをはじめとするAIサービスが次々に登場する中、それらのサービスを快適に利用するためのインフラ整備に必要なAIチップの需要が高まっている。

 これまでシェアトップを誇ってきたNVIDIAだが、他メーカーも新しいチップの開発や買収によって形成逆転を狙っている。

 Advanced Micro Devices(以下、AMD)が2024年に発表した買収は、現在の勢力図にどのような影響を与えるのか。

AMDが仕掛けた「あの買収」の影響は?

 AMDは49億ドルを投じて、クラウド・アーキテクチャ・ソリューション・プロバイダーのZT Systemsを買収すると2024年8月19日(現地時間、以下同)に発表した(注1)。

 この動きにより、AMDのチームに1000人のクラウドデータセンターエンジニアが加わることになり、GPU(Graphics Processing Unit)の展開を強化しつつ、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoftといったハイパースケーラーへのサービス提供範囲が拡大する。

 「ZT Systemsのチームは、シリコンからソフトウェア、ラックやクラスターのレベルまで、完全なAIソリューションを提供するために必要とされる専門知識を備えている。当社のシリコンとソフトウェアの能力を補完してくれるだろう」と、AMDのリサ・スー氏(会長兼CEO)は、2024年8月19日の投資家向け電話会議で述べた(注2)。

 「ZT Systemsのおかげで、当社の主要顧客であるハイパースケーラーがAMDのAIインフラをより迅速に導入できるようになる」(スー氏)

 AMDは規制当局から承認を得て、2025年前半にZT Systemsとの取り引きを完了する予定だ。同社はZT Systemsの設計部門とエンジニアリング部門を統合する計画だが、一方で、「年商100億ドル規模のデータセンターインフラ製造事業を買収してくれる戦略的パートナーを探す」とスー氏は述べた。

 AIに最適化されたインフラを提供するための競争が過熱する中、AMDはNVIDIAのGPU支配に挑戦しようとしている。

 同社は2023年12月にGPUアクセラレータ「AMD Instinct MI300シリーズ」を発表し、2024年6月にはさらなる性能強化に向けて積極的な中期戦略を発表した(注3)(注4)。

 ハイパースケーラーがAIを活用して大規模なインフラ構築を進める中、AMDの第2四半期のデータセンター向け売上高は前年同期比115%増の28億ドルと過去最高額を記録した(注5)(注6)。AMD Instinct MI300シリーズは現在、「当社史上、最も急成長している製品だ」とスー氏は2024年8月19日に述べた。

それでも形勢逆転ならずか?

 それにもかかわらず、NVIDIAのAI事業は2024年上半期においてAMDを圧倒した。2024年3月に「NVIDIA Blackwell GPU」ファミリーを発表した後、2024年4月28日までの3カ月間のNVIDIAの売上高は前年同期比262%増の260億ドルに急増した(注7)。一方、AMDの同年6月29日までの3カ月間の総売上高は58億ドルにとどまった(注8)。

 AMDのZT Systemsの買収は、ライバルメーカーに追い付くための幅広い取り組みの一環だ。

 AMDは、2024年7月に6億6500万ドルを投じて欧州のAI企業Silo AI Oyを買収し、同年8月第3週にこの取り引きが完了した。この買収によってAMDのソフトウェア能力が強化され、300人のAI科学者が加わった(注9)。

 スー氏は、「ZT Systemsの設計能力は、AMDの多角的なAI戦略を強化するものだ」と述べる。「シリコンやソフトウェア、システムソリューションの3つ全てが顧客にとって重要だ。われわれが目指すのは当社のシリコン能力やソフトウェア能力、そして今回加わるシステムソリューション能力を駆使して顧客がそれらを迅速に導入できるようにすることだ」(スー氏)

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